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G遺伝子上に72塩基の重複を有するRSウイルス変異株

(IASR Vol. 33 p. 99-100: 2012年4月号)

 

RSウイルス(RSV)感染症は感染症発生動向調査事業における5類感染症の小児科定点把握疾患で、本邦においては冬季に流行がみられる急性呼吸器感染症である。RSVは表面蛋白のひとつであるG蛋白に対するモノクローナル抗体の反応性の違いなどから大きくAとBのサブグループに分けられ、さらにサブグループAでは遺伝子型GA1 ~7 、サブグループBでは遺伝子型GB1 ~4 、およびBAなどに分類されている。近年、本邦で検出されるサブグループAの多くが遺伝子型GA2、サブグループBでは遺伝子型BAである。今回、我々はG遺伝子上に72塩基の重複を有する遺伝子型GA2 の変異株を検出したので報告する。

患者は0歳9カ月の男児で、2012年1月10日に発病し、近医でジョサマイシン等を処方されたが解熱しなかったため、1月17日に千葉市内のAこどもクリニックを受診した。

受診時の症状は発熱(39.2℃)、咳嗽鼻汁、軽度の下痢で、血液酸素飽和度は91%と低下、呼気性ラ音を認めたが多呼吸などはみられなかった。受診時に鼻汁を市販RSV迅速診断キットで検査した結果は陰性であった。

なお、その後患者はネブライザーにより低酸素血症が改善されなかったため、他医療機関を紹介され、入院加療となっている。また、この医療機関での検査でインフルエンザ菌が検出されている。

Aこどもクリニックで受診時に採取された鼻汁を検体として、RSVのG遺伝子を標的としたRT-PCR法1) を実施し、得られた増幅産物についてダイレクトシークエンス法で塩基配列を決定した。決定した塩基配列の一部342bpについて系統樹解析を行ったところ、サブグループAの遺伝子型GA2に分類されたが、C末端に72塩基の重複を有する変異株であった〔Chiba-C_24031(AB700370)、〕。なお同時に(RT-)PCR法2-5) を実施したメタニューモウイルス、パラインフルエンザウイルス1~3型、ライノウイルス、ボカウイルスについては陰性であった。また、HEp-2、RD-18S、Vero-E6、CaCo-2、MDCKによる分離培養も陰性であった。

入院した医療機関でインフルエンザ菌が検出されていることから、肺炎症状にどの程度このRSV変異株が関与していたかは不明であるが、DDBJのBLAST検索の結果、本検出株は2011年にカナダで登録された、同じく72塩基の重複を持つ株〔ON67-1210A(JN257693)、ON138-0111A (JN257694)、〕と高い相同性を示しており、海外の株と密接な関係にある可能性が示唆された。

RSVのG遺伝子上に重複を伴う変異としては、サブグループBでC末端に60塩基の重複を有する遺伝子型BAが報告されているが6)、現在、世界中で検出されているRSVのサブグループBの多くが遺伝子型BAである7-9) ように、細胞への吸着に関係しているG蛋白の変異は感染性への影響力が大きいものと考えられ、今後の動向が注目される。

 参考文献
1) Peret TC, et al ., J Gen Virol 79: 2221-2229, 1998
2) Peret TC, et al ., J Infect Dis 185: 1660-1663, 2002
3) Echevarria JE, et al ., J Clin Microbiol 36: 1388-1391, 1998
4) Savolainen C, et al ., J Gen Virol 83: 333-340, 2002
5) Allander T, et al ., Proc Natl Acad Sci USA 102: 12891-12896, 2005
6) Trento A, et al ., J Gen Virol 84: 3115-3120, 2003
7) Rebffo-Scheer C, et al ., PLoS One 6: e25468, 2011
8) Sovero M, et al ., PLoS One 6: e22111, 2011
9) van Niekerk S and Venter M, J Virol 85: 8789-8797, 2011

千葉市環境保健研究所
田中俊光 横井 一 水村綾乃 木原顕子 都竹豊茂 中台啓二
まなこどもクリニック 原木真名

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