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宮崎県における百日咳菌とBordetella holmesii の同時流行

(IASR Vol. 33 p. 329-330: 2012年12月号)

 

2010年12月より、宮崎県延岡市において百日咳集団発生事例の調査を行ったのでその概要を報告する。また、その調査中にBordetella holmesii の発生も同時に認められたため、あわせて報告する。

端 緒
2010年11月、延岡市内X高校で百日咳の生徒数名が確認され、また同月に延岡市内のA地区A中学校でも百日咳の生徒が複数確認された。そのA地区での感染拡大が懸念され、同年12月、宮崎県(延岡保健所)から国立感染症研究所感染症情報センターおよび同研究所実地疫学専門家養成コース(FETP)に調査協力の依頼がなされた。

調 査
今回の事例は、X高校生4人の抗PT抗体が高値(100 EU/ml以上)、A中学校生7人からLAMP法で百日咳菌遺伝子を検出したことから、集団発生と確認した。そこで、表1の症例定義に基づき積極的症例探査を行った。

2010年12月20日から、延岡市内全医療機関で百日咳全数サーベイランス、延岡市内小児科医療機関と延岡市内A地区2医療機関で病原体サーベイランスを行った。また、小児科定点情報、県立病院・A地区2医療機関のカルテ・聞き取り情報、A中学校アンケート調査などから症例を集めた。さらに、A地区の予防接種状況の把握を、アンケートや予防接種台帳、乳児戸別訪問などで実施した。得られた百日咳臨床分離株はパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)による分子疫学的解析に供試した。

結 果
症例がA地区に集積していること、百日咳菌臨床分離株15株すべてが同じPFGEパターンを示したことから、延岡市A地区での流行と判断した。症例は94人で、男女比60:34、年齢中央値(範囲)14歳(2~77歳)であった。症例の55.3%がA中学生であり、全体の39.4%が検査確定例であった(表2)。流行曲線を図1に示した。第37週からA地区居住の高校生、その後他校生も発症したが、いずれも通学時に同じバスを利用していた。第39週からA中学生症例を認め、第46週にピークを迎えた。その後、A小学生、保育園児/幼児の症例を認めた。その他の年齢層は第44週頃から散発的に認め、特に2011年第6週以後は数例ずつ認めた。

A小学校・中学校での確定例の学年別発病率は、小学校1、3年では確定例がおらず、2年3.6%、4年2.8%、5年7.5%、6年11.1%、中学1年16.7%、2年7.1%、3年17.4%であった。

また、A地区の予防接種状況はA中学校117人のうち、3種混合DPTワクチン第1期4回終了が111人(94.9%)、小学校では198人のうち173人(87.4%)、乳児接種対象者は10人のうち第1期初回3回接種終了が9人(90.0%)だった。

FETPは疫学調査の状況より適宜、公衆衛生上の助言を行い、延岡保健所・延岡市は、各教育機関、医療機関へ繰り返し注意喚起を行った。延岡市はA地区の乳児戸別訪問を行って注意喚起と予防接種勧奨を実施、各学校に対しては標準予防策強化の指導を依頼した。2011年3月14日発症例以降新規症例は認めず、同年4月26日に延岡市での百日咳の流行は終息したとみなした。

考察とまとめ
A地区居住の高校生が発端者と考えられたが、その感染源は不明であった。しかし、高校生のバス通学、兄弟間および遊び仲間を介して中学生に伝播し感染が拡大したものと考察された。また、ワクチン接種歴の高い小・中学生では学年が上がるに従って発病率が上昇した。このことから、加齢とともにワクチン免疫効果の減弱が進むことが指摘された。なお、繰り返しの注意喚起、標準予防策の強化、ワクチン接種勧奨等により、乳児例・重症例を出すことなく終息した。

B. holmesii 感染者の疫学調査
本事例の疫学調査の中で、百日咳菌IS481-PCRが陽性、LAMPが陰性となる患者が6人確認された。6人中5人からB. holmesii が分離され、遺伝子検査の結果から6人全員がB. holmesii 感染者であることが判明した(本号10ページ参照)。B. holmesii に関しては、これまで免疫不全者や無脾症患者に敗血症や心内膜炎を引き起こすとされており1,2) 、近年では基礎疾患のない青年、成人において百日咳様の臨床像を呈することが指摘されている3) 。今回の調査によると、夜間のひどい咳嗽は認めたものの、明らかな基礎疾患を持つ者や合併症も認めず、服薬で軽快していた(表3)。なお、百日咳様症状以外に特異的な所見は認めなかった。症例2、3、4が同一中学校生徒であったことからヒト―ヒト感染の可能性が強く示唆された。ただし、急速な感染拡大は認めなかった。

今後さらなる症例の蓄積により、B. holmesii の性質が明確になることを期待するとともに、百日咳様疾患の鑑別としてB. holmesii も念頭に置く必要があると考えられた。

調査協力機関:宮崎県福祉保健部健康増進課、宮崎県衛生環境研究所、延岡保健所、延岡市、延岡医師会、県立延岡病院、高橋医院、A診療所、その他関係医療機関および教育機関

 

参考文献
1) Weyant RS, et al., J Clin Microbiol 33: 1-7, 1995
2) Tang YW, et al., Clin Infect Dis 26: 389-392,1998
3) Yih WK, et al., Emerg Infect Dis 5: 441-443, 1999

 

国立感染症研究所
実地疫学専門家養成コース(FETP) 安藤由香 大平文人
感染症情報センター 神谷 元 砂川富正 谷口清州

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan