国立感染症研究所

国立感染症研究所 実地疫学研究センター
感染症疫学研究センター
2024年5月20日現在
(掲載日:2024年8月2日)

劇症型溶血性レンサ球菌感染症(streptococcal toxic shock syndrome : STSS)は、病状の進行が急激かつ劇的で、発病から数十時間以内にショック症状、多臓器不全、急性呼吸窮迫症候群、壊死性筋膜炎などを伴う、致命率の高い感染症である。

本疾患は、感染症法に基づく5類全数把握疾患として、診断したすべての医師に届出が義務付けられている(届出基準https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-06.html)。1999年4月~2006年3月までの期間においては、原因菌はA群溶血性レンサ球菌に限定しての届出とされてきたが、2006年4月から、A群に限らずヒツジ赤血球加血液寒天培地においてβ溶血(完全溶血)を示すレンサ球菌すべてに変更された。

ヒトに化膿性疾患を起こすレンサ球菌の多くはβ溶血性レンサ球菌であり、細胞壁多糖体抗原性による分類では、A群レンサ球菌〔Group A Streptococcus (GAS); 主にStreptococcus pyogenes〕、B群レンサ球菌〔Group B Streptococcus(GBS); 主にS. agalactiae〕、C群またはG群レンサ球菌〔Group C or G Streptococcus (GCS または GGS); 主にS. dysgalactiae subsp. equisimilis (SDSE)〕の3種が重要である。GASは、①急性咽頭炎や蜂窩織炎などの急性化膿性疾患や敗血症、②毒素に起因する猩紅熱やSTSS、③免疫学的機序が関与する急性糸球体腎炎やリウマチ等の続発症を引き起こす。GBSは、新生児の菌血症、髄膜炎、および成人の敗血症、肺炎等の原因となり、SDSEは、呼吸器感染症、敗血症、STSSを引き起こす1)

〇2006年4月1日~2024年3月31日の届出(2024年5月20日現在)
年別届出数

STSSの年間届出数は、届出対象がβ溶血を示すレンサ球菌へ拡大された2006年4月以降、診断年ごとにみると2010年までは100例前後、2011年~2014年は200例前後で推移し、その後2019年まで年々増加した(図1)。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行後の2020年~2022年は届出数が減少したが、2023年には再び届出数は増加し、過去最多となる949例(※暫定値)の届出となった。

なお、本稿の届出数は、診断日の日付に基づいて集計しているなどの理由により、年報の集計値とは異なることに注意が必要である。

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〇2015年1月1日~2024年3月31日の届出(2024年5月20日現在)

これまで病原微生物検出情報(IASR)2)3)にて、感染症発生動向調査で届け出られたSTSS症例の概要として、2006年4月1日~2011年、および2012年~2015年6月における年齢群別、男女別、抗原性別に分類した届出数の集計結果等が報告されている。以下、本稿では、2015年以降について概要を報告する。

月別届出数、都道府県別届出数、性・年齢群別届出数、届出時死亡数

2015年1月~2024年3月の届出数は6,666例であった。2015年以降のSTSSの月別届出数は、50~100例/月程度で推移してきたが、2023年12月には100例/月を超え、2024年1月には過去最多である243例/月となった(図2)。男女別では、男性が3,578例(53.7%)、女性が3,087例(46.3%)、不明が1例であった。都道府県別届出数(人口10万対)は、富山県が最も多く、次いで鳥取県、香川県の順であった(図3)。患者の年齢中央値は73歳〔四分位範囲(以下IQR): 59-83〕で、高齢者に多かった。男性は70~74歳に最も多く、年齢中央値は71歳〔IQR: 58-81〕、女性は、85~89歳が最も多く、年齢中央値は75歳〔IQR: 61-86〕であった(図4)。死亡例は1,660例(24.9%)であった。発症日および死亡日が判明している1,402例のうち、1,099例(78.4%)が発病から3日以内に死亡し、659例(47.0%)が発病日当日もしくは翌日に死亡していた。死亡例における年齢の中央値は77歳〔IQR: 64-86〕であった。

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なお、発生動向調査において届出時に死亡報告があるものが原則として集計されており、届出後に死亡した例は含まれていない。そのために発症日から死亡までの日数や死亡割合の解釈には注意が必要と考えられる。

※総務省統計局 人口推計(2023年(令和5年)10月1日現在)における各都道府県人口を基に算出
Lancefield分類別(届出数、年齢、臨床症状、感染経路)

検出された病原体のLancefield分類の記載のあった届出は6,287例(A群2,885例、B群986例、C群92例、G群2,235例、その他〔複数のLancefield分類のある症例を含む〕89例)、記載されていないまたは不明の届出は379例であった。

届出数の多いA群、B群、G群の3群(6,106例)について検討すると、2015年~2019年は全ての群が増加傾向であり、届出数はA群、G群、B群の順に多かった。2020年~2022年は、A群の届出数が減少した一方で、B群は増加傾向、G群はほぼ横ばいであった。このため届出数は、多い順にG群、A群、B群へと変化した。しかし、2023年11月以降、A群の届出数は再び増加した(図5)。

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A群、B群、G群として届け出られた6,106例について、年齢中央値〔IQR〕はそれぞれA群66歳〔IQR: 51-76〕、B群73歳〔IQR: 57-83〕、G群81歳〔IQR: 71-88〕であった。年代別割合では、A群は80代以上の高齢者の占める割合が19.5%であるのに対して、B群では36.0%、G群は52.6%を占めた。また、B群は、10歳未満が約1割を占めた(図6)。一方、50代以下の年代がA群では全体の36.2%、B群では28.4%、G群では10.7%であった。届出に必要な臨床症状(ショック症状は必須)は、腎不全や播種性血管内凝固症候群(DIC)、軟部組織炎が多く、A群とG群は、B群に比べて軟部組織炎が届出される割合が多く、B群は、A群とG群に比べて中枢神経症状が届出される割合が多かった(図7)。感染経路に関する記載のうち感染経路不明として届出された症例は2,544例(41.7%)であった。推定感染経路は接触感染・創傷感染が最も多く2,630例(43.1%)、その他(経口感染を含む)が763例(12.5%)、飛沫・飛沫核感染が339例(5.6%)であった。A群は、B群とG群に比べて飛沫・飛沫核感染の割合が多く、B群は、A群とG群に比べて不明やその他(尿路感染、母子感染など)の割合が多く、接触感染・創傷感染の割合が少なかった(図8)。

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〇まとめ

STSS届出数は、2006年以降、年々増加傾向を示していたが、COVID-19流行中である2020年~2022年は減少に転じた。しかし、2023年秋頃から再度増加に転じ、2024年1月に最も多い数が報告された。

Lancefield分類別でみると、A群、B群、G群で疫学的な傾向に違いがあることが示唆された。COVID-19流行中の2020年~2022年の届出数は、B群が増加、G群では横ばいで推移した一方で、A群では減少していた。また、2023年から2024年前半にかけては、A群は大きく増加している。年代別にみると、全期間を通して、50代以下がA群では全体の36.2%である一方、B群では28.4%、G群では10.7%であった。届出に必要な臨床症状の割合は、B群は中枢神経症状が多く、軟部組織炎が少なかった。A群、B群、G群において、推定感染経路の記載があったのは届出数の58%であったことに留意する必要があるが、接触感染・創傷感染が約4割と最も多かった。また飛沫・飛沫核感染の記載割合がA群では8.1%とB群(4.2%)およびG群(2.9%)よりも多かった。

現時点で、近年のSTSS届出数増加の要因は不明である。現状を明らかにするためにも、国内での発生状況、疫学的特徴を引き続き把握していくことが重要であり、積極的な菌株収集、疫学情報の収集が求められる。

参考資料
  1. 溶血性レンサ球菌感染症 2012年~2015年6 月, IASR Vol. 36 No.8 147-149, 2015
  2. 溶血性レンサ球菌感染症 2006年4月~2011年, IASR 33 No.8 209-210, 2012
  3. わが国における劇症型溶血性レンサ球菌感染症の疫学, IASR Vol.36, No.8 153-154, 2015
  4. A群溶血性レンサ球菌による劇症型溶血性レンサ球菌感染症の50歳未満を中心とした報告数の増加について(2023年12月17日現在), IASR Vol. 45 No.2 29-31, 2024
  5. 国内における劇症型溶血性レンサ球菌感染症の増加について, 国立感染症研究所, 2024,
    https://www.niid.go.jp/niid/ja/group-a-streptococcus-m/2656-cepr/12594-stss-2023-2024.html

 


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