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<速報>雲南保健所管内X保育園における風疹アウトブレイク

(掲載日 2013/10/11)

 

2012~2013年にかけ、関東・関西を中心に全国各地で発生した風疹流行は、2008年以来最大の規模であっただけでなく、20~40代の男性が約6割、20代女性が約1割を占め、妊娠子育て世代の成人が多いという特徴があり、先天性風疹症候群(CRS)のリスクが懸念される深刻な流行となっている1,2)。島根県では、過去6年間、風疹の発生届出は少なく、大きな流行は認めていなかった。島根県雲南保健所管内では、2012年9月に成人男性1例の報告があるのみであった。

今回我々は、島根県雲南保健所管内X保育園において発生した風疹アウトブレイクに対応したので、ここに報告する。2013年4月2日に発病した麻しん風しん混合ワクチン(以下、MRワクチン)接種歴の無い1歳男児患者を発端に、X保育園で感染が拡大し、24人の風疹ウイルス感染発病者(園児16人、保育園職員1人、家族7人)と6人の不顕性感染者(全員園児)の合計30人の風疹ウイルス感染者が発生した。全例合併症なく回復した。

22人の園児感染者のうち、発熱、発疹、リンパ節腫脹等何らかの症状を呈した者(有症者)が16人、他の6人は無症状(不顕性感染)であった。診断の確定は、咽頭ぬぐい液検体等によるRT-PCR法、または血清風疹抗体価によった。有症者のうち4人が全身性発疹と発熱を有する典型的な風疹症状を呈したが、12人は発疹のみか、発熱と体の一部のみの発疹で非典型的な症状であった。

保健所の指導のもとX保育園では、毎日積極的に全身を観察し、発疹を認めた場合は速やかに隔離し、医療機関への受診を保護者に依頼した。また、MRワクチン定期予防接種の1期および2期接種の時期にあり、未接種の者にはワクチン接種勧奨を行った。本アウトブレイクは、6月6日発病の2症例を最後に、最大潜伏期の2倍にあたる6週間以上新たな発生がなく、終息が確認された。

園児感染者の多くがMRワクチン既接種者であったため、ワクチン効果の調査として血清学的評価と疫学的評価を行った。ワクチン接種者の血清抗体陽性率は、クラスに関係なく従来報告されているワクチン効果に劣らない効果が示された。感染防御に関しては、2歳以上のクラスでは良好な効果が認められたが、1歳児クラスに限っては、十分な抗体応答があったにもかかわらず、感染防御効果は十分ではなく、MRワクチン1回接種では感染防御効果に限界があった可能性が示唆された。その原因は確定されなかったが、低年齢園児における舐める、咥える等の濃厚接触に伴うウイルス曝露量と関連している可能性が考えられた。

本事例は終息したものの、今後、他の保育園においても、同様の風疹アウトブレイクが発生する可能性がある。保育園における風疹発生はコントロールが容易でなく、職員や家族には多くの妊婦がいることから、CRSの危険性も少なくない。CRSの発生を予防するには、保育園において、日頃から園児および職員のMRワクチン接種の推奨・確認等を実施するのはもちろんのこと、周囲のすべての者が風しんの抗体を保有し、風疹ウイルスを保育園に持ち込まないようにすることが必要である。また、今後風しんの予防接種の接種方法等について検討を行い、総合的な風しん対策を強化していく必要がある。

謝辞
本調査の実施にあたり、御協力いただいた医療機関の諸先生に深く感謝いたします。

 

参考文献
1) Tanaka-Taya K, et al., Nationwide Rubella Epidemic-Japan, 2013, MMWR 62(23): 457-462, 2013
2) 国立感染症研究所, 風疹流行および先天性風疹症候群の発生に関するリスクアセスメント第二版(2013年9月30日) 
  http://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ha/rubella.html

 

島根県健康福祉部   
  三輪紗映 柳 俊徳 桐原祥修 中川昭生  
島根県雲南保健所   
  常松基子 熱田純子 冨金原央嗣 廣江純一郎 福澤陽一郎  
島根県保健環境科学研究所   
  飯塚節子 和田美江子 木内郁代 大城 等  
国立感染症研究所    
  実地疫学専門家養成コース(FETP) 伊東宏明 金山敦宏   
  感染症疫学センター 中島一敏 松井珠乃 多屋馨子 大石和徳   
  ウイルス第三部 大槻紀之 岡本貴世子 坂田真史 森 嘉生

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