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深在性真菌症に対する抗真菌薬

(IASR Vol. 34 p. 4: 2013年1月号)

 

抗真菌薬の開発
深在性真菌症に対する抗真菌薬としては1962年にポリエン系抗真菌薬のアムホテリシンBデオキシコール酸塩(以下AMPH-B)が臨床で使用できるようになり、真菌症の治療が可能となった。AMPH-Bは、抗真菌スペクトルが広く殺真菌的で強力な薬剤であり、50年後の現在でも現役であるが、低カリウム血症や腎障害などの副作用のため充分量で長期間治療するには忍容性の問題があった。1979年にフルシトシン(5-FC)が開発され、AMPH-Bと比較して安全性が高いと考えられたが、5-FC単剤投与では耐性化しやすかったことや、抗真菌スペクトルが限定されたことから、クリプトコックス脳髄膜炎や尿路系カンジダ症の場合などに限定して使用されている。

副作用を軽減し安全に長期間の治療を可能とする抗真菌薬としてアゾール系抗真菌薬のフルコナゾール(FLCZ)が1989年に認可され、同時期に、FLCZよりややスペクトルの広いアゾール系抗真菌薬のイトラコナゾール(ITCZ)も市販され、血液疾患における予防投与や慢性の肺アスペルギルス症治療等に用いられている。2000年以降には、抗真菌活性が高く抗真菌スペクトルも拡がった新世代アゾール系抗真菌薬が登場した。

2003年以降になると、抗真菌スペクトルが限定され治療標的が明確なエキノキャンディン系抗真菌薬が使用できるようになった。エキノキャンディン系抗真菌薬は、極めて安全性が高いことが特徴であり、2012年12月末時点でミカファンギン(MCFG)とカスポファンギン(CPFG)がわが国で認可されており、主に重症カンジダ症に使用されている。

このようにAMPH-Bのみで治療していた深在性真菌症に対して、それぞれ特徴のある複数の薬剤が使用できるようになった。それに伴い、今後は薬剤耐性動向を注視する必要があると考える。

深在性真菌症治療の標準化
臨床で遭遇する頻度の最も高い深在性真菌症はカンジダ症であるが、FLCZは高い安全性とAMPH-Bに匹敵する有効性が示されたため、カンジダ症の標準薬として使用されるようになった1) 。その後、CPFGやMCFGもカンジダ症の治療において安全性と有効性が証明された2) 。

難治性で予後が悪い侵襲性アスペルギルス症に対しても、新世代アゾールであるボリコナゾール(VRCZ)は無作為化臨床試験で初めてAMPH-Bに勝る有効性を示した3) 。その後、リポソーム化AMPH-Bも同様の成績を示しており、侵襲性アスペルギルス症に対する初期治療も標準化されている。わが国や英国に多い慢性アスペルギルス症に対しては、エキノキャンディン系の有効性も確認された4) 。

深在性真菌症の診療ガイドラインは、各種の臨床試験成績を基に作成されており、新しいエビデンスに基づきアップデイトされている5) 。しかし、現在ムーコル症やトリコスポロン症などのemerging fungal infectionの問題があり、有効な治療法の開発が急務な状況にある。

 

参考文献
1) Rex, et al., N Engl J Med 331: 1325-1330, 1994
2) Mora-Duarte, et al., N Engl J Med 347: 2020-2029, 2002
3) Heubrecht, et al., N Engl J Med 8; 347(6): 408-415, 2002
4) Kohno, et al., J Infect 61: 410-418, 2010
5) 深在性真菌症のガイドライン作成委員会, 深在性真菌症診断・治療ガイドライン 2007,協和企画, 東京, 2007

 

長崎大学病院長 河野 茂

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan