国立感染症研究所

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20~39歳女性の風疹抗体保有状況、2013年1~6月―臨床検査会社のデータ

(IASR Vol. 34 p. 236: 2013年8月号)

 

2012、2013年に風疹が成人間で流行し1)、風疹ワクチンの需要が高まり、当面ワクチンが不足する心配も出てきた。限られた量のワクチンを有効に使うためには、優先すべき接種対象者を明確にするデータが必要である。そのために国の感染症流行予測調査事業の風疹血清疫学調査2)があるが、国民の免疫状況を調べるための健康人血清を多数収集することは難しいという問題があった。

伴らは以前、全国の産婦人科から一臨床検査会社に依頼された風疹赤血球凝集抑制(HI)抗体価測定の結果を集計し、20・30代女性の年齢別抗体保有率の年次推移(1999~2007年)を調べて報告した3)。この検査会社が疫学研究のために扱える情報は、抗体測定結果のほか血清被採取者の性別・年齢および検査依頼施設の診療科別・都道府県別のみに限られるが、検体は広く全国から集まり、かつその数が多いという特徴がある。今回は、効果的なワクチン接種の参考になればと考え、2013年1~6月に検査依頼のあった20~39歳女性の血清(産婦人科から84,428検体および他診療科から53,212検体、合計 137,640検体)の風疹HI抗体価測定結果を集計解析した。

図1に年齢別抗体保有率(抗体価≧8)のグラフを示す。20代の保有率は30代より低く、かつ23歳(1989年後半~1990年前半生まれ)を谷底とするV字型をしていた。20~22歳(1990年後半以降生まれ)で保有率が上昇する理由は、この年齢群が高校3年生相当の年齢時に麻疹風疹ワクチンの「第4期接種」(2008年度から5年間の時限措置)を受けているためと考えられる。

風疹発生動向調査によれば、2013年1~6月の風疹患者発生は東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県の首都圏と大阪府・兵庫県とに多かった。男女別年齢別にみると、男性患者は全患者のうちの77%を占め、30代に多かったが、女性患者は23%を占め、そのピークは23、24歳(1988年後半~1990年前半生まれ)にあった4)。この女性のピーク年齢は図1グラフの谷底の年齢に対応していた。次に2012年の風疹発生動向をみると、女性患者は2013年より1歳若い22、23歳に多かった5)。そこで2012年の抗体検査結果から抗体保有率曲線を描くと図1と同様の形であったが、V字谷底の年齢は患者発生と同様に1歳若い22歳であった(図は示さず)。すなわち、第4期接種が無かった1989年~1990年前半生まれの女性で抗体保有率が最低で、かつ患者が多かったことが確かめられた。なお、国の風疹血清疫学調査では30代男性で保有率が低いことが示されており、これはその年齢群での患者発生の多さと対応しているが、1990年生まれ女性での保有率の低さは示されていない2)

本研究の弱点としては、血清検体が健康人の風疹免疫の有無を調べるためのものか、あるいは急性感染の診断のためのものかが不明である。しかし(1)後者の目的には主として酵素免疫法(EIA)によるIgM 抗体検出が使われており、また、(2)HI抗体測定数は患者発生数をはるかに凌駕しているので、HI抗体測定検体の大部分は免疫状態を調べるためのものと考えられる。また集まる検体に地域的偏りもあるが、ワクチン接種の普及によって小児での風疹の自然流行が減ってきた現在、住民の抗体保有状況はその地域でのワクチン接種状況に左右されるようになってきた。しかしワクチンは全国同一のやり方で接種されるので、抗体保有状況の地域差は小さくなってきていると考えられる。

最後に、当面の先天性風疹症候群発生の予防について考えてみたい。東京都感染症情報センターによれば、風疹患者(男女)の4割は職場で、2割は家族・同居人から感染したと推定される6)。これらのことを考慮に入れて、ワクチン接種が優先される女性対象者は、(1)妊娠を希望し、(2)風疹に無免疫で(1989年~1990年前半生まれに多い)、かつ(3)大都市で居住・通勤する人、と言えるだろう。男性対象者としては、妊娠希望の無免疫の女性と同居する無免疫の男性であろう。

 

参考文献
1) IASR 34: 87-89, 2013
2) http://www.niid.go.jp/niid/images/epi/yosoku/Seroprevalence/r2012serum.pdf
3) 伴 文彦,他,感染症誌 83: 386-391, 2009
4) https://www0.niid.go.jp/niid/idsc/idwr/diseases/rubella/rubella2013/rube13-25.pdf
5) http://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/rubella/2012pdf/rube12-52.pdf
6) http://idsc.tokyo-eiken.go.jp/diseases/rubella/situation/2013w20/

 

大妻女子大学 井上 栄  
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