印刷
IASR-logo

東京都におけるRSウイルス感染症の流行とRSVの遺伝子解析(2021年第1週~第31週)

(IASR Vol. 42 p261-263: 2021年11月号)

 

 RSウイルス感染症は, 乳幼児期に多く感染する急性呼吸器感染症である。その病原体であるRSウイルス(respiratory syncytial virus:RSV)はPneumovirus科Orthopneumovirus 属に分類される1本鎖(-)RNAウイルスで, Gタンパク質に対する血清型によりA型とB型の2つのサブグループに大別される。また, A型とB型は, Gタンパク質遺伝子領域の塩基配列により, それぞれ複数の遺伝子型に型別される。

 2020年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響もあり, 他の多くのウイルス性疾患と同様にRSウイルス感染症の報告数が著しく少なかった。2021年には東京都においても第2週付近から報告数の増加がみられ, 第28週には定点当たりの報告数が8.9人となり, 過去6年間で最も大きな流行となっている。そこで, 2021年前期に東京都で検出されているRSVの遺伝子型および疫学的特徴について解析した。

 2021年の第1~31週までに, 感染症発生動向調査事業により都内病原体定点医療機関から東京都健康安全研究センターに搬入されたRSウイルス感染症を疑う検体は, 51件であった。うちリアルタイムPCRによる遺伝子検査1)でRSVが検出された検体は44件で, A型が11件, B型が33件であった。既報2-4)のGタンパク質遺伝子領域の超可変領域を含む塩基配列により型別した結果, 近年国内で検出されるRSVの遺伝子型と一致し5), A型はすべてON1, B型はすべてBA9に分類された(図1)。さらに, 都内検出のA型はON1の中で2つのクラスターを形成し, クラスター2)は2018年の中国由来株と近縁を示した。一方で, B型はBA9の中で, 当センター検出株のみからなるクラスターを形成した。

 近年の都内で検出されたRSVの主流となる型は, A型とB型とが隔年で遷移する傾向が認められてきたが, 2021年は75%がB型, 25%がA型である(第31週現在)。しかし, B型検出例の中には, 保育所内での集団発生を疑う事例に関連して, 同一医療機関から複数報告された事例も含まれており, 全体的な流行に占めるA型, B型の割合は明確とはいえない。なお, 病原体定点医療機関の所在地から, A型とB型の流行地域に特異性は認められなかった。

 東京都においてRSVが検出された症例を年齢別に過去のデータと比較すると(図2), 2021年は0歳が検出例全体の7.0%, 1歳が34.9%, 2歳以上が58.1%となっており, 例年よりも乳幼児症例における感染年齢層が高い傾向にある。この要因として, COVID-19の流行および感染予防対策により, 例年RSウイルス感染症に多く罹患する1歳未満の小児が, 2020年に罹患せず免疫を獲得しなかったことが推察され, 既報でも同様の可能性が指摘されている6,7)。2歳以上の感染の増加傾向は全国的にみられ8), 例年と比較して0歳児からの検出数が少ないことも全国的な傾向と合致していた。

 例年, 全国の流行時期は秋から冬にみられてきたが, この数年で, 時期が早まる傾向が報告されている9)。2016年以降の東京都における流行時期においても, RSウイルス感染症の報告数のピークが, 2016年は第40週, 2017年は第35週, 2018年は第37週, 2019年は第36週であったが, 2021年は第28週10)と, 約10週ピークの出現が早まっている傾向がみられた(図3)。

 2021年におけるRSウイルス感染症の流行は, 国内のみならず, 米国などの海外でも認められている11)。インフルエンザなどの他のウイルス性呼吸器感染症の動向とは異なり, COVID-19の流行下において, RSウイルス感染症のみが増加したことは, 今後もサーベイランスの継続と発生予防に関する注意喚起の重要性を示唆している。加えて, 今季大きな流行となった要因や検出ウイルスの特徴など, 集団免疫からの観点を含めて, さらなるデータの蓄積および解析が必要と考えられる。

 

参考文献
  1. 国立感染症研究所, 病原体検出マニュアル「RSウイルス感染症」2020年6月版: 4-9
  2. Peret TCT, et al., J Gen Virol 79: 2221-2229, 1998
  3. Hibino A, et al., PLOS ONE 13: e0192085, 2018
  4. Nagasawa K, et al., Infection, Genetics and Evolution 36: 217-223, 2015
  5. 池田周平ら, 広島県立総合技術研究所保健環境センター研究報告, No. 27: 7-11, 2019
  6. Foley DA, et al., Clin Infect Dis: doi:10.1093/cid/ciaa1906, 2021
  7. 江川和孝ら, IASR 42: 195-197, 2021
  8. 国立感染症研究所, IDWR23(27): 9-11, 2021
  9. Miyama T, et al., Epidemiology and Infection 149: e55, 1-3, 2021
  10. 東京都感染症情報センター, 東京都感染症週報
    https://survey.tokyo-eiken.go.jp/epidinfo/weeklygender.do
  11. CDC, The National Respiratory and Enteric Virus Surveillance System
    https://www.cdc.gov/surveillance/nrevss/rsv/natl-trend.html

東京都健康安全研究センター微生物部
 糟谷 文 森 功次 原田幸子 熊谷遼太 鈴木 愛
 天野有紗 小杉知宏 鈴木 淳 貞升健志  

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan