国立感染症研究所

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全国市区町村における麻疹対策

(IASR Vol. 34 p. 31-33: 2013年2月号)

 

わが国では2006年6月から第1期(1歳児)と第2期(小学校入学前1年間の者)の年齢層に対して、原則として麻疹風疹混合ワクチン(MRワクチン)による2回接種制度が始まり、麻疹含有ワクチンの2回の接種率がそれぞれ95%以上になることを目標に接種率向上に努めてきた。

ところが、2007年に高校生や大学生等の年齢層で、特にワクチン未接種者や1回接種者を中心に麻疹が広がり全国的な大流行がみられたため、10代への対策を強化する目的で2008年度から5年間の時限措置として第3期(13歳になる年度の者)と第4期(18歳になる年度の者)の年齢層に対する2回目のワクチンが定期接種に導入された。

麻疹排除達成には、すべての年齢コホートで麻疹に対する抗体保有率が95%以上になることが必要であり、厚生労働省では、毎年各都道府県における麻疹対策および予防接種の状況を調査している。同調査では各都道府県ごとの対策は把握できるものの、さらに細かい自治体単位である市区町村での取り組みは調査の対象にはなっておらず、接種率との比較検討が困難であった。

今回、麻疹含有ワクチンの接種率と市区町村で行っている麻疹対策の実施状況を比較し、麻疹排除(Elimination)の達成・維持に向けて、より有効な対策を見つけることを目的として調査を実施した。

本調査は厚生労働科学研究費補助金新型インフルエンザ等新興再興感染症研究事業「ワクチンにより予防可能な疾患に対する予防接種の科学的根拠の確立及び対策の向上に関する研究」(研究代表者:大石和徳、研究分担者:多屋馨子)の一環として実施した。また、厚生労働省から国の審議会で本アンケート調査結果が審議の基礎資料として使われる予定であることが全国の都道府県に連絡された。

調査は全国市区町村1,742カ所に対して実施し、2008~2011年度までの4年間における麻疹対策の実施状況についてハガキによるアンケート調査を行った。質問項目は以下の17項目とした。

 1.予防接種台帳の電子化の有無
 2.接種率(第1期、2期、3期、4期)の速やかな把握
 3.接種対象者への個別通知(ハガキでの通知など)の実施
 4.未接種者への予防接種勧奨ハガキ等の郵送
 5.健診(1歳半)などでの麻疹含有ワクチンの接種勧奨
 6.就学時健診での麻疹含有ワクチンの接種勧奨
 7.小・中学校および高校に対するワクチン接種調査の有無
 8.所在するすべての学校における接種率(2期、3期、4期)の速やかな把握
 9.第1~4期までの定期接種対象者の接種費用の全額公費からの支出(被接種者の費用負担はなし)
 10.第3期の接種における「集団の場」を用いた接種
 11.第4期の接種における「集団の場」を用いた接種
 12.市区町村内でワクチン接種率が特に低い地域の有無
 13.別の市区町村における麻疹発生状況の速やかな把握
 14.1例以上の麻疹確定症例が発症した場合の迅速な対応
 15.医療機関で採取した臨床検体を地方衛生研究所に搬送する体制の有無
 16.地方衛生研究所における迅速なRT-PCR法あるいはウイルス分離による診断の実施
   1.集団発生時のみ 2.散発例を含む全例
 17.市区町村において定期接種として麻疹含有ワクチンの接種を委託している医療機関の延べ数

各質問項目にあげた対策について、年度ごとの実施状況を比較した。また2011年度については、各市区町村の麻疹含有ワクチン接種率が95%以上達成されている自治体と達成されていない自治体の間で、前述の質問項目にあげた対策に関して差がみられないかどうかを検討し、95%以上の接種率維持に有効であった対策を抽出した。

アンケートの回答は1,476カ所(回収率84.7%)の市区町村から回収された。厚生労働省から都道府県への調査協力依頼と調査に関するQ&Aが送付された後に回収率が急増した。都道府県別では、42.1%~100.0%と回収率に最大57.9ポイントの差がみられた。各質問に対する回答率は概ね95%以上と良好であったが、保健所が実施していると考えられる対策項目(Q14 の患者発生時の迅速な対応、Q15&16の検査診断の実施体制)については回答率が低かった。

2008年度からの4年間で、実施割合が徐々に増加していたのは、Q1の予防接種台帳の電子化、Q4の未接種者への個別の予防接種勧奨実施、Q6の就学時健診での麻疹含有ワクチン接種勧奨実施の3項目であった(表1)。

80%以上の市区町村で予防接種台帳を電子化しており、接種率の速やかな把握や接種対象者への個別通知、乳幼児健診時のワクチン接種勧奨は90%以上で実施されていた。乳幼児期の麻疹含有ワクチンの接種率および接種状況の把握は良好で、台帳の電子化や接種勧奨などの取り組みが実施されていると考えられた。これに対し、学校における接種率を速やかに把握している市区町村は50%に満たず、今後は学校と市区町村との連携をさらに強化する必要があると考えられる。集団の場を用いた接種は、第3期が約25%、第4期が約10%であり、実施率は低かった。接種費用は99%以上の市区町村で全額公費負担であったが、いまだ一部負担となっている地域があることがわかった。当該自治体内にワクチン接種率が特に低い地域があると回答した市区町村は2%程度であった。これらの自治体に対しては、接種率が低い理由を調査し、地域の事情に合わせた支援内容を検討する必要があると思われる。約15%の市区町村ではワクチン接種を県内全域など広域の医療機関に委託しており、接種可能地域を拡大して接種率向上に努めているものと考えられる。

接種率95%以上達成のために有効であったと考えられる項目は、接種率の速やかな把握、接種対象者への個別通知や未接種者への予防接種勧奨ハガキ等の郵送、学校に対するワクチン接種調査と接種率の速やかな把握、「集団の場」を用いた接種、別の市区町村における麻疹発生状況の速やかな把握の5項目であった(表2)。接種状況の把握や接種勧奨は接種率向上に有効であり、特に学童期以降の接種率を向上させるためには学校との連携が非常に重要である。接種率95%以上達成に有効であった「集団の場」を用いた接種など、学童期以降の接種率向上のためには特別な対策を検討する必要があるかもしれない。

各市区町村とも接種率を速やかに把握しており、未接種者への個別勧奨や就学時での接種勧奨に努めているものの、学校における状況の把握や集団の場を用いた接種率は低かった。高い年齢層のさらなるワクチン接種率向上のためには、学校との連携を強化した接種勧奨が必要であると考えられた。

 

国立感染症研究所
実地疫学専門家養成コース(FETP) 三崎貴子
感染症情報センター 多屋馨子 佐藤 弘 大石和徳

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