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国立感染症研究所 感染症疫学センター
(掲載日:2022年9月16日)

RSウイルス感染症

RSウイルス感染症は、RSウイルス(respiratory syncytial virus:RSV)を病原体とする、乳幼児に多く認められる急性呼吸器感染症である。生後1歳までに50%以上が、2歳までにほぼ100%の人がRSV初感染を受ける、とされてきた。初感染の場合、発熱や、鼻汁、咳などの上気道症状が出現し、うち約20〜30%で気管支炎や肺炎などの下気道症状が出現するとされる。また、早産の新生児や早産の生後6カ月以下の乳児、月齢24カ月以下で免疫不全を伴う、あるいは血流異常を伴う先天性心疾患や肺の基礎疾患を有する児、またはダウン症候群の児は重症化しやすい傾向がある。主な感染経路は、患者の咳やくしゃみなどによる飛沫感染と、ウイルスの付着した手指や物品等を介した接触感染である。RSV感染症の治療法は対症療法が主体であり、重症化した場合には、酸素投与、輸液や人工呼吸器管理などが行われる。また、早産児、気管支肺異形成症や先天性心疾患等を持つ重症化リスクの高い児を対象に、RSV感染症の重症化予防のため、ヒト化抗RSV-F蛋白単クローン抗体であるパリビズマブの公的医療保険の適応が認められており、流行前から流行期にかけて月1回使用される。

RSV感染症は感染症発生動向調査の小児科定点把握の5類感染症であり、全国約3,000カ所の小児科定点医療機関から毎週報告されている。定点医療機関において、医師が症状や所見からRSV感染症を疑い、かつ検査によりRSV感染症と診断された患者の数が報告の対象となる。2003年のRSV感染症サーベイランス開始当初は、RSV抗原検査の公的医療保険の適用範囲は「3歳未満の入院患者」のみであったが、その後2006年4月に「全年齢の入院患者」へと適用範囲が拡大され、2011年10月からは入院患者に加え、外来の乳児およびパリビズマブの適用となる患者にも保険適用されることになった。なお、本疾患の発生動向調査は小児科定点医療機関のみからの報告であることから、成人における本疾患の動向の評価は困難である(https://www.niid.go.jp/niid/images/iasr/2018/12/466r01f01.gif)。

2018年、2019年のRSV感染症の定点あたり報告数は、いずれも第37週にピークがみられたが(2018年は2.46、2019年は3.45)(https://www.niid.go.jp/niid/ja/10/2096-weeklygraph/1661-21rsv.html)、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック下の2020年および2021年は傾向が異なり、2020年は報告数の減少、2021年は報告数の増加と例年より早いピークがみられた(https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2487-idsc/idwr-topic/10564-idwrc-2129c.html)(図1 2022年4月7日現在)。2020年の定点当たり報告数は第8週以降減少を続け、第21週は0近くまで低下した。その後、第52週(0.14)までわずかに増加したが低いレベルを保ち、明らかなピークの形成はみられなかった。2021年第1週の定点当たり報告数も0.08と低いレベルであったが徐々に増加し、第10週には2018~2020年のいずれの年の当該週の値を上回った。その後、第16~18週にいったん減少に転じたものの、第19週より継続的に増加し、第28週にピーク(5.99)を迎えた。ピーク後に報告数は減少に転じ第44週に0.25まで減少したが、第49~51週はわずかに増加傾向がみられた。

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※ 年末・年始(第52週〜第1週頃)、ゴールデンウィーク(第18週頃)、お盆(第33週頃)、シルバーウィーク (第39週頃)等の週では、定点当たり報告数が減少する傾向があり解釈には注意が必要である。なお、祝日、 休日の並び等によって該当する週は年によって異なる。

なお、東京都や大阪府からは、2020年の定点当たり報告数が著しく減少したこと、2021年の報告数は例年よりも多かったことが報告がされている(https://www.niid.go.jp/niid/ja/rs-virus-m/rs-virus-iasrd/10793-501d01.html)(https://www.niid.go.jp/niid/ja/rs-virus-m/rs-virus-iasrd/10665-499d02.html)。

2018~2021年はすべての都道府県の定点医療機関から報告があった。定点当たり報告数上位5位の都道府県は、以下の通りであった。
2018年:宮城県(74.46)、沖縄県(73.35)、徳島県(73.22)、新潟県(63.64)、福島県(63.53)
2019年:宮崎県(84.91)、新潟県(81.75)、徳島県(80.96)、沖縄県(77.85)、山口県(76.09)
2020年:鹿児島県(58.23)、沖縄県(48.12)、山口県(12.76)、岩手県(11.65)、和歌山県(10.90)
2021年:山口県(132.98)、新潟県(131.75)、徳島県(126.61)、福井県(121.96)、石川県(119.55)

2018~2021年のRSV感染症報告における男女の報告数の割合は、例年と同程度であり、男性が52.5~53.5%と女性に比べて若干多かった。一方、年齢分布は、2018年、2019年、2020年は類似していたが、2021年は他の年と比較し、2歳以上の割合が高く、報告数もより多かった。2018~2021年の年齢群別報告数では、3歳以下は2018年では全体の95%、2019年では94%、2020年では93%、2021年では88%であった。例年の年齢分布(https://www.niid.go.jp/niid/ja/rs-virus-m/rs-virus-idwrc/8274-idwrc-1832.html)、(https://www.niid.go.jp/niid/images/iasr/2018/12/466tf03.gif)と比較して、2021年は、0歳が占める割合が大きく減少し、2歳、3歳、4歳以上のそれぞれの割合が増加した(図2)。

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2021年のRSV感染症の報告数は、0歳を除き、2018年・2019年のいずれの報告数をも上回り、特に2歳、3歳、4歳以上の22各年齢の報告数は、いずれも大きく上回った。各年齢における2021年の報告数と、2018年と2019年の平均報告数の比は、0歳は0.94、1歳は1.43、2歳は2.68、3歳は3.53、4歳以上は3.96であった。

また、5類全数報告対象疾患である急性脳炎において、原因病原体がRSVと届出されたのは2018年が8例(1歳が6例、2歳が2例)、2019年が9例(0歳及び1歳が1例、2歳が2例、3歳が5例)、2020年が1例(1歳が1例)、2021年が6例(1歳、2歳、3歳ともに2例)であった(2022年1月7日現在)。

なお、世界の複数の地域でも2020年以降、例年とは異なるRSV感染症の動向が報告された。アメリカ大陸では、COVID-19パンデミックが始まった2020年以来は、RSV感染症の報告数、もしくは検査陽性率が激減したが、2021年になると米国や複数の中南米の国々で報告数・検査陽性率の増加がみられた。(https://iris.paho.org/bitstream/handle/10665.2/55337/InfluRep7Dec2021.pdf?sequence=1&isAllowed=y )。日本や米国(https://www.cdc.gov/surveillance/nrevss/rsv/index.html)、(https://emergency.cdc.gov/han/2021/han00443.asp)と同様に北半球に位置する欧州の英国(イングランド)でも、2020年は2018年、2019年と同様な流行はみられず、2021年に入ってから、RSV感染症の検査陽性数・陽性率の増加とピークの形成がみられた(https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/1005056/Weekly_Flu_and_COVID-19_report_w29.pdf)(https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/1062976/Weekly_Flu_and_COVID-19_report_w12.pdf) 。

RSV感染症を報告した小児科定点医療機関数は、2006年~2019年頃まで増加傾向であった(図3)。RSV抗原検査の公的医療保険の適用範囲が2006年に「3歳未満の入院患者」のみから「全年齢の入院患者」へと適用範囲が拡大され、2011年からは外来の乳児、およびパリビズマブ製剤の適用となる患者にも保険適用されることになり、2010年頃から報告数および報告機関数は増加した。特に診療所の増加が病院の増加よりも顕著なのは、保険適用拡大により、多くは入院施設を持たない診療所においても外来で検査が可能となり、報告する機会が増加したためと推察されている (https://www.niid.go.jp/niid/ja/allarticles/surveillance/2437-iasr/related-articles/related-articles-466/8474-466r01.html)。COVID-19のパンデミックが始まった2020年は全体の報告数が減ったものの、RSV感染症を報告した小児科定点医療機関数(RSV感染症を年間に1例以上報告した医療機関)は、2021年には2019年以前と同じレベルに戻っていた(図3)。なお、RSV感染症を年間に1例以上報告した小児科定点における病院からの定点当たり症例報告数に対する診療所からの定点当たり症例報告数の比は、2018年は0.89、2019年は0.91、2020年は0.83、2021年は1.45であり、2021年には相対的に診療所からの報告が増加した(図4)。

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まとめ

COVID-19のパンデミックが始まった2020年は報告数の減少が、2021年は報告数の増加と例年より早いピークの形成がみられた。2021年は病院に対する診療所からの報告数の比が2018年、2019年と比較して大きくなり、また、年齢がより高い2歳以上の患児の数および割合が増えた。RSV感染症の総報告数が著減した2020年は、原因病原体がRSVと届出られた急性脳炎の報告数が1例と少なかったが、総報告数が大きく増加した2021年は6例であり、2018年の8例や2019年の9例を若干下回った。その内訳となる患者の年齢は、2018~2020年と同様に2021年はいずれも3歳以下であった。

COVID-19のパンデミックが始まった2020年は、症例報告数、報告を行った医療機関数、急性脳炎数がいずれも減少したが、病院に対する診療所からのRSV感染症の定点当たり症例報告数の比に大きな差はみられなかった。一方、症例報告数が大きく増加した2021年は、病院からの定点当たり症例報告数が診療所からの定点当たり症例報告数より相対的に少なく、2歳以上の症例数は増加したが、重症化リスクが高い1歳未満の報告数や急性脳炎の報告数は2018、2019年を下回るなど、2021年は重症例が例年を大きく上回る傾向はみられなかった。

RSV感染症の発生動向は年によって変化するが、医療現場において、重篤化リスクのある児へパリビズマブを予防投与する適切なタイミングを検討する観点からも、定点当たりの報告数や、より重症である急性脳炎の症例数の動向を継続して把握することが大事である。そのため、自治体と医療機関の密な連携と情報共有が重要となる。

 


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