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1次医療機関における肺炎マイコプラズマのマクロライド耐性

(IASR Vol. 33 p. 267-268: 2012年10月号)

 

肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae )感染症は、学童期の市中肺炎の主要原因菌であるが、幼少児期においても決して稀ではなく、この場合、上気道感染~気管支炎が主体で肺炎の病像をとらないことが多い。治療はマクロライド系が有効であるとされていた。しかし、昨年秋にIASRに<速報>小児におけるマクロライド高度耐性・肺炎マイコプラズマの大流行(2011.10.25)が報告1) され、一躍マクロライド耐性M. pneumoniae 感染症が話題になり、臨床の現場では耐性菌にも有効な、テトラサイクリン系抗菌薬、ニューキノロン系抗菌薬での治療が積極的に行われるようになっている。

しかし、報告された情報は基幹病院からの検体を中心にした検討で、1次医療機関における実態は異なると考えられる。M. pneumoniae 感染症の臨床症状は、「2~3週間の潜伏期間の後、発熱、頭痛、倦怠感、咽頭痛、咳などの感冒様症状にて発症する。基本的には鼻水は目立たない」と記載されている2) 。そこで、当院に発熱、頭痛、咳などの感冒様症状で受診し、かつ、鼻水はないかごく軽微しかでないと訴えた患者さんを対象として2012(平成24)年1月以降検討を行っている。

対象・方法
上記基準に合致し、説明後、代諾者が協力の意を表してくださった患者45名を対象とした。年齢は11カ月~13歳で、6歳8カ月±3歳、検査病日は3.5±1.6日であった。得られた咽頭ぬぐい液を川崎医科大学小児科学教室に送付し、PCR法にて、M. pneumoniae の検出、マクロライド耐性の有無の検討を行った。

結 果
1.M. pneumoniae の検出率
2012(平成24)年1~8月の検出状況を図1に示す。45名中17名が陽性であり、37.8%の陽性率であった。

2.臨床症状とM. pneumoniae 陽性の関連性
発熱、頭痛、倦怠感、咽頭痛、咳などの感冒様症状にて発症する。基本的には鼻水は目立たないとされるM. pneumoniae 感染症であるが、臨床症状と陽性率との関連をみた。

特徴的と考えられる鼻汁がないか、あってもごく少量の症例との関連をみると、鼻汁なしによるM. pneumoniae 感染陽性は、感度;(15/17)×100=88.2(%)、特異度;(13/28)×100=46.4(%)であり、鼻汁がないからといってM. pneumoniae 感染であるとはいえないことが判明した。頭痛ありによるM. pneumoniae 感染の診断は、感度35.3(%)、特異度57.1(%)、咳込みありでみると、感度52.9(%)、特異度53.6(%)であり、臨床症状からM. pneumoniae 感染症を推定することは難しい。

3.マクロライド耐性率
図2に示すが、17例中9例(52.9%)が耐性であった。例数が少なく、月別ではバラツキがみられる。マクロライド系抗菌薬前投与があったのは5例で、全例(100%)耐性であった。前投与なしは12例で、うち4例(33.3%)が耐性であった。

考察・まとめ
1次医療機関でのマクロライド耐性M. pneumoniae の検出率の検討を行った。17例中9例(52.9%)が耐性であり、例数が少なく月別ではバラツキはあるものの、1次医療機関においても基幹病院ほどではないが耐性化は進んでいる。M. pneumoniae 感染は、今回示したが、臨床症状からの診断は難しい。たとえば鼻汁がないか、あってもごく少量の症例をM. pneumoniae 感染と考えて治療開始するが、特異度46.4(%)であることを考えると、たとえ鼻汁がない気道感染症でも約半数はM. pneumoniae 以外の気道感染症ということになり、オーバートリートメントになることは容易に推定される。M. pneumoniae 感染を疑ったら、まずマクロライド系抗菌薬で治療開始し、発熱が続く場合に耐性菌感染症を考慮して2次選択薬を考慮することが推奨されている3) 。耐性率が増加しているからといって、耐性菌にも有効な抗菌薬、特にニューキノロン系抗菌薬で治療開始することは、キノロン耐性菌の増加、とくに、キノロン耐性インフルエンザ菌の増加をきたし、外来におけるBLNAR治療の難渋化に繋がる危険性があり、厳に慎むべきである。

 

参考文献
1)生方公子,他, IASR 32: 337-339, 2011
2)日本小児感染症学会編,日常診療に役立つ小児感染症マニュアル2012,東京医学社,東京,2012
3)日本小児呼吸器疾患学会・日本小児感染症学会,小児呼吸器感染症診療ガイドライン2011,尾内一信,黒崎知道,岡田賢司監修,協和企画,東京,2011

 

くろさきこどもクリニック(千葉市) 黒崎知道
川崎医科大学小児科 尾内一信

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