国立感染症研究所

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麻疹 2018年2月現在

(IASR Vol. 39 p49-51: 2018年4月号)

麻疹は発熱, 発疹, カタル症状を3主徴とする急性のウイルス性感染症である。原因ウイルスである麻疹ウイルスは空気感染, 飛沫感染, 接触感染で伝播し, その感染力は極めて強い。また麻疹ウイルスは一時的に宿主の免疫機能を抑制し, 約3割の患者が合併症を併発する。肺炎や脳炎を合併した場合には死亡することもある。2016年においても途上国の小児を中心に推定89,780人が麻疹により死亡したとされている(http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs286/en/)。

麻疹は(1)麻疹ウイルスの自然宿主がヒトのみであること,(2)正確な検査診断法があること,(3)効果や経済性にすぐれたワクチンがあること, 等から根絶が可能な感染症と考えられている。世界保健機関 (WHO)では天然痘, ポリオに続き麻疹の根絶を目指している。

日本が属するWHO西太平洋地域(WPR)の地域委員会では2005年に, 2012年までにWPRから麻疹を排除することを決議した。それを受けて日本では2006年に麻疹含有ワクチンの2回接種を導入した。また, この頃から10代を中心に麻疹が流行したこともあり, 2007年12月に厚生労働省は「麻しんに関する特定感染症予防指針(以下指針)」を告示し,(1)10代の麻疹に対する免疫を増強するために中学1年生, 高校3年生相当年齢の者に対し補足的ワクチン接種の実施(5年間の時限措置),(2)麻疹サーベイランス強化のため定点把握疾患から全数把握疾患への変更, 等の対策を実施した。また, 2013年に改定した「指針」では, 排除認定に必要な流行ウイルスの由来や伝播状況の把握のために, 原則, すべての麻疹疑い例に対し, 麻疹IgM抗体検査とウイルス遺伝子検査の実施を求めた。

これらにより麻疹は減少し, また12カ月間以上にわたる麻疹ウイルスの地域的流行がないことを示し, 日本は2015年3月にWHO西太平洋地域麻疹排除認証委員会(RVC)より麻疹排除状態にあると認定を受け, 現在もその状態を維持している(本号12ページ)。

感染症発生動向調査:麻疹は感染症法上の5類感染症である(届出基準・病型はhttp://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-14-03.html)。年間の麻疹患者報告数は, 全数報告が始まった2008年では11,013例であったが, 2009年以降は35~732例で推移している。2017年は山形県を中心とした患者数60例の集団発生(本号6ページ)や三重県(本号4ページ), 広島県(本号5ページ)で患者数10例を超える集団発生が報告された一方で, 三次感染に至らずに終息した集団発生(本号7&9ページ)等があり, 計187例の麻疹症例が報告されている(2018年3月2日現在)(図1)。

患者の病型別にみると(図2), 麻疹の3主徴のうち, 1ないし2症状のみの非典型例で, かつ検査陽性例である修飾麻疹の割合が2014年以降増加し, 2017年は42.2%(79/187;修飾麻疹数/麻疹症例数)となった。

患者の年齢群別でみると, 麻疹は主に5歳以下の小児が発症する感染症であったが, 全数把握疾患となった2008年には10~20代を中心に流行した。この時, 19歳以下の患者は66.7%, うち10代は43.1%, 10歳未満が23.6%であった。その後は中高生に対する補足的ワクチン接種等の効果により19歳以下の患者の割合が減少し, 2017年では19.2%となった。一方, 20歳以上が2015年以降70%を超え, 2017年は80.7%に達した(図3)。

2017年に報告された患者(n=187)の予防接種歴は, 未接種33例(17.6%)で, うち定期接種対象年齢に達していない0歳が3例(未接種者の9.1%), 接種歴1回49例(26.2%), 接種歴2回21例(11.2%), 接種歴不明84例(44.9%)であった(表1)。麻疹症例は2015年以降, 35~187例と少ない数で推移している中で, ワクチン未接種者の割合が減少, 相対的に接種歴有り(1回および2回)の割合が増加した。これは, ワクチン接種者が増加していること, 積極的疫学調査とウイルス遺伝子検査が実施され, 麻疹患者周囲の軽症で非典型例も(修飾)麻疹として診断されるようになってきたこと, 等が関係していると考えられる。なお, 修飾麻疹例からの感染のリスクは典型麻疹例と比較して低かった(本号11ページ)。

麻疹による学校休業報告は2014年2月の小学校臨時休校以降は0件である(http://www.nih.go.jp/niid/ja/hassei/5339-measles-school-rireki.html)。

ウイルス検出状況:2017年に地方衛生研究所(地衛研)でウイルス遺伝子が検出され, 感染症サーベイランスシステム(NESID)の病原体検出情報システムに報告されたのは166件, ワクチン株を除くと158件 (全症例187の84.5%)であった。うち150件(同80.2%)については遺伝子型が解析され, 132件(同70.6%)では遺伝子配列も報告されていた(図4)。疫学事項に記載された発生状況では, 散発75例, 集団発生65例, 家族内発生14例, 地域流行5例であった。158例中36例(23%)で海外への渡航歴があった。麻疹ウイルス遺伝子型では, D8型が140で最多で, 発症前の渡航先としてはインドネシア, タイ, インド等であった。次いでB3型が8例から検出(渡航先はイタリア, ガボン, シンガポール, パキスタン, バングラデシュ), H1型は2例から検出された(渡航先はベトナムとミャンマー)。型別不明は8例であった(表2)。

麻疹検査診断の現状:麻疹排除を達成した現在では, 発症早期の検体において感度にすぐれ, 麻疹ウイルスの由来や伝播の状況を推定できるウイルス遺伝子検査の重要性が増している。ウイルス遺伝子検査としては, コンタミネーションによる偽陽性のリスクを低減させるため, real-time RT-PCR法でウイルス遺伝子の検出を試み, 陽性であった場合には麻疹ウイルスN遺伝子上の遺伝子型決定部位をコンベンショナルRT-PCR法(nested RT-PCR法)で増幅, 塩基配列を解析することを推奨している。また, 咽頭ぬぐい液, 血液, 尿の3点を検体として用いることを奨めている。

ワクチン接種率:2006年度から麻疹風疹混合(MR)ワクチンを用いた第1期(1歳児を対象), 第2期(小学校就学前の1年間の幼児を対象)の2回接種が定期の予防接種に導入され, 現在も継続中である。2016年度のMRワクチンの接種率は, 第1期97.2%, 第2期93.1%であった。第1期は7年連続で95%を上回ったが, 第2期は9年連続して90%を超えたものの目標である95%に向けた取り組みが続いている状況である(https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/measles/2016-mr-pdf/2016_map.pdf)。

抗体保有状況:2017年度の感染症流行予測調査による麻疹感受性調査は23都道府県の地衛研で, 麻疹のゼラチン粒子凝集 (PA) 抗体価の測定により実施された(n=6,247)(本号13ページ)。採血時期は原則として2017年7~9月であった。麻疹のPA抗体価1:16以上の抗体保有率は, 2011年度以降, 2歳以上の全年齢/年齢群で95%以上を示した(図5)。

今後の対策:麻疹は現在でも海外の多くの国で流行している(本号14&18ページ)。約4,500万人が日本に出入国しており, 海外からの麻疹ウイルスの持ち込みを完全に防ぐのは困難である。たとえ麻疹ウイルスが持ち込まれたとしても, 流行を拡大させないことが重要である。そのためには,(1)2回の定期接種を確実に実施し(それぞれの接種率が95%以上), 国民における抗体保有率を高く維持すること,(2)患者の発見を早め, 適切な感染拡大防止措置をとれるようサーベイランスを強化すること,(3)麻疹ウイルスに感染するリスクの高い医療関係者, 保育関係者, 学校関係者, 海外旅行者, 空港等不特定多数の人と接する機会の多い職場で働く人, ワクチン接種機会が1回であった世代等へ必要に応じてワクチン接種を奨励すること, 等が求められる。また, WHO等の国際機関と連携し, 世界の麻疹対策に協力していくことも重要である(本号16ページ)。

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