国立感染症研究所

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高齢者施設におけるヒトメタニューモウイルス感染症集団発生疑い事例

(IASR Vol. 38 p248-250: 2017年12月号)

ヒトメタニューモウイルス(hMPV)感染症は国内では春から夏にかけて流行し, RSウイルスと同様に, 乳児と高齢者にも上気道および下気道に炎症を起こす。潜伏期間は4~5日, 感染経路は飛沫感染と接触感染と考えられ, 呼吸困難や脱水などの重症度に応じた対症療法が中心となる。

2016年7~8月にかけて当保健所管内の高齢者施設でhMPVが原因の可能性が疑われる呼吸器疾患の集団感染を経験したため, その概要を報告する。

探知および症例定義

2016年8月26日に, 施設Aより保健所に「2016年7月30日から発熱・咳・喘鳴を訴えている入居者が多数発生, 数名が入院している」との報告があった。同日保健所が施設訪問し, 呼吸器疾患の発生状況および施設対応の調査を行った。症例定義を2016年7月30日~9月20日に当該施設の入所者および職員で, 咳, 発熱, 痰がらみの喘鳴の症状を少なくとも1つ以上呈した者とした。 

施設概要

施設Aは特別養護老人ホームで, 3階建ての2階と3階が入居スペースである。発生のあった3階は東・西・北・新北の4つのブロックに分かれ, 東および西ブロックは一直線の廊下で繋がっていたため同一ブロック(東西ブロック)とみなした。北および新北ブロックは東西ブロックへの渡り廊下で繋がっていた。東西ブロックの中間地点と, 北ブロックの中心部に計2カ所のホールがあった。3階は入居者数51名, 職員数28名で, 入居者は車いす利用者が多く, 日中は大半の人がホールで過ごしていた。

記述疫学

入所者の発症者はすべて3階入所者28例(54.9%)で, 職員の発症者は3例(10.7%)であった。性別は入所者が男性5例(17.9%), 女性23例(82.1%) で, 職員は3例すべて女性であった。年齢は入所者の中央値が87.5歳(範囲:73-100歳), 職員の中央値が54歳(範囲:40-72歳) であった。発症日は7月30日~8月26日で, ピークは8月14日であった()。初発例は7月30日に発症した東西ブロックの居住者(3例)であった。症状は咳が26例(83.8%)で最も多く, 次いで発熱17例(54.8%), 痰が絡む喘鳴15例(48.4%)であった。発症した入所者のうち9例(32.1%)は入院し, うち3例(10.7%)が死亡した。死因は3例とも老衰であったと施設から報告を受けた。

初期の症例は東西ブロックに集中し, 8月12日に新北ブロックから症例が発生し, 8月13日に北ブロックから症例が発生した。ブロック別の症例数は東西ブロックが18例, 北ブロックが4例, 新北ブロックが3例であった。職員は8月10日, 15日, 17日に1例ずつ発症した。初期の3例に関する感染源・感染経路は特定できなかった。入所者の発症者は全員が食事を同一のホールでとり, 日中もホールで過ごしていたが, 症例や職員間の日中の生活での疫学リンクは見出せなかった。

施設は8月13日に発症した1例に対してインフルエンザ迅速診断キットによる検査を実施し, 陰性であった。保健所の訪問調査時点で初発例が出た日から25日が経過し, 流行がほぼ終息に近い時期であった有症状の2例(8月20日と26日発症)より各1検体の咽頭ぬぐい液を採取し, 東京都健康安全研究センターにおいてhMPV, RSウイルス, ヒトパラインフルエンザウイルスに絞ってPCR検査を実施し, 8月26日に発症した1例からの検体がhMPV陽性となった。なお, コロナウイルス, ライノウイルス, アデノウイルス, ヒトボカウイルスの検査は実施しなかった。検出されたhMPVはウイルスの性状等について解析を行っていない。

対策と経過

施設は集団発生探知後に発症者のコホーティング, 行事の中止, 他フロアとの交流中止, 強酸性水による環境消毒と空間への噴霧, 面会場所の限定等の対応を行っていた。8月26日の保健所の立ち入り調査で, 初発例を含む症例の数例に認知症による徘徊, ホールでの発症者の食事摂取が認められた。発症者のコホーティングが徹底されていなかったことへの対応を含め, 職員のスタンダードプリコーションの継続, 施設から保健所への定期的な経過報告等に関する指導を行った。強酸性水の空間噴霧はエビデンスが認められないと判断し, 中止を指導した。8月27日以降の新規発生はなかったが, 死亡者が発生したためウイルス排泄期間の7~14日を考慮し, 9月20日に終息を確認した。

考察とまとめ

今回, 夏季に高齢者施設において呼吸器症状を呈する高齢者の集団感染を経験し, 最終症例から検出された病原体がhMPVであった。hMPVの流行時期はわが国では主に夏から秋であるが, ピークを過ぎても検出報告があり, 2016年は, 9月下旬まで継続してウイルス検出が報告されていたため(https://nesid4g.mhlw.go.jp/Byogentai/Pdf/data99j.pdf), 本事例はhMPVのアウトブレイクの可能性ありと考えられた。

本事例で, 感染拡大に寄与した可能性のある要因として3点が挙げられた。

1点目は発症者の不十分なコホーティングである。

2点目は, 職員による感染拡大の可能性である。当該施設では, 職員が8月10日, 15日, 17日に1例ずつ発症したことから, 職員が入所者のケアの際に北および新北ブロックへ感染伝播させた可能性が否定できないと考えられた。

3点目は施設の対応の遅れである。施設職員が集団発生に気がついた8月13日時点で既に10例以上の発症者が発生し, 保健所への報告時点(8月26日)で入所者と職員の31例が発症していた。より早い段階での探知および報告は早期対策につながり, 感染拡大防止ができた可能性があった。

この事例を機に, 保健所は当該施設職員とともに振り返りの機会を持ち, 平常時の入居者の健康状況確認の徹底, 感染症発生時対応と保健所への早期連絡等を改めて確認した。

本事例は初期症例における感染源・感染経路が不明であったこと, 最終症例からの病原体検出のみであったことが限界であった。本事例と同様の高齢者施設では, 呼吸器症状を中心とした集団感染を疑う状況である場合は, 季節にかかわらず保健所への連絡および早期対策が重要であると示唆された。

 

東京都西多摩保健所保健対策課
 糸川須美 明石眞理子 平野宏和
東京都健康安全研究センター
 健康危機管理情報課 岩下裕子 村上邦仁子
 ウイルス研究科 鈴木 愛 長谷川道弥

 

 

 

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