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国立感染症研究所 感染症疫学センター
2019年7月3日現在
(掲載日:2019年10月23日)

 

梅毒は梅毒トレポネーマによる感染症で、その母子感染は、流産、死産のリスクのほか、児が出生した場合も低出生体重、先天梅毒のリスクがある。梅毒の母子感染は早期発見と適切な治療を行うことで防ぐことができる。WHOは梅毒母子感染の排除を目標に掲げており、各国とも対策を進めている(WHOの梅毒母子感染排除基準は10万出生当たり50例未満)1)

我が国では、2014年頃から異性間の男女における梅毒感染報告が増加した2)。これに平行して先天梅毒の報告も増加傾向を示している3)。平成31年(2019年)1月1日から梅毒の届出様式が変更され、妊娠の有無、直近6ヶ月以内の性風俗産業の従事歴の有無が届出内容に含まれた。2019年第1週から第26週までに報告された女性梅毒症例のうち、「疾病共通備考欄」あるいは「その他事項」欄に「妊娠」の文字列が含まれる症例を抽出し、「妊娠あり」の症例についてまとめた。

この期間に届け出られた女性梅毒症例は1117例であり、妊娠に関する記述の含まれた症例は888例、うち、妊娠ありとされた症例は106例(妊娠に関する記述のある症例の12%)であった。

妊娠症例106例の年齢群別は、15-19歳が10例(9%)、20-24歳が38例(36%)、25-29歳が30例(28%)、30-34歳が20例(19%)、35-30歳が7例(7%)、40-44歳が1例(1%)であった。病型別では、早期顕症Ⅰ期が5例(5%)、早期顕症Ⅱ期が25例(24%)、無症候が76例(72%)であった。妊娠週数の記述があったのは106例中100例で、妊娠週数19週までが74例(74%)、20週以降が26例(26%)であった。直近6ヶ月以内の性風俗産業の従事歴について、記載があったのは妊娠症例106例中61例で、「あり」が5例(8%)、「なし」が56例(92%)だった。

梅毒の妊娠症例は2019年第2四半期時点では年間200例ペースで報告されており、届出様式に平成31年1月から追加された妊娠に関する記載があった症例の12%を占めていた。また、2019年第2四半期時点において、2019年の先天梅毒の報告数が9例であったのに対し、梅毒の妊娠症例は106例と約12倍であった。妊娠症例は性風俗産業従事歴のない20代後半から30代前半の女性が多く、感染源が男性パートナーである可能性が示唆された。無症状の症例が7割以上を占めることから、妊婦健診が有効に機能していると考えられたが、20週以降に診断されている症例も26%を認めた。今後、妊娠女性梅毒症例の治療、胎児の転帰、先天梅毒児が生まれた場合の治療方法とその転帰を詳細に調べていくことが重要である。

 
[参考文献]
  1. WHO: Global guidance on criteria and processes for validation: Elimination of Mother-to-Child Transmission of HIV and Syphilis. 2nd edition
  2. 国立感染症研究所:日本の梅毒症例の動向について (2019年7月3日現在)
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/syphilis-m-3/syphilis-idwrs/7816-syphilis-data.html
  3. 国立感染症研究所:IDWR速報データ 2019年 https://www.niid.go.jp/niid/ja/data.html

 


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