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稀な血清型Agbeniが同定された3件のサルモネラ感染事例の解析―秋田県

(IASR Vol. 35 p. 80-81: 2014年3月号)

 

ヒト由来のサルモネラ検出数は、過去5年間EnteritidisおよびInfantisが常に1位、2位を占めてはいるものの、それ以外の血清型も多く確認されている(https://idsc.niid.go.jp/iasr/virus/bacteria-j.html)。今回、その中でも稀なサルモネラ血清型Agbeniの感染事例を3件確認したので報告する。

事例は、2013(平成25)年8月27日~9月11日にかけて確認され、患者は2歳男児、4歳女児、4カ月の乳児で、いずれも同じ市内に在住していた。分離された3株は市販の抗血清を用いた血清型別でO13群、H1抗原がg,  m, H2抗原は検出されなかった。血清型を特定するため、Statens Serum Institute の抗血清を用いてO13群の副抗原(O22、O23)の検出と、PCR法によるサルモネラ属菌および亜種Iの確認1)と各抗原遺伝子の確認2, 3)を行った(表1)。3株はいずれもO23 (+)、PCR法によりサルモネラ属菌特異的なinvA (+)、亜種I特異的なSTM4057 (+)、O13群 (+)、H1; g,m (+)、H2; 1-complexおよびH2;e,n-complexについてはともに(-)であることが確認された。以上の結果から、サルモネラ血清型Agbeni ( 1, 13, 23: g, m, [t]: -)と同定した。

また、Kirby-Bauer法による感受性試験を行ったところ、3株はいずれも供試したアンピシリン、ホスホマイシン、ノルフロキサシン、ゲンタマイシン、テトラサイクリン、クロラムフェニコールの6剤にはすべて感受性であった。

非常に稀な血清型が複数確認されたことから、PFGEにより菌のDNAパターンを比較したところ、NotIではいずれも同一、XbaIでは1株がバンド1本異なるのみで、事例間の関連性が疑われた(図1)。医療機関からの情報によると、初発の患者は直近にミドリガメを飼育し始めたとのことであり、感染源としてはこのミドリガメが強く疑われた。爬虫類を原因とする感染事例は国内外で散見され、特にミドリガメは子供のペットとして人気が高いが、そのサルモネラ汚染は高率で、様々な血清型のサルモネラの保菌が確認されている4)。2013(平成25)年8月12日には米国での感染事例の多発を受け厚生労働省から注意喚起を促す通知が出されている。秋田県でも今回の事例確認後、感染症週報に爬虫類に起因するサルモネラ症についてトピックスを掲載し、改めて注意喚起を行った。

血清型の同定は感染症の発生動向を知る上で非常に重要である。しかしながら、サルモネラの血清型は複雑で、複数回の培養が必要なため時間を要する。今回PCR法による型別を行ったところ、従来の血清型別法と一致した結果が得られた。PCR法は、複数の抗原遺伝子を同時に検出できるため、迅速に血清型を推定することが可能と思われる。また、今回の事例のように稀な血清型が同定された場合は、従来の血清型別法と組み合わせることでより正確な血清型の同定に役立つと考えられた。

 

参考文献
1) Lee, et al., Appli Microbio 107: 805-811, 2009
2) Franklin, et al., J Clin Microbiol 49: 2954-2965, 2011
3) Maurer, et al., J Vis Exp 21: 1-6, 2011
4) 黒木俊郎, 他, IASR 30: 212-213, 2009

 

秋田県健康環境センター保健衛生部 
  今野貴之 髙橋志保 熊谷優子 樫尾拓子 和田恵理子 村山力則 八柳 潤 齊藤志保子

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan