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重症心身障害者病棟で発生したパラインフルエンザウイルスの集団感染事例―富山市

(IASR Vol. 41 p170-171: 2020年9月号)

パラインフルエンザウイルスによる集団感染事例が, 2019年6月, 富山市内の医療機関で発生したので報告する。

探 知

6月X日, 医療機関より, 富山市保健所に「重症心身障害者病棟において, 入院患者59名中14名が発熱, 咳嗽等の上気道炎症状を呈している」と報告があった。

疫学調査

発症者の定義を37.5℃以上の発熱, または咳嗽が認められた者とし, 発症者の発生状況の把握を行うとともに, 院内での感染防止対策の実施状況の確認を行った。

結 果

6月X−11日より発症者を認め, 6月X+11日目までに, 入院患者(年齢11~79歳, 平均年齢44歳)59名中, 27名が発症した。発症者の症状は, 発熱が26名, 咳嗽が19名であった。発症者のうち2名は集中管理が必要となり, 他院へ転院となった。職員は47名中, 13名が発症し, 発熱は2名, 咳嗽は13名全員に認められた。

入院患者の発症は, 6月X−1日にピークとなり, 6月X+11日以降, 認められなかった(図1)。また, 発症者は初発例の病室から, 周囲の病室へと徐々に拡大していた(図2)。初発例へは, 発症前の7日間, 面会等, 外部からの接触はなかった。

病棟では, チーム看護を行っており, 各チームの発症状況を調べたところ, 発症者数に差が認められ, Aチームが担当する患者は29名中18名が発症し, Bチームが担当する患者は30名中9名が発症していた。看護スタッフでは, Aチームに所属する者は15名中9名が発症していたが, Bチームでは発症者を認めなかった。チームに所属しないスタッフは14名(医師3名, 看護師1名, 介護士5名, 理学療法士1名, 児童指導員4名)おり, そのうち医師2名, 看護師1名, 介護士1名の計4名が発症していた。

多くの入院患者は自力移動が困難であったが, 療育等により毎日共用スペースに集められていた。病棟では, 6月X−6日に発症者を病室内隔離とし, 6月X−3日から共用スペースの利用を禁止する対策が取られていた。

ウイルス検査

発症した入院患者の複数名に対し, インフルエンザウイルス, アデノウイルス, RSウイルス, ヒトメタニューモウイルスの迅速検査を実施したが, いずれも陰性であった。さらに, 発症者3名に関し, 富山県衛生研究所にて, ライノウイルス, ヒトボカウイルス, ヒトメタニューモウイルス, アデノウイルス, インフルエンザウイルス(A型, B型), エンテロウイルス, RSウイルス, パラインフルエンザウイルス(1-4型), コロナウイルス(OC43株, NL63株)に対するリアルタイムPCR検査を実施したところ, パラインフルエンザウイルス3型が検出された。また, 後日実施したペア血清によるパラインフルエンザウイルス3型の抗体検査では, 27名中19名が陽性であった。

考 察

パラインフルエンザウイルスには1-4血清型があり, 血清型により流行には季節性がみられる。1型は初夏から秋口, 2型と4型は秋から冬, 3型は春から夏に多く流行が認められる。潜伏期間は, 3~6日程度である。パラインフルエンザウイルス感染症の多くは散発性であるが, 高齢者施設や重症心身障害者病棟のような比較的易感染状態にある集団では流行が起こることも稀ではない1,2)

今回, 我々は, 重症心身障害者病棟におけるパラインフルエンザウイルス3型の集団発生事例を経験した。本事例も過去の報告事例にある通り, 春~夏の時期に発生していた。初発例へは潜伏期間中, 外部からの接触はなく, 病棟への侵入経路は不明であった。自力移動が困難な患者が多い状況で, 当初, 発症者は初発例の病室からAチーム内でのみ徐々に拡大していたことから, 共用スペースでの一斉曝露ではなく, スタッフが感染拡大に関与した可能性が考えられた。その後, 感染はBチームへと拡大したが, これにはチームに所属しないスタッフによる媒介が考えられた。また, 本事例では咳嗽を認めた患者が多く, 患者からスタッフへの感染は, 眼粘膜の飛沫への曝露や, 密着度の高い看護による接触に起因した可能性が考えられた。そのため, 飛沫・接触感染に対する適切な予防策の実施が, より早期から必要であったと考えられた。

重症心身障害者は, 手指衛生や咳エチケットを行うことが難しく, 施設内の集団発生の防止には, 看護スタッフだけではなく病棟に関わるすべてのスタッフの標準予防策の徹底と, 病棟内の環境整備が重要であると考えられた。高齢者にも同様のことがあてはまるため, 高齢者施設においても, 日常からの標準予防策と環境整備の啓発に努めていきたいと考える。

謝辞

本報告を行うにあたり, 情報提供にご協力いただきました, 関係機関, 関係者の皆様に深謝いたします。

 

参考文献
 
 
富山市保健所          
 石川智子 藤川美香 宮﨑英明 元井 勇 瀧波賢治      
国立病院機構富山病院      
 小泉順平 森 こずえ 三浦正義
富山県衛生研究所 小渕正次

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan