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RSウイルス感染症 2018~2021年

(IASR Vol. 43 p79-81: 2022年4月号)

 

 RSウイルス(respiratory syncytial virus:RSV)はニューモウイルス科オルソニューモウイルス属に属するウイルスである。かつてはパラミクソウイルス科ニューモウイルス亜科ニューモウイルス属のウイルスとしてRSVという名称であったが, 現在の正式名称はヒトオルソニューモウイルスであり, RSVは通称となっている。RSVは表面抗原であるGタンパク質の性状によりサブグループA, Bに大別され, さらにG遺伝子の塩基配列からそれぞれ複数の遺伝子型に分類される(本号4&6ページ)。RSVは世界中に広く分布しており, ほぼすべてのヒトは幼児期に感染する。症状は軽症の感冒様症状から下気道感染に至るまで様々で, 特に生後6か月齢未満で感染すると重症化するといわれる(本号7ページ)。また, RSVは成人にも容易に再感染し, 近年, 先進国では高齢者における重症例が問題となっている(本号9ページ)。RSウイルス感染症は感染症法における5類感染症(小児科定点把握)であり, 指定届出機関(全国約3,000カ所の小児科定点医療機関)は毎週, 保健所に届け出なければならない。なお, 届出には検査診断が必須である(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-15.html)。

RSウイルス感染症患者発生状況

 感染症発生動向調査(NESID)におけるRSウイルス感染症患者の定点当たり報告数は, 2018, 2019年はともに第27週(7月)頃から増加し始め, 第37週(9月)にピーク(2018年報告数:2.46/定点, 2019年報告数:3.45/定点)になり, 年末にかけて減少した。2020年は, 第15週(4月)頃までは例年とほぼ同等の定点当たり報告数であったが, 5~8月はより少ない報告数で推移し, 9月頃から増加傾向に転じたが年間を通して大きな流行はなかった。2021年になっても前年からの増加傾向は継続し, 第15週(4月)に定点当たり報告数が1.0を上回り, 第28週(7月)にピーク(5.99/定点)となった。各年の定点当たり報告数(年間報告数)は, 2018年:38.29(120,743), 2019年:44.39(140,093), 2020年:5.74(18,097), 2021年:71.96(226,823)であった(図1)。

 RSウイルス感染症の地域別の流行状況は, 2014年以降, 夏季に沖縄県で流行があり, 次いで全国に広がる傾向にあった(IASR 35: 137-139, 2014)。流行のピークは2015年までは年末であったが2016年からは早まり, 2017年は9月であった(https://www.niid.go.jp/niid/ja/id/542-disease-based/alphabet/respiratory-syncytial/idsc/iasr-topic/8473-466t.html)。2018, 2019年も夏季に沖縄で流行があり, その後9月をピークとする全国的な流行となった。2020年は9月頃から沖縄県, 鹿児島県で報告数が増加, 2021年になって3月頃までは主に九州, 次いで近畿で増加し, その後, 全国的に広がり7月にピークとなった。一時沈静後, 鹿児島県では2021年9月頃から, 沖縄県では10月頃から年末まで報告数の増加がみられた(図2)。

 2018~2021年の患者の年齢別分布は, 2018~2020年の3年間では2歳以下の報告が約85%(2018年:88.6%, 2019年:86.8%, 2020年:85.0%)を占め, 年齢別では1歳, 0歳, 2歳の順に多かった。2021年では, 2歳以下の報告は約74%に減少し, 年齢別の順位も, 1歳(30.3%), 2歳(24.4%), 0歳(18.9%)の順であった。また, 2021年の3~9歳の割合は26.1%と, 2018~2020年の3年間(2018年:11.1%, 2019年:12.9%, 2020年:14.3%)より高かった(図3)。患者の男性の割合は, 2018年:54.2%, 2019年:53.4%, 2020年:53.1%, 2021年:52.5%といずれの年もやや男性が多かった。

RSV等呼吸器ウイルス検出状況

 2018~2021年(2022年2月28日現在)に採取された検体から地方衛生研究所等で検出され, NESID病原体検出情報に報告された呼吸器系ウイルスは, インフルエンザウイルス, ライノウイルス, RSV, パラインフルエンザウイルス, ヒトメタニューモウイルス, ヒトボカウイルス, ヒトコロナウイルス, SARS-CoV-2等であった()(本号10ページ)。2018, 2019年はインフルエンザウイルスの検出が最も多く(2018年:9,140, 2019年:10,229), 報告数の70%近くを占めたが, 2020, 2021年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックが起こったこともあり, SARS-CoV-2の検出が最も多かった。一方, インフルエンザの流行がなかったこともあってか, インフルエンザウイルスの検出は2020年:2,730(12.8%), 2021年:6(0.03%)と大きく減少した。年により検出されるウイルスの分布は異なるが, RSVの検出数(検出数順位)は2018年:1,030(3位), 2019年:1,029(3位), 2020年:132(6位), 2021年:841(2位)であった。なお, 病原体サーベイランスでは報告までに時間がかかることがあるので, 2021年の検出数は実際より少ない可能性がある(および図4)。また, RSVの検出時期は患者発生状況にほぼ一致し, 2018年, 2019年では6~12月に, 2021年は3~9月に報告が多かった(図1)。RSVが検出された3,032例において, 検出方法では遺伝子検出:2,906例(95.8%), 検体では咽頭ぬぐい液:2,969例(97.9%)が最も多かった。RSVが検出された患者の症状は, 上気道炎, 下気道炎等呼吸器に関連する症状が2,623例(86.5%), うち263例(8.7%)は肺炎を併発していた。また, 重症例である脳炎・脳症を示した患者からの検出は22例(0.7%)あった。

ワクチン開発とサーベイランス

 世界保健機関(WHO)は, 2015年から既存のGlobal Influenza Surveillance and Response System(GISRS)の枠組みを利用したRSVのグローバルサーベイランスの議論を開始した(本号12&14ページ)。背景として, 当時ノババックス社の母子免疫ワクチンが2018年頃に承認される可能性があり, サーベイランスシステムの構築が急がれていたことがある。2016年から第1期, 2019年から第2期のパイロットサーベイランスが開始されたが, 結果としてノババックス社のワクチンは現在でも承認されておらず, パイロットサーベイランスもCOVID-19の影響で進展していない。一方で, 新規剤型の製剤が新型コロナワクチンとして続々承認され, その流れを受けてRSVワクチン開発も再加速している(本号16ページ)。

今後の課題

 RSウイルス感染症は乳幼児や高齢者にしばしば重篤な症状をもたらすことから, その流行の把握は重要である。しかし, わが国のRSウイルス感染症サーベイランスは, 小児科定点のみからの届出であるため, 小児以外のRSウイルス感染症の疫学を把握することは困難である。また症候群・症状を分母とするサーベイランスデータがないため, 疾病負荷の算出も困難である。全年齢における疾病負荷の把握と対策に関する検討が求められる。また, ワクチンや治療薬の開発を目的とした, WHOが進めるRSVのグローバルサーベイランスへの関与の在り方も検討する必要がある。

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