国立感染症研究所

国内外における重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の発生状況について

2024年8月1日
国立感染症研究所
ウイルス第一部
獣医科学部
昆虫医科学部
感染症疫学センター
実地疫学研究センター
感染症危機管理研究センター

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目次

  •    概要
  •    ウイルス学的知見
  •    SFTSウイルスを媒介するマダニについて
  •    国外における重症熱性血小板減少症候群(SFTS)発生状況について
      1.東アジアでの発生状況
      2.東南アジアでの発生状況
  •    国内における重症熱性血小板減少症候群(SFTS)発生状況について
      1.ヒトにおける発生状況
      2.動物における発生状況
  •    国内における対応
  •    リスク評価
  •    今後の対策と推奨

概要

 重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome: SFTS)は2011年に中国の研究者らによって発表されたフェヌイウイルス科バンダウイルス属に分類されるSFTSウイルスによるダニ媒介性感染症である。
 SFTSウイルスに感染すると6日〜14日間の潜伏期を経て、発熱、倦怠感、頭痛等の症状で発症する。その他リンパ節腫脹、消化器症状(食欲低下、嘔気、嘔吐、下痢、腹痛)がみられ、ショック、急性呼吸促拍症候群、意識障害、腎障害、心筋障害、播種性血管内凝固症候群、血球貪食症候群などの合併症を引き起こす。検査所見では白血球減少、血小板減少、トランスアミナーゼ高値が多くの症例でみられる。致命率は国内では27%と報告されている一方、中国では10%とする報告もある(厚生労働省, 2024、Kobayashi . et al., 2020)。軽症であれば自然治癒する疾患であり、治療は対症療法のみであったが、2024年5月24日に厚生労働省の薬事審議会・医薬品第二部会での審議においてファビピラビルのSFTSに対する効能追加が了承され、6月24日に適応追加する承認が取得された。
 国内では2013年1月に海外渡航歴のないSFTS症例が初めて報告され、同年3月4日以降、重症熱性血小板減少症候群(病原体がフレボウイルス属SFTSウイルスであるものに限る)が感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(以下、感染症法)にもとづく感染症発生動向調査で4類感染症に、またフレボウイルス属SFTSウイルスが三種病原体等に指定されている。以降、SFTSは感染症発生動向調査における全数把握対象疾患に定められており、2024年4月30日時点で963件の報告がある。

 

 

ウイルス学的知見

 重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia : SFTS)ウイルスは、2009年に中国において重篤な血小板及び白血球減少症を伴う熱性疾患の患者より分離された新興ウイルスであり、フェヌイウイルス科(Phenuiviridae)、バンダウイルス属(Bandavirus)、Bandavirus dabieense種に分類される(Yu XJ, et al., 2011)。ウイルス粒子は直径約100nmの球形で脂質二重膜構造のエンベロープを有し、4種類(Gn, Gc, N, RdRp)のウイルス蛋白質とウイルスゲノムを含んでいる。ウイルスゲノムは3分節化されたマイナス鎖一本鎖RNAで、L分節は6,255塩基でRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)をコード、M分節は3,336塩基でエンベロープ蛋白質(Gn/Gc)をコード、S分節は1,681塩基でヌクレオカプシド蛋白質(N)及び非構造蛋白質NSsをコードしている。RNAをゲノムとして有するエンベロープウイルスの生化学的な特性から、SFTSウイルスは、熱、紫外線、界面活性剤、70%エタノール等によって容易に不活化する。
 SFTSウイルスは、ヒトに致命率の高い出血熱様の疾患であるSFTSを惹起することから、国内では感染症法において、三種病原体等に指定されており、国立感染症研究所においてはバイオセーフティの考えに基づく病原体等安全管理規程により、BSL3に分類される。(厚生労働省, 2023)。
 SFTSウイルスに感染した患者由来の血液からは多量のSFTSウイルスが検出され、ヒトにおいて単球やマクロファージ及び形質芽球に分化しつつあるB細胞への高い感染指向性を示し、これらの標的細胞におけるウイルス増殖によって誘導される免疫応答の破綻が病態発現に関与していることが示されている。培養細胞ではVero細胞(アフリカミドリザルの腎臓由来)、Huh7細胞(ヒトの肝細胞由来)等で増殖しやすいが細胞変性効果は弱い。実験動物においては、SFTSウイルスを接種したネコ及び老齢のフェレットがヒトのSFTSに類似した致死的な病態を示すことが知られている一方で、通常の免疫応答が正常に機能している実験用マウスではウイルスを接種しても病状は認められず、免疫不全マウスや哺乳マウスにのみ致死的な病態を示す。
 患者由来もしくは分離ウイルスの多くのゲノム配列が解読されており、その結果M分節の保存性はやや劣るものの、ゲノムの塩基配列において90%以上の一致が認められていることから、RNAウイルスとしては比較的変異が少ないウイルスである。中国や韓国で検出されるウイルスも含めた詳細な分子系統樹解析により、ウイルス株は主に中国で流行しているものと日本で流行しているものの2種類の系統に大きく分類することができ、また少数ではあるが三分節のゲノムが入れ替わったリアソータント(遺伝子再集合体)も存在することが示されている。SFTSウイルスグループ内において、ゲノムの長さが異なるもの、抗原性、病原性等の形質が明らかに異なるものはいずれも知られていない。なお、野生動物や飼育動物から検出されるSFTSウイルスの性状は患者由来のものと区別はできない。
 SFTSの実験室診断は、急性期では血液や唾液、尿等からのRT-PCR による遺伝子検出、細胞・組織病理学的な抗原検出及びウイルス分離による。回復期ではペア血清を用いたSFTSウイルスに特異的な抗体価の上昇で判断するが、バンダウイルス属内の他のウイルスと交叉性があり注意を要する。詳細は国立感染症研究所HPに掲載の病原体検出マニュアルを参照されたい(国立感染症研究所, 2024)。

 

SFTSウイルスを媒介するマダニについて

 SFTSウイルスはマダニによって媒介され、ウイルスに感染したマダニによる刺咬でヒトを含む宿主にウイルスが伝播する。
 SFTSウイルスの媒介性が実験的に証明されているのは、フタトゲチマダニ(Haemaphysalis longicornis)とキチマダニ(Haemaphysalis flava)の2種である。日本においてSFTS症例が多く報告される時期(春から秋)は、フタトゲチマダニの活動が活発になる時期におおむね一致する。しかしながら、冬季にも症例が報告されていることから、キチマダニなど冬季に若虫や成虫の活動が活発になるマダニ種が媒介に関与している可能性がある。
 一方で、国内に生息するマダニ類のうち、フタトゲチマダニ、キチマダニのほか、ヒゲナガチマダニ、オオトゲチマダニ、タカサゴキララマダニからSFTSウイルスが検出されている。マダニは特殊な消化機構(細胞内消化)を有し、吸血源動物などに由来する核酸分子を長期的に体内に保持している場合がある。ウイルス由来核酸も例外ではなく、単にウイルス血症を呈した動物血液を体内に取り込んだだけの場合もあることから、虫体からのウイルス遺伝子の検出のみによってSFTSウイルスの媒介に関与するマダニ種と特定することは適切でない。

 

国外における重症熱性血小板減少症候群の発生状況

1.東アジアでの発生状況

 世界初のSFTS症例の報告は、2008年から2009年に発生した原因不明の熱性疾患の調査の結果を元に、2011年に中国から報告されたものである(Yu XJ. et al., 2011, Xu B. et al., 2011)。その後、後方視的に2006年の症例からSFTSウイルスの感染が報告された (Liu Y. et al., 2012)。さらに2018年の報告では、1996年にSFTSの症例が発生していたことが示唆されている。この報告では江蘇省のある家族と治療等にあたった医師ら14例が1996年に原因不明の発熱や血小板減少を示したものであり、保存されていた6例分の当時の血清を用いて後方視的に血清学的検査を実施したところ6例全てがSFTSウイルス抗体陽性(ELISA法でIgM陽性、うち1例は間接蛍光抗体法でIgGも陽性)となった。このうち4例については発症から14年後の2010年に採取した血清でも80~640倍のIgG陽性反応が見られている。ただし、いずれのサンプルからもSFTSウイルスの遺伝子は検出されていない(Hu J. et al., 2018)。
 これまで中国ではSFTSは法定伝染病に指定されていないことから、定期的な発生数の報告はされていないものの、疾病管理予防システムへ報告がされており、その結果が論文発表されている。これに関して、中国疾病予防管理センター(中国CDC)は2024年4月12日にSFTSの全国サーベイランスを開始するためのキックオフ会議を開催した(China CDC, 2024)。
 疾病管理予防システムへ登録された症例をまとめた報告によると、河北省で2015年から2021年に報告された370例のまとめでは、期間中の罹患率は0.65例/10万人であった (うち死亡例36例)。年ごとの罹患率は2018年まで低下したが、2019年以降上昇傾向にあり、2020年、2021年の罹患率はそれぞれ1.42例/10万人及び1.20例/10万人であった (Zhang Q. et. al., 2023)。また、別の報告によると、中国全土におけるSFTSの罹患率は、2011年から2021年にかけて上昇傾向にあり、同期間中18,902例の確定診断と966例の死亡例が報告され、期間中の累積罹患率は0.13例/10万人であった (Chen QL. et al., 2022)。
 また、2011年から2016年に疾病管理予防システムに登録された中国全土からのSFTS症例をまとめた報告では、期間中5,630例が登録され、年間の登録数は年々増加していた。99%以上が河南省、山東省、湖北省、
安徽省、浙江省、遼寧省、江蘇省の7省からの登録であり、症例の98%が4~10月に発生し、夏季に最多となった。また、南部の省ほど発生時期が早く、かつ発生期間が長くなる傾向がみられた。各年における患者の年齢中央値は60~63歳と高齢であり、88%が農業従事者であった。これらの疫学的特徴は期間中変化が見られなかった。死亡例は343例で、期間中の致命率は6.4%であり、高齢であるほど高い傾向にあった。一方で、発症から診断までの日数は期間中短くはならず、疫学的特徴と合わせて農村部の医療アクセス、診断能力に問題がある可能性が指摘されている (Sun J et. al., 2017)。

 台湾においては、2019年11月に初めてSFTS症例が確認された。患者は、北部出身の70代の男性で、発症日に近い時期に海外渡航歴はなかったが頻繁に山岳地帯に旅行していた(Peng SH. et al., 2020)。また、2022年5月に2例目となる台湾東部の林業従事者の症例が台湾衛生福利部疾病管制署(台湾CDC)により報告された (Taiwan CDC, 2023)。

 韓国では、2012年にSFTSに罹患した死亡例が発生していたことが翌年報告された(Kim KH. et al., 2013)。それ以降、韓国におけるSFTSの年間患者報告数は36例(2013年)、55例(2014年)、 79例(2015年)、165例(2016年)、272例(2017年)、259例(2018年)、223例(2019年)、243例(2020年)、172例(2021年)、193例(2022年)、198例(2023年)となっており(KDCA, 2024)、近年の韓国の年間患者報告数は日本よりも多い。ただし、SFTSの季節性や発生地域、患者年齢、症状や検査結果等の詳細な解析や報告は示されていない。また、2008年、2010年、2012年にSFTS患者が発生していたことが2018年に報告されており、2008年の患者が現在把握されている韓国のSFTS患者の最も早い症例である (Kim KH. et al., 2018, Kim YR. et al., 2018)。

 また、2009年には北朝鮮出身の57歳男性患者が、一時就労中のアラブ首長国連邦のドバイで急性血小板減少症、白血球減少症、多臓器機能障害を呈した報告があり、病原体診断はなされていないものの、臨床症状から北朝鮮におけるSFTS感染事例である可能性が指摘されている (Denic S. et al, 2011)。

 SFTSによる死亡のリスク因子として、中国から年齢、意識レベルの低下、LDH及びCKの上昇が死亡例で優位に見られたと報告しているほか、中国、韓国、日本からの報告をもとに実施されたメタアナリシスでは、年齢、ウイルス量、血小板減少、肝酵素の上昇、低アルブミン、APTTの延長が死亡例で優位に見られたと報告している(Liu W. et al., 2013、Chen Y. et al., 2017)。

 

2.東南アジアでの発生状況

 東アジア以外に、東南アジアからも後方視的な診断を含めたSFTSの発生報告がある。
 タイからは、2018年10月から2021年3月までに入院したバンコク及びその近郊の患者の保存検体を対象にSFTSウイルスのPCR検査を実施したところ、2019年11月、2020年5月、2020年10月に入院した患者1例ずつ計3例が陽性であったとの報告がある。検出されたウイルスのゲノム解析結果は、3株とも2012年から2017年にかけて中国で報告されたSFTSウイルスの遺伝子型と近似していた。患者はいずれも発症前3週間の海外渡航歴はなく、バンコク近郊での感染が示唆された(Rattanakomol P. et al., 2022)。
 ベトナムからは、同国中部フエ市の病院で2017年10月から2018年3月の間に入院した発熱患者80例の血清検体を対象にSFTSウイルスのPCR検査を実施したところ、中国・韓国・日本への渡航歴のない20代の男女2例が陽性、うち1例はIgM抗体も陽性であったとの報告がある。2例とも発熱、頭痛、血小板減少、白血球減少、血中肝酵素値上昇があり、臨床的所見としてSFTSとして矛盾しなかった (Tran XC. et al., 2019)。
 ミャンマーからはつつが虫病疑い患者152例を対象にPCR検査を実施したところ、SFTS患者5例が含まれることが報告され、ゲノム解析の結果、4株のゲノムがベトナムから報告された株と一致し、残り1株も1塩基異なるのみであった (Win AM. et al., 2020)。
 現在のところ、東アジア、東南アジア以外の国からはSFTSの確定診断症例の報告はない。

 

 

国内における重症熱性血小板減少症候群の発生状況

1.ヒトにおける発生状況

 SFTSは2013年3月4日に感染症法にもとづく感染症発生動向調査で4類感染症(全数把握対象疾患)に定められ、患者もしくは無症状病原体保有者を診断した医師、感染死亡者及び感染死亡疑い者の死体を検案した医師は、ただちに最寄りの保健所への届出を行わなければならない。
 2013年3月4日から2024年4月30日(4月30日時点暫定値)までに感染症発生動向調査で届け出られた患者報告数は955例で、それ以前に報告されていた8例(2005年2例, 2010年1例, 2012年5例)を加えた報告数は963例であった。このうち、届出時点での死亡例は106例(11.0%)であったが、届出後に死亡した症例が含まれていない可能性があることに留意が必要である。
 届出は毎年5~10月に多く、西日本を中心とした30都府県から報告されていた。なお、東京都から2例の届出があったが、その推定感染地域は長崎県、岡山県であった。患者の性別は、男性が485例(50.4%)と男女比はおおむね1:1であり、年齢は60歳以上が多かった(年齢中央値75歳)(図1、表)。また、動物の診療やケア等で感染したと推定されている獣医療従事者が11例報告された。
 また、感染症発生動向調査での届出はないが、2021年に過去の不明熱患者の血液を調査した報告では、2017年に千葉県で感染した可能性のあるSFTS症例が報告されている(平良ら、2021)。
 SFTSウイルスのヒトーヒト感染は中国や韓国から複数報告されているが、2024年3月に国内で初めてのヒトーヒト感染症例として、SFTSウイルスに感染した重症患者の体液などに直接触れる機会のあった医療従事者の感染が報告された(清時ら、2024)。
 また、感染症発生動向調査での届出はないが、2021年に過去の不明熱患者の血液を調査した報告では、2017年に千葉県で感染した可能性のあるSFTS症例が報告されている(平良ら、2021)。
 国内におけるSFTS患者の解析から、予後リスク因子として年齢、血小板減少、悪性腫瘍の併存、初回受診時の振戦の存在が、死亡例で優位にみられたと指摘されている(Kobayashi . et al., 2020)。

 

SFTS Figure1

 図1. 感染症発生動向調査に届け出られたSFTS症例の発病年月(n=945, 2024年4月30日現在)
届出開始日(2013年3月4日)以前に発病した8例、発病年月の記載のない10例を除く

 

 表. 感染症発生動向調査に届け出られたSFTS症例の基本情報(2024年4月30日現在)

  SFTS Table
※死亡数は感染症発生動向調査への届出時までに死亡し、死亡例として届出された症例の集計であり、届出後に死亡した症例数は含まれていない。
正確な死亡数及び届出症例における致命率はより高い可能性がある。また自治体による公表情報とは異なる場合がある。

 

2.動物における発生状況

 国内では、動物のSFTSについては法令上の届出義務はない。国内でSFTSウイルスに感染した動物として、2017年4月にネコ、6月にイヌ、8月にチーターが報告された(Oshima H. et al., 2022, Matsuno K. et al., 2018)。このうち6月のSFTSを発症したイヌの事例については、飼い主への感染が強く疑われている。それ以降、ネコやイヌに発熱、白血球減少、血小板減少、肝酵素上昇、CK上昇、T-Bil上昇、黄疸、嘔吐、消化器症状等が認められる場合、血清の遺伝子検査により確定診断がなされているまた、ELISAによるIgM抗体の上昇、回復期におけるIgG抗体やウイルス中和抗体価の上昇も補助的診断の指標として用いられている。
 多くの研究者の協力を得て行われた国内での動物での感染状況の調査の結果、2023年には1年間でネコ194匹、イヌ12匹のSFTS症例報告されている(図2)。発生の多くは西日本で、最近では石川県、静岡県での発生も報告されている。発生時期は3月から5月に多く、ヒトの発生時期よりも早い傾向がある(図3)。ネコでは症状が重篤になることが報告されており、発熱、白血球減少、血小板減少、黄疸等がみられ、致死率は62.5%とされる(Matsuu A. et al., 2019)。また、イヌにおいてもネコやヒトと同様の症状が観察されている(Ishijima K. et al., 2022)。発症動物から感染した飼い主や獣医療従事者の報告も年間数例あり(Oshima H. et al., 2022, Kirino Y. et al., 2022, Miyauchi A. et al., 2022, Kirino Y. et al., 2021, Tsuru M. et al., 2021, Kida K. et al., 2019)、発症動物の取り扱いの際には感染対策に注意が必要である。
 多くの野生動物がマダニの吸血により感染しており、野生動物での感染率が上昇してくるとヒト感染例が発生する傾向があると報告されていることから、野生動物での抗体保有状況等を調べることにより地域でのSFTS感染リスクを予測できる可能性があるとしている (Tatemoto K. et al., 2022)。

SFTS Figure2

 図2. 日本国内におけるSFTS発症イヌ、ネコの報告数 (2017年~2023年、2023年12月31日現在)

 

SFTS Figure3

 図3. 日本国内におけるSFTS発症ネコの月別報告数 (2017年~2023年、2023年12月31日現在)

 

国内における対応

 主なヒトへのSFTSウイルス感染経路はSFTSウイルスを保有するマダニによる吸血であるが、SFTSを発症したネコやイヌなどの伴侶動物に咬まれる、体液等に直接触れる、SFTSを発症したヒトの体液に直接触れること等による感染がこれまで報告されている。そのため、SFTSウイルスに感染しないためには、ヒト、動物におけるSFTS症例が報告されている関東以西、特に報告が多い西日本では、マダニに吸血されないような対策、SFTS発症の可能性のある衰弱した伴侶動物やSFTS患者に接触する際には、直接体液に触れないよう標準予防策及び感染経路別予防策を徹底することが重要である。

 マダニに刺されないためには、特にマダニの活動が盛んでマダニに刺される危険性が高まる春から秋にかけては、草むらや藪など、マダニが多く生息する場所に入る際に対策を講じる必要がある。長袖・長ズボンを着用する、シャツの裾はズボンの中に、ズボンの裾は靴下や長靴の中に入れる、または登山用スパッツを着用する、サンダル等は避け足を完全に覆う靴を履く、帽子や手袋を着用し、首にタオルを巻く等、肌の露出を少なくすることが重要である。加えて、服の色はマダニの付着を目視で確認しやすい明るい色が推奨される。屋外活動後は入浴し、マダニに刺されたかどうかを確認することが重要である。特に、首、耳、わきの下、足の付け根、手首、膝の裏などを注意して確認することが推奨される。
 また、医薬品・医薬部外品として販売されているDEET(ディート)やイカリジンを主成分とする忌避剤もマダニ対策として有用であり、「効能及び効果」に「マダニの忌避」と書かれているものを、用法用量を守った上で使用することが重要である。忌避剤の効力持続時間は濃度に比例する。その他、マダニ対策に関しては、国立感染症研究所昆虫医科学部で作成した啓発資料「マダニ対策、今できること」(国立感染症研究所, 2019)を参照のこと。
 マダニ類の多くは、ヒトや動物に取り付くと、皮膚にしっかりと口器を突き刺し、長時間(数日から、長いものは10日間以上)吸血するが、刺されたことに気がつかない場合もある。吸血中のマダニに気が付いた際、無理に引き抜こうとするとマダニの一部が皮膚内に残って化膿する、マダニの体液を逆流させて病原体が体内に入りやすくなるといった恐れがあるため、医療機関(皮膚科など)で処置(マダニの除去、消毒など)をしてもらうことが推奨される。また、マダニに刺された後は、数週間程度は体調の変化に注意し、発熱等の症状がある場合はすみやかに医療機関で診察を受け、その際、マダニに刺されたことを医師に説明することが推奨される。
 飼育されている動物においても同様に、マダニが多く生息する場所に近づけないことが重要である。特にヒトと接する機会の多い愛玩動物については、草むらや茂みの多い環境に動物を連れて行かないよう注意すべきである。そのような環境に接した場合には、目視でマダニに刺されていないかどうかの確認を行う。加えて、定期的に愛玩動物用のマダニ駆除剤(内服、外用)を用いて、愛玩動物に付着したマダニを駆除することも有用である。
 また、マダニに刺された後、もしくはマダニの生息する環境に接した後の動物に発熱などの症状が出現した場合は、マスク、手袋などを用いて、咬まれたり体液に触れたりしないように注意したうえで、速やかに獣医の診察を受けることが推奨される。

 SFTSに対する治療については、今までは承認された抗ウイルス薬がなく、対症療法に限られていたが、2024年5月24日に厚生労働省の薬事審議会・医薬品第二部会での審議においてファビピラビルのSFTSに対する効能追加が了承され、6月24日に適応追加する承認が取得された(富士フィルム 富山化学株式会社, 2024)。
SFTSの医療機関における感染対策及び治療の詳細については、「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)診療の手引き 2024年版」(令和6年度厚生労働行政推進調査事業費補助金 新興・再興感染症及び予防接種政策推進研究事業「一類感染症等の患者発生時に備えた臨床対応及び行政との連携体制の構築のための研究)を参照のこと。
 また、獣医療従事者に対しては、厚生労働省HPにおいて、獣医療従事者等の専門家向けのQ&A(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/sfts_qa.html)を公開し、注意喚起、必要時の検査依頼についての情報提供を行っている。

 

リスク評価

  • SFTSは東アジアから東南アジアで報告されているダニ媒介感染症であり、中国、韓国、日本から特に多くのヒトの症例が報告されている。
  • 国内での推定感染地域は、西日本を中心に中部地方に及んでおり、特に春から秋にかけてのマダニの活動が活発になる時期に感染リスクがある。
  • マダニの活動が活発になる時期に野外活動を行う機会のある場合の感染リスクは中程度である一方で、一般生活における感染リスクは低いと考えられる。
  • 動物を介した感染が国内外から報告されていることに加え、ヒトーヒト感染も以前から国外での報告があり、また今般国内でもヒトーヒト感染事例が報告されたことから、SFTSが確定した、もしくは疑いの患者や動物に接する医療従事者・獣医療従事者における感染リスクは中程度と考えられる。

 

今後の対策と推奨

  • マダニ刺咬によるSFTSウイルスの感染を避けるために、ダニの活動が活発な時期においては、草むらや藪などで野外活動を行う際には長袖長ズボンの着用や忌避剤の使用などのマダニ対策を講じることが推奨される。
  • 動物、患者を介したSFTSウイルス感染を避けるために、SFTSが確定した、もしくは疑いの患者や動物に接する際は適切な感染予防策を講じることが必要である。

 

 

参考文献

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