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結核 2016年現在

(IASR Vol. 38 p231-232: 2017年12月号)

結核は感染症法において二類感染症に分類される感染症である。結核患者を診断した医師は患者の発生を直ちに保健所へ届け出なければならない (届出基準: http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-02-02.html)。結核患者の届出の義務化は1951年の旧結核予防法の改定により始まったが, 2007年に旧結核予防法は感染症法へと統合された (本号3ページ)。ここでは, 医師による届出をもとに全国の都道府県・政令指定都市・特別区から保健所を通じて報告される結核患者の状況(2016年1月1日~12月31日)を取りまとめた2016年結核登録者情報システム(結核サーベイランス)の年報データを中心に, 最近の日本の結核患者の発生状況等について述べる。

結核登録者情報システム:感染症サーベイランスシステムのサブシステムのひとつで, 感染症法に基づいて届出された結核患者と潜在性結核感染症治療対象者の情報が, 全国の保健所で結核登録票に登録されて入力される。

患者発生動向の概況図1に各年の新届出結核患者数および届出率*の年次推移を示す。2016年に新たに結核と診断され届出された患者は17,625人, 人口10万対13.9であった。厚生労働省は, 2016年に「結核に関する特定感染症予防指針」(健発1125第2号)(以下, 予防指針)において, 2020年までに結核罹患率を人口10万対10以下にする目標値を掲げた。しかし, 現状の年間4~6%の減少の継続では, この目標達成は数年遅れる可能性がある。

患者の病状:2016年の新届出結核患者のうち77.2%(13,608人)が肺結核, 22.8%(4,017人)が肺外結核であった。肺結核患者のうち結核菌の確認により診断されたものが11,668人(85.7%)で, 残る1,940人(14.3%)が胸部エックス線検査等により診断された。また, 肺結核で喀痰を検体とする塗抹検査で陽性となった患者は6,642人であり, つまり肺結核患者の約半数が感染源として特に重要な患者である。肺以外の罹患臓器で最も多いのは胸膜(3,141人), 次いでリンパ節, 腸, 脊椎, 腹膜の順に多かった。全身結核としての粟粒結核(血行性伝播)は633人であった。再治療患者は908名で, 新届出患者の5.2%を占めた(2006年は7.3%)。

患者の性比および年齢分布:2016年の新届出結核患者のうち10,594人(60.1%)が男性, 7,031人(39.9%)が女性であった。35歳以上で男女比が高くなり, 特に40歳以上80歳未満の年齢層では男性患者数は女性患者数の約2倍であった。

新届出結核患者の年齢分布では, 高齢者の割合が増加を続けている(図2)。新届出患者のうち65歳以上の割合は, 1996年では43.0%であったが, 2006年には54.5%となり, 2016年は66.6%となった。2016年には80歳以上の患者が占める割合は39.7%である。

患者年齢が14歳以下の小児結核の新届出数は59人で, そのうち12人が外国生まれの者であった。14歳以下人口の10万人対届出率は0.4と非常に低く, 重症となる粟粒結核と結核性髄膜炎の発生は2人(うち1人は併発)であった。

患者の出生国:2016年の新届出結核患者のうち外国生まれの者は1,338人(7.9%, 出生国不明を除く割合)であった。外国出生者の割合は, 2006年に920人(3.8%)であったので, 10年間でほぼ倍増したことになる。特に15~39歳での増加が顕著で, 20~29歳の年齢層では外国生まれの者は712人, 同年齢層で占める割合は58.7%となっており, 半数以上は外国生まれの者であった。外国生まれの者の出身国別内訳は, フィリピン318人(23.8%), 次いで中国272人(20.3%), ベトナム212人(15.8%), ネパール135人(10.1%) となっている。特に, 近年のベトナムとネパール出身者の増加は顕著で, 2011年の数と比較して, ベトナムは4.1倍(2011年52人), ネパールは3.6倍(同38人)となった(本号4ページ)。

地域別届出率:結核患者発生の地理的分布は, 全体的には 「西高東低」 の傾向が続き, 同時に都市部への患者発生の集中が進んでいる(図3)。東京都区部および政令指定都市では, その人口割合は全体の29.1%であるのに対し, そこでの新届出患者数は, 日本全体の35.2%, 64歳以下の患者では, 全体の41.3%を占めている。人口10万人対届出率が最も高い都道府県は大阪府の22.0で, 最も低い山形県の7.2の約3倍となっている。人口10万人対届出率10以下の道県は東日本を中心とする10道県である。

患者の発見に至る契機と検査法:2016年の新届出肺結核患者のうち73.9%(10,063/13,608)が有症者であった。全有症者中, 53.9%が有症状による医療機関の受診, 24.7%が他疾患を理由とした入院・通院により発見されている。全新届出患者のうち定期健診での発見は1,759人(10.0%), 接触者健診による発見は620人(3.5%)であった。

有症状で発見された肺結核患者のうち発症時期の入力があった患者が6,703人で, そのうち症状発現から医療機関を受診するまでの期間が2カ月を超えている者の割合は19.7%(1,323人)であった。また, 感染源として重要な喀痰塗抹陽性の肺結核患者ではこの割合は高くなっており, 特に30~59歳の年齢層では33.3%と, 3人に1人は2カ月以上症状を有したまま医療機関を受診していない状態であった。菌検査による診断(本号7ページ)は, 塗抹検査が全新届出肺結核患者の98.9%, 培養検査が97.1%で行われていた。

薬剤耐性結核:2016年に新届出肺結核で培養検査陽性となった患者9,878人のうち, 薬剤感受性検査結果が判明した者は7,732人(78.3%) であった。残る2,146人(21.7%)は薬剤感受性検査未実施または結果未把握であった。感受性検査結果把握者のうち, 6,939人(89.7%)は主要4剤〔イソニアジド(INH), リファンピシン(RFP), ストレプトマイシンン(SM), エタンブトール(EB)〕すべての薬剤に対して感受性のある患者であった(本号5ページ)。INH, RFP両剤に耐性である多剤耐性肺結核患者数は49人(感受性検査結果把握者の0.6%) であった。INHに耐性は369人(4.8%), RFPに耐性のある患者は74人(1.0%) であった。

治療成績:2016年年報で評価対象となった2015年の新届出肺結核喀痰塗抹陽性初回治療患者6,676人の治療成績は, 治癒と完了をあわせた治療成功が47.7%, 死亡22.7%, 治療失敗0.6%, 治療の脱落中断3.7%, 転出3.7%, 12カ月を超える治療9.3%, 判定不能12.2%であった。判定不能には, 薬剤耐性などにより標準治療ではない患者, 治療内容についての情報が不足している患者等が含まれる。治療成功率は47.7%と, WHOの目標である85%に達していない。その大きな要因は, 新届出結核患者の3分の1以上が80歳以上と高齢化し死亡割合が大きいことである。49歳以下の患者の治療成功率は約70%で推移している(本号5ページ)。

潜在性結核感染症治療対象者:2016年に新たに届出された潜在性結核感染症の者の数は7,477人であった。治療対象者は60~69歳が最も多く1,261人(16.9%)であった。潜在性結核感染症治療対象者の届出数は, 最近5年間は6,675~8,771人の間で変動している。

おわりに:2020年の結核罹患率10以下の達成に向けて, 予防指針を軸とした結核対策が進められているが, 高齢化を続ける結核患者と若中年層での外国出生患者の増加, さらに都市部を中心とする結核患者発生の偏在化による地域間の届出率の格差の顕在化といった課題に対し, 多面的対策が必要である。

*注: 結核において届出率(notification rate)とは, 診断された結核患者が, 各国の制度に基づいて国や地方政府に, ある一定期間に届け出された数を人口10万人当たりの率で表したものである。開発途上国など各国の結核対策の状況によっては患者の届出制度が未整備である場合があり, ある一定期間に実際に発生した結核患者数の人口10万人当たりの率 (incidence rate, 罹患率) と届出率の間に差が生じる場合がある。

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