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当初, 肺炎球菌が疑われた高齢者施設でのヒトメタニューモウイルス(hMPV)による集団感染事例―神戸市

(IASR Vol. 40 p144-145:2019年8月号)

探知と疫学調査

A施設は特別養護老人ホーム(入所者101名, 職員70名)で, 5階建ての3~5階が入居スペースとなっている。入所者の食事は各階食堂で提供されている。

2018年6月23日, A施設から管轄保健所保健センターに「入所者のうち14名が発熱・咳嗽等の呼吸器症状を呈し, その一部が肺炎と診断されている。うち4名が入院している。」と報告があった。保健所保健センターは速やかに状況確認等を開始するとともに, A施設に対し感染防止対策の徹底強化を依頼した。

施設全体における有症者は28名で, そのうち入所者は27名, 職員は1名であった。発症した入所者はすべて4階の入所者で, 4階における有症者の割合は81.8%であった。初発例はショートステイ利用者で滞在初日から症状があった(6月11~18日滞在, 認知症による徘徊あり。咳嗽, 喀痰, 声枯れ, 発熱38℃)。有症者の症状は発熱が25例(89.3%) で最も多く, 次いで咳嗽24例(85.7%), 声枯れ12例(42.9%), 倦怠感9例(32.1%) であった。有症者のうち6例(21.4%) は肺炎を発症し, 5例(17.9%)は入院した。

検査結果

医療機関において, スクリーニング検査注)を行った。その結果, 有症者28名中23名が肺炎球菌尿中抗原陽性であった。当初は肺炎球菌による集団感染を疑ったが, 血液検査の結果は白血球数の上昇が無く, 胸部CT画像所見はすりガラス状影で, 細菌性肺炎の典型的所見とは異なる結果であった。そのため, ウイルス性感染症が疑われ, 医療機関に保存されていたインフルエンザウイルス検査用の残液2検体について, 神戸市環境保健研究所で検査を実施した。結果, 2検体(入所者の60代女性, 職員の30代女性により採取)とも, RSウイルス, ヒトパラインフルエンザウイルスは陰性となったものの, hMPVの遺伝子が検出された1-3)

注)スクリーニング検査詳細:喀痰と咽頭ぬぐい液の細菌培養検査, インフルエンザウイルス(イムノクロマト法), マイコプラズマ(PA法), 尿中抗原(レジオネラ, 肺炎球菌), クラミジア(IgG, IgA), トリコスポロン抗体検査

系統樹解析

hMPVを検出した2症例について, RT-PCR法(1st)で得られたhMPV遺伝子増幅産物からダイレクトシークエンス法によりF遺伝子の部分配列(366塩基)を決定した。また, 神戸市内におけるhMPVの流行型との比較を行うために, 神戸市内で検出されたhMPV14例(2017年1~4月:2例, 2018年2~5月:12例)のF遺伝子の部分配列を用いて, 近接結合法による系統樹解析を実施した(図1)。その結果, 症例1および2の塩基配列は100%一致し, 遺伝子型はA2bであった。2018年2~5月に神戸市4区に渡る範囲で検出された8例も本事例と同一の遺伝子型であった。また, 前シーズンである2017年1~4月に検出された2例(遺伝子型B1)の遺伝子型とは異なることが明らかとなった。

対策と経過

A施設は感染症の集団発生探知後, 嘱託医の協力のもと, 入所者のフロア間の行き来禁止, 手すりやドアノブのアルコール消毒, 職員の手洗いうがい励行等の対応を行っていた。

6月25日の保健所保健センターの疫学調査後, 4階の面会禁止, 職員・利用者のフロア間での行き来の制限, 外部からのマッサージ・歯科往診の中止, 手洗いうがい, 手すり等のアルコール消毒の徹底などについて協議し, 実行した。また, 今後の利用者に対する肺炎球菌予防接種の勧奨を行うこととした。

6月26日を発症ピークとして7月4日以降の新規発生がなかったためhMPV排出期間の7~14日を考慮し, 7月13日に終息を確認した(図2)。

考 察

本集団発生事例において, 発生時の有症者から肺炎球菌尿中抗原が検出されたため, 当初は肺炎球菌による集団感染と考えられた。しかしながら細菌培養検査では肺炎球菌はまったく検出されず, 本事例で培養検査前に抗菌薬が投与されていたのは1名であったため, 抗菌薬投与の影響は限定的である。肺炎球菌尿中抗原は感染後1カ月以上尿中に排出されるという報告4)があり, 検体採取時期が肺炎球菌の排菌時期を過ぎていた可能性も考えられ, 本集団感染と近い時期に肺炎球菌に感染していた可能性は否定できないが, 血液検査の結果等から考察して, 今回の集団発生の原因は肺炎球菌等の細菌感染によるものとは考えにくい。

本集団感染の発症ピーク前半と後半に肺炎症状を呈した2名からは, 当研究所において各種呼吸器ウイルスの核酸増幅検査を実施したところhMPVが検出された。さらに2症例のhMPVの塩基配列が100%一致したことからhMPV(A2b型)が本集団感染の主因と考えられた。

また, 系統樹解析により神戸市内でこの時期に由来を同じくするhMPVが広範囲に渡り流行を起こしており, 本集団感染の一因となったことが示唆された。

まとめ

以上の結果から, 当時, 神戸市内で流行していたhMPV(A2b型)が主因の呼吸器感染症の集団発生であると考えられた。

hMPV感染症は, 国内では春期を中心に流行し, 乳幼児や高齢者では重症化する割合が高いとされる5)。本事例でも有症者28名のうち6名が肺炎症状を呈する重症例であった。このことから特に高齢者施設における集団発生には注意が必要で, その予防や行政対応は重要であると考えられる。

一方, hMPVの検査法について, 本事例では迅速診断キットで陰性だった検体がRT-nested PCR法では陽性となった。hMPVの検出ではRT-nested PCR法が最も感度が高い検査法である6,7)ため, 症状などからhMPVが疑われる場合は, 迅速診断キットの結果に関わらずRT-nested PCR法の実施を検討する必要があると考えられた。

 

参考文献
  1. 国立感染症研究所. 病原体検出マニュアル(ヒトメタニューモウイルス)
    https://www0.niid.go.jp/niid/reference/hMPV-manual.pdf
  2. Erdman, et al., JCM 41: 4298-4303, 2003
  3. 国立感染症研究所, パラインフルエンザウイルス検査マニュアル, 平成21年7月版
    https://www0.niid.go.jp/niid/reference/PIV-manual.pdf
  4. 佐藤長人ら, 日呼吸会誌 42(3): 247-252, 2004
  5. 菊田英明, ウイルス 第56巻 第2号: 173-182, 2006
  6. 大宮 卓ら, 医学検査 Vol.66 No.3: 212-216, 2017
  7. 水村綾乃ら, 千葉市環境保健研究所年報 第21号: 47-50, 2014

 

神戸市環境保健研究所
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