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兵庫県の保育所における百日咳集団感染事例

(IASR Vol. 33 p. 326-327: 2012年12月号)

 

2012年7~8月にかけて、兵庫県西部のS町で一つの保育所を中心とする百日咳集団感染事例が発生し、小規模ながら周辺への感染拡大が認められたので、その概要を述べるとともに、小児科定点医療機関で採取した検体からの病原体検索結果について報告する。

流行の概要
最初に百日咳の集団感染が確認されたのは園児45名(1および2歳児が各1名、3歳児10名、4歳児20名、5歳児13名)と職員14名の保育所で、この施設では5歳児クラスの7月10日発症が最も早く、次いで3歳児および4歳児クラスで患者が発生し(図1)、本保育所が初発施設と考えられた。しかし、届出に伴う疫学調査では、隣接する小学校でも同時期に2名の患者発生が確認された。この小学校で激しい咳の流行は気づかれていなかったが、この地域における潜在的な感染者の存在が推測された。患児5名の家庭では、家族内感染を疑う患者が2~5週後に発生した。ただし、発症家族の中には保育所や小学校への通学児も含まれることから、施設内感染も否定できない状況にあった。家族に患者がいない3歳児と5歳児の異なるクラスの姉妹が同時に発症した園内感染を疑う事例もあり、感染経路が錯綜した様子がうかがわれた。集計された患者数は保育所園児12名、小学校児童4名、父母2名、園児の弟の乳児1名の19名であり(図1)、全園児の発症率は27%(12/45)、クラス別の発症者数と発症率は5歳児5名(38%)、4歳児4名(20%)、3歳児3名(30%)となった。

今回の集団発生では百日咳に特徴的とされる、(1)発作性の咳込みは全員、(2)吸気性笛声は2名(11%)、(3)咳込み後の嘔吐は13名(68%)に認められた。園児から感染したと思われる父親が重症と診断された以外は、全員軽症で入院患者はいなかったが、これは発症児全員が4回のDPTワクチン接種を受けていたためと考えられる。一方、生後3カ月の乳児は、8月7日に初回のワクチン接種を受けたが、8月3日から姉が百日咳様の症状を呈していたため、8月19日の発症直後に抗菌薬投与を受け、重症化せずに3週間で軽快した。

患者19名中18名は、ELISA法による百日咳毒素(PT)および繊維状赤血球凝集素(FHA)抗体検査を実施しており、このうちペア血清が採取された7名では3名が2倍以上の抗体価上昇を示した。他の11名は1回の採血で診断され、9名で抗PT抗体が100 EU/ml以上となり、百日咳診断基準(案)1) を満たしていた。なお、血清診断で陽性とならなかった6名は、臨床症状や発症家族の検査結果から百日咳と診断された。

近年、成人の百日咳が増加傾向にあり、S町でも2012年8月に37~70歳の成人女性3名が発症したが、本事例との接点は認められなかった。

病原体の検索
今回の事例では13名の患者から採取した検体(咽頭ぬぐい液10検体、鼻腔ぬぐい液3検体)について、関連病原体の遺伝子検査を行った(表1)。

百日咳菌等の遺伝子検査には、染色体上の挿入配列であるIS481、IS1001およびIS1002を同時増幅するMultiplex PCR法を行った。表2に示したBordetella 属菌におけるこれらの挿入配列の有無によって、百日咳菌(B. pertussis)、パラ百日咳菌(B. parapertussis)およびB. holmesiiを鑑別した2) 。さらに、高感度で特異性が高いとされるLAMP法でB. pertussis B. holmesii を確認した。PCR法では8名からIS481が検出され、そのうち6名からIS1002が同時に検出された。IS1002はIS481に比べて感度が劣るため、LAMPを併用した結果、8名はすべてB. pertussis であることが確認され、このうち1名から百日咳菌が分離された。5名の患者はLAMP法でも百日咳菌遺伝子は検出されなかったが、そのうち4名は発症から検体採取まで3週間以上経過していた。

同一検体を用いてウイルス遺伝子を検索したところ、5名からライノウイルス、2名からコクサッキーウイルスA9型(CA9)が検出された。百日咳菌感染が疑われる患者からライノウイルスを検出した報告では百日咳菌は検出されなかったが3) 、今回の事例では4名の患者からこれらが同時に検出された。また、1名からは百日咳菌とCA9の両遺伝子が検出されており、百日咳では重複感染を視野に入れた診断治療や、感染予防が必要と思われる。

 

参考文献
1)岡田賢司, 臨床検査 56: 412-416, 2012
2) Loeffelholz M, J Clin Microbiol 50:  2186-2190,  2012
3)徳島県立保健製薬環境センター, 他, IASR  32: 234-236, 2011

 

兵庫県立健康生活科学研究所
秋山由美 榎本美貴 齋藤悦子 近平雅嗣
吉田昌史
兵庫県龍野健康福祉事務所
長尾尚子 森田千尋 八木千鶴子 大橋秀隆
岡本医院 岡本泰子

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