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手足口病、ヘルパンギーナおよび関連合併症の入院症例に関する全国調査(2010年分)―中間集計結果

(IASR Vol. 33 p. 63-64: 2012年3月号)
近年、西太平洋地域を中心に、エンテロウイルス71型(EV71)感染による手足口病や関連合併症による重症例の集団発生が認められており、諸外国において当該重症例の疫学像を把握するための調査が行われている。本邦では2010年の手足口病流行時、EV71が主に検出された(IASR https://kansen-levelmap.mhlw.go.jp/Byogentai/Pdf/data24j.pdf参照)。今回我々は、厚生労働科学研究費補助金 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業「エンテロウイルス感染症制御のための診断・予防治療に関する国際連携研究」(研究代表者:清水博之)の一環として、本邦における、手足口病、ヘルパンギーナ、および関連合併症による入院症例(2010年分)の全国調査を実施した。

本調査は、一次調査と二次調査からなる。一次調査により、全国の入院症例数および死亡症例数を推計し、二次調査により、症例の臨床疫学像を把握する。

一次調査の対象は、全国の病院の小児科から病床別に層化無作為抽出法で選出した。計 760科を対象に、2010年4月1日~9月30日の間に入院した15歳未満の日本人で、症例定義に一つでも合致する症例について、入院症例数および死亡症例数の報告を依頼した。なお、本調査では、諸外国と比較可能な形で情報を収集するために、世界保健機関(WHO)西太平洋地域事務局刊行のガイドラインで提唱された症例定義(http://www.wpro.who.int/publications/PUB_9789290615255/en/)を採用した。また、入院患者の推計には、厚生労働科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業「特定疾患に関する疫学研究班」による「全国疫学調査マニュアル(第2版)」で提示された方法を使用した。

二次調査は、一次調査で「症例あり」と回答した診療科を対象に実施し、各症例の臨床疫学情報について調査票を用いて収集した。対象症例の解析は、以下の3群に分けて行った;(1)NC(No Complications)群:手足口病(HFMD)あるいはヘルパンギーナ(HA)のみで関連合併症のなかった者、(2)AM(Aseptic Meningitis)群:HFMD/HAの有無にかかわらず無菌性髄膜炎を呈した者、(3)Other群:HFMD/HAの有無にかかわらずその他の関連合併症を呈した者。

一次調査結果
対象760科のうち、521科(68.6%)から回答を得た。「症例あり」と回答のあった126科から1,094例(うち死亡症例5例)の報告を得た。これら報告症例から、2010年4月1日~9月30日の間に当該疾患によって入院した全国の患者数は、4,278人(95%信頼区間:1,804-6,741)と推計された。

二次調査結果
一次調査で「症例あり」と報告した126科のうち、二次調査にも回答したのは86科(68.3%)であった。これら診療科から365例(うち死亡症例2例)が報告され、このうち不適格と考えられる75例を除いた290例(NC群:144例、AM群:130例、Other群:16例)を解析対象とした。なお、Other群16例の診断の内訳は、脳炎9例、脳幹脳炎3例、急性弛緩性麻痺2例、心肺機能不全2例であった。

性別:男児の割合は、NC群49%、AM群68%、Other群63%であった。

入院時の年齢分布):各群における3歳以下の割合は、NC群62%、AM群34%、Other群63%であり、5歳以下の割合は、NC群83%、AM群52%、Other群94%であった。若年小児の割合は、NC群とOther群において高かった。

基礎疾患の保有割合:NC群20%、AM群15%、Other群6%であり、Other群で低かった。

病原検索結果):病原検索の実施割合は、Other群で75%と高い一方、NC群において7%と顕著に低かった。

今回の調査では、NC群と比較して重症と考えられるAM群・Other群で「男児の割合が高い」、Other群で「若年小児の割合が高い」、「基礎疾患の保有割合が低い」という結果を得た。これらの結果は、諸外国の研究結果と類似している1-4) 。なお、病原検索の実施割合が100%でないため、今回の調査結果から、各群におけるEV71感染割合を厳密に把握することは困難である。しかし、EV71流行年における当該疾患の臨床疫学像を明らかにすることは、諸外国の研究結果と比較するためにも非常に重要であると考えられる。今後、臨床症状の情報などを含めた詳細な解析を行う予定である。

謝辞:日頃の診療、教育、研究にご多忙な中、貴重な時間を割いて調査にご協力くださいました全国の諸先生方に深く感謝いたします。

 参考文献
1) Ho M, et al ., N Engl J Med 341: 929-935, 1999
2) Chan LG, et al ., CID 31: 678-683, 2000
3) Chong CY, et al ., Acta Paediatr 92: 1163-1169, 2003
4) Chen KT, et al ., Pediatrics 120: e244-e252, 2007

大阪市立大学大学院医学研究科公衆衛生学 武知茉莉亜 乾 未来 福島若葉
川崎医科大学小児科 中野貴司
国立感染症研究所ウイルス第二部 清水博之

 

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