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<速報>国内で確認された重症熱性血小板減少症候群(SFTS)患者8名の概要(2013年3月13日現在)

(掲載日 2013/3/14)

 

2013年1月に国内で初めて重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome:SFTS)ウイルス(SFTS virus:SFTSV)による感染症患者が報告された1)。その後、2013年1月30日の厚生労働省健康局結核感染症課長通知(健感発0130第1号)で症例定義(http://www.niid.go.jp/niid/images/iasr/rapid/graph/pt39811.gif)に合致する患者情報に関して、地方自治体を通じて全国の医療機関に情報提供の依頼がなされた。その結果、全国の医療機関から50件を超える情報提供があり、検査がなされた患者のうち7名がSFTSと診断された。計8名の患者の概要を報告する。

患者の性別・年齢の内訳はそれぞれ、男性が6名、女性が2名で、すべて50歳以上(50代2名、60代1名、70代2名、80代3名)であった。これまで患者が確認された都道府県は長崎県(2名)、広島県(1名)、山口県(1名)、愛媛県(1名)、高知県(1名)、佐賀県(1名)、宮崎県(1名)であった。発症時期は4月中旬~11月下旬までの春から晩秋にかけての期間であった。2名は2005年、1名は2010年、5名は2012年の発症であった。発症前のダニ咬傷が2名で確認された。すべての患者は症例定義に合致しており、検査所見では血小板減少(中央値34,500/mm3)と白血球減少(中央値は1,300/mm3)を認め、集中治療を要した等の重症の経過をとった。5名が死亡例、3名が回復例であった。少なくとも3名の患者において,骨髄検査で血球貪食像が認められた。7名は急性期血液からのSFTSV遺伝子の増幅やSFTSVの分離によりSFTSと診断された。1名は急性期血液が保管されていなかったため、ウイルス学的にはSFTSと診断できなかったが、典型的臨床症状と回復期血清がSFTSV抗体陽性を呈したことからSFTSと判断した。患者から増幅されたSFTSV遺伝子の分析結果より、中国の流行地域で見つかっているウイルスとは遺伝子レベルで若干異なっていることから、患者はいずれも国内で感染したと考えられた。

以上の概要から、これまでSFTSと診断された患者は壮年から高齢の者であり、中国からの報告2-4)と同様の傾向を示していた。また、これまでのところ西日本でのみ患者が確認されている。しかし、SFTSの好発年齢や好発地域については、今後の前向きな調査・研究を待たなくてはならない。発症前のマダニ咬傷が8名中2名で確認されたことは、SFTSがダニ媒介性感染症であることを示している一方で、ダニ刺口痕がないことをもってSFTSを鑑別診断から除外することはできないことも示している。患者の発生時期は中国からの報告5)とほぼ同様で、マダニが活発となる4月~11月にかけてであった。しかし、11月末に発症している患者もいることから、12月の患者発生もあり得ると考えられた。また、症状や検査所見に関しては、今回の調査に症例定義に合致しない患者の情報が含まれていないことに留意する必要がある。

今後、日本におけるSFTSの疫学・臨床的特徴、SFTSVの自然界における生活環(存在様式)、診断・治療・予防および院内感染対策を含む診療のあり方等について調査がなされる必要がある。

なお、本SFTS患者の概要を発表するにあたり、国内初のSFTS患者の発表以降、SFTS患者(疑い患者を含む)の情報提供等にご協力下さった医療関係者の皆様、都道府県等における関係者の皆様に深謝する。

 

参考文献
1) IASR 34: 40-41, 2013
2) Yu XJ, et al., N Engl J Med 364: 1523-1532, 2011
3) Xu B, et al., PLoS Pathog 7: e1002369, 2011
4) Gai ZT, et al., J Infect Dis 206: 1095-1102, 2012
5) Zhang YZ, et al., J Virol 86: 2864-2868, 2012

 

国立感染症研究所ウイルス第一部
  西條政幸 下島昌幸 福士秀悦 谷 英樹 吉河智城
同感染症情報センター 山岸拓也 大石和徳
同獣医科学部 森川 茂
厚生労働省健康局結核感染症課 梅木和宣

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