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愛知県内で初めて検出された重症熱性血小板減少症候群の1例

(IASR Vol. 42 p232-233: 2021年10月号)

 

 重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome:SFTS)は, 主にSFTSウイルス(SFTSV)を保有しているマダニに咬まれることにより感染するダニ媒介感染症で, 2013年3月4日から感染症法に基づく4類感染症として診断した医師に届出が義務づけられている。2013年に山口県で国内初症例が発生し1), 国内では4~10月頃に年間数十例の患者届出があり, 2021年6月末の時点で西日本を中心に637症例の届出がある。これまでに本県に隣接する三重県および静岡県で患者発生が確認されており2), 隣接するすべての県(三重, 岐阜, 静岡, 長野)においてマダニからSFTSVが検出されている3)。近県の状況を鑑みると, 本県にSFTSVが侵淫している可能性は極めて高いと推測されていた。今回, 愛知県で初めてSFTSV感染事例が確認されたので報告する。

患者概要

 70代男性, 県内在住で職業は農業。基礎疾患なし。発症に先立って県外への旅行歴なし。2021年6月26日頃から発熱, 全身倦怠感。6月28日に県内医療機関を受診。

 発熱39.1℃, 発疹(紅斑), 血小板減少, 白血球減少, リンパ節腫脹, 肝機能障害(AST・ALT・LDHの血清逸脱酵素上昇), 腎機能障害(血尿, 蛋白尿, 腎不全), 播種性血管内凝固症候群(DIC), 高CPK血症が認められた。刺し口あり。SFTS疑い症例として入院治療となり, 管内保健所を通じ当所に検査依頼があった。

PCR検査

 7月5日に採取された血清および皮膚病巣(痂皮)から核酸を抽出し, SFTSV病原体検出マニュアル4)に準じたOne-Step RT-PCR法でSFTSV NP遺伝子の検出を行った。その結果, 痂皮検体からは増幅産物は認められなかったが, 血清検体よりprimer set1およびset2で目的のバンドが検出された。この増幅産物を, ダイレクトシーケンス法により塩基配列(461bp)を決定したのちBLAST検索したところ, SPL010A(Nagasaki 2005)株(accession No.AB817999)の配列に最も類似性が高く, SFTSV由来の塩基配列(Aichi_21-o55)であることを確認した。NCBI登録株を参照にNeighbor-joining法を用いて分子系統解析を実施したところ, 国内で最も多く確認されているgenotype J1に分類された()。これにより本症例はSFTSと病原診断された。

 SFTSは急激に重症化し極めて致命率の高い疾患であり, 患者から医療従事者への二次感染も起こり得るため, 早期診断は重要である。本症例は, 典型的な臨床症状からSFTSV感染が疑われ, 検査診断が行われた。県外への旅行歴はなく, 動物飼育接触歴もないことから, 県内におけるダニ咬傷によるSFTSV感染が強く疑われる。よって県内の医療機関や住民に対しての啓発が重要であり, 当所においても本県のマダニのSFTSV保有状況調査を実施する予定としている。

 

参考文献
  1. Takahashi T, et al., J Infect Dis 209(6): 816-827, 2014
  2. 国立感染症研究所ウイルス第一部・感染症疫学センター, 感染症発生動向調査で届出られたSFTS症例の概要
    http://www.niid.go.jp/niid/ja/sfts/sfts-idwrs/7415-sfts-nesid.html
  3. 森川 茂ら, IASR 35: 75-76, 2014
  4. 病原体検出マニュアル, 重症熱性血小板減少症候群(SFTS),令和元年9月第1版
    https://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/SFTS20200812.pdf

愛知県衛生研究所生物学部    
 伊藤 雅 安達啓一 廣瀬絵美 宮本真由歌 中村武靖
 齋藤典子 佐藤克彦           
知多厚生病院
 増山勝俊     
半田保健所

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