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ヒラメ生産県におけるクドア対応

(IASR Vol. 33 p. 155: 2012年6月号)

 

近年、一過性の下痢や嘔吐を主な症状とし、食後おおむね2時間~数時間程度の潜伏時間で、予後が比較的良く、かつ、既知の食中毒起因物質が検出されない有症事例が多発している。疫学的調査から、その主な原因食品としてヒラメの関与が指摘され、原因食品として疑われた事例ヒラメから寄生虫Kudoa septempunctata が高率に検出された。

そこで、2010(平成22)年10月~2011(平成23)年1月の間、大分県内のヒラメ養殖業者の協力のもと、養殖ヒラメにおけるクドア属の寄生状況について、リアルタイムPCR法を用い、必要に応じ、顕微鏡観察により調査を行った。なお、本調査は、厚生労働省からの暫定検査法が発出される以前に実施されたものであるため、暫定検査法とは異なる独自法である。

材料および方法
大分県内の養殖業者(42業者)から提供された出荷前ヒラメ437匹について、大分県農林水産研究指導センター水産研究部(以下「水産研究部」という)で筋肉部分を採材したものを調査材料とした。

筋肉部分をスパーテルで少量(約30mg)を掻き取り、2mlのバイオマッシャー(アシスト社)で破砕し、遠心した沈渣を試料とした。DNA抽出は、QIAamp DNA Mini Kit(QIAGEN社)の組織からの抽出方法に準じてDNAを抽出し、最終的DNA抽出液を200μlに調整した。

リアルタイムPCR法は、
 Kudoa 3(Forward): TGTAATAATTGCTCACGAAAGAGGAA,
 Kudoa 3(Reverse): CAAAGGGCAGAGACTTATTCAACA, 
 Kudoa(probe): FAM-TCCTCGTAAGCGCGAGTCATCAGCTC-TAMRA
を用い、反応試薬はPremix EX Taq(タカラ社)、反応条件は95℃ 5sec 、60℃ 20secを45サイクルで、LightCycler 2.0(ロッシュ社)にて実施した。

結果および考察
ヒラメ養殖業者42業者の計 437匹のヒラメ検体中、15業者58検体(13.3%)からKudoa 遺伝子が検出された(詳細結果については省略)。養殖業者ごとに検出率に偏りが見られたこと。養殖場は主に陸上養殖で、検出率に地域、海域の差が認められなかったこと。3養殖業者について、生産ロットを変えて、繰り返し検査を試みたが、検出率に再現性が得られなかったこと。以上のことから、養殖ヒラメのクドア属汚染における飼育環境(使用海水や餌等)の要因は低いと考えられた。

また、Kudoa 遺伝子が検出されたサンプルについて、水産研究部において精査した結果、数サンプルで4極のK. lateolabracis K. thyrsites が確認された。リアルタイムPCRの特異性に問題があることが判明したため、顕微鏡検査での形態確認が必須と思われる。

対 策
平成23年7月以降、大分県においては、消費者へ安全な食品の提供と大分県ヒラメ養殖業者の健全な発展を目的に、大分県漁業協同組合を中心に「種苗導入段階での検査=入れない」、「養殖段階での検査=つくらない」、「出荷段階での検査=出さない」のスクリーニング体制を構築し、安全確保に努めている。

結 語
スクリーニング体制を構築し、安全確保に心血を注いでいるにもかかわらず、ヒラメが原因食品と推定される有症事例は「0(ゼロ)」にはなっていない。さかのぼり調査の結果から、大分県産ヒラメが原因食品と推定されている事例では、県外産もしくは輸入K国産ヒラメの関与が疑われる事例も散見された。このことから、漁協現場でのスクリーニング体制にも限界があり、輸入や流通段階での対策の構築が急務と考える。併せて、風評被害を払拭するために、輸入K国産ヒラメとの鑑別方法の開発が望まれる。

 

大分県衛生環境研究センター微生物担当
緒方喜久代 若松正人1) 人見 徹2) 加藤聖紀 成松浩志 小河正雄
大分県農林水産研究指導センター水産研究部養殖環境チーム
木本圭輔 福田 穣
1)公園・生活排水課
2)豊後大野家畜保健衛生所

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