国立感染症研究所

logo

茨城県における麻しんの検査診断

(IASR Vol. 34 p. 34-36: 2013年2月号)

 

はじめに
茨城県は、2002(平成14)年と2006(平成18)年に発生した麻しんの集団感染を契機に、麻しん排除を目指して積極的に取り組んでいる。第1期を含め、追加して実施することになった第2期~第4期の予防接種のきめ細やかな接種勧奨[第3期、4期は2012(平成24)年度で終了]、学校欠席者情報収集システムを導入して2009(平成21)年11月に運用を開始、そして、翌2010(平成22)年4月1日には麻しん(疑い例も含む)の全数検査を開始した。その結果、2011(平成23)年に麻しん排除を達成し、現在まで維持している。排除達成とその維持のため、質の高いサーベイランスが求められているが、排除達成の過程で得られた成果について、これまで2度にわたり報告した(IASR 32: 80-81, 201132: 170-171, 2011)。今回は、あらためて本県の検査診断方法について紹介するとともに、平成22年度から約3年間にわたって取り組んできた検査診断の状況について報告する。

検査診断の方法
検体は、原則として血清または血漿(以下、血清等)および咽頭ぬぐい液とし、これらについて、real-time RT-PCR法により麻疹ウイルス遺伝子の検出試験を行っている。さらに、麻しん特異的IgM抗体と抗体価をそれぞれEIA法およびPA法により測定し、必要に応じてペア血清について抗体価を測定している。

麻疹ウイルス遺伝子が検出されなかった症例については、類似の発熱・発疹感染症の起因ウイルスである風疹ウイルスおよびヒトパルボウイルスB19 (以下、B19)、4歳未満児(平成24年度からは5歳未満児)については、併せてHHV6およびHHV7の遺伝子の検出を血清等を材料にして試みている。なお、平成24年度は、エンテロウイルスの遺伝子検査を試験的に行っている。

検査診断の実施状況
平成22年度~24年度(12月末現在)までに麻疹(疑いを含む)と診断された 121名(0~3歳までが58名、4~15歳までが20名、16歳以上が43名)について検査した。発疹出現後8日以上経過してから採取された検体の割合は、平成22年度は8.2%、23年度には23.1%であったが、24年度は3.0%に低下した。

麻しんウイルス遺伝子が検出されたのは2名(検出率:1.7%)であった。平成22年度に検出された1名は上海旅行から帰国した26歳女性、もう1名はMRワクチン接種後に麻しんを発症した1歳5カ月女児である。女児については風しんウイルスの遺伝子も併せて検出され、遺伝子解析の結果、いずれもワクチン株であることが確認された。また、麻しん特異的IgM抗体指数は、26歳女性では9.22、1歳女児では0.74であった。なお、検体採取日はそれぞれ発疹出現の翌日、2日後であった。

IgM 抗体検査の結果は、この2名を含め、全体では26名(21.5%)が陽性、14名が判定保留(11.6%)、合計40名(33.1%)が陽性または判定保留(以下、陽性等)であった。判定保留を含めて算出した陽性反応的中率は、2.5%であった。

陽性等であった40名のうち24名(60.0%)からウイルス遺伝子が検出されたが、その数はHHV6(54.2%)、B19(33.3%)、HHV7(12.5%)、風疹ウイルス(8.3%)の順に多く検出された。なお、抗体指数は、ほとんどの症例で弱陽性(1.21≦IgM <5.0)または判定保留(IgM<1.21)であった。IgM抗体陰性群を含めると、全体で47.1%にあたる57名からウイルス遺伝子が検出された(表1)。

年齢群別にみると、0~3歳の群では58名中33名(56.9%)でウイルス遺伝子が検出されたが、そのうち29名(87.9%)からHHV6が検出された。16歳以上の群では43名中17名(39.5%)でウイルス遺伝子が検出され、B19と風しんウイルスがほぼ半数ずつ占めていた(表2)。

考 察
遺伝子検査の場合、検体の適切な採取時期は発疹出現後7日以内とされている1,2)。それを超えた検体の割合は、平成22年度は8.2%であったが、23年度には23.1%に増加した。これらの症例については、麻しんIgM抗体とPA抗体価の検査結果、類症感染症の遺伝子検査結果ならびに臨床所見や疫学情報とあわせて総合的に診断されているが、その結果、麻しんと診断された症例はなかった。平成24年度には3.0%と大幅に低下したが、正確な検査診断のため、今後とも感染初期の検体確保が重要であると考える。

スクリーニング検査は、一般に有病率が下がると陽性反応的中率(真の陽性の割合)は低下するといわれている。今回、麻しん特異的IgM抗体が陽性等であった者のうち遺伝子が検出されたのは1名だけであり、IgM抗体検査の陽性反応的中率は非常に低かった。一方、遺伝子が検出された他の1名は、IgM抗体は陰性であった。このようなIgM抗体検査の偽陽性や偽陰性の問題に対処するためにも、発症初期検体での遺伝子検査が非常に重要であると考えられる。なお、偽陽性を呈した原因ウイルスの大部分は、HHV6とB19 であった。

0~3歳群において、約半数からHHV6が検出された。修飾麻しんとHHV6感染症との鑑別が困難な症例があると報告されている3)が、そのことが麻しん(疑い例を含む)診断例からHHV6が多く検出されることに繋がっている可能性が考えられることから、茨城県小児科医会等と情報交換を行っている。

課 題
WHOは、麻しんの診断基準として検査により麻しん以外の発熱・発疹性感染症が確認されれば、麻しんを否定することが可能であるとしている。そのため、発熱・発疹性ウイルスの遺伝子検査を1検体当たり、合わせて5件行っている。平成24年度にはエンテロウイルスの遺伝子検査も試験的に行っており、1回当たり1ウイルス種ずつ遺伝子検査を行うことは、煩雑さの面からも予算的な面からみても課題となっている。最近、これらのウイルスを1回当たり複数種検査可能なmultiplex real-time PCR法が開発された4)。このような方法の導入・開発により煩雑さ等の改善が期待されるため、検討を進めている。

 

参考文献
1) IASR 32 : 41-42, 2011
2) http://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/measles/pdf01/arugorizumu.pdf
     (検査診断の考え方)
3) 後藤昌英,他,Pediatrics Internationalに投稿中
4) Kaida A, et al., Jpn J Infect Dis 65 : 430-432, 2012

 

茨城県衛生研究所
渡邉美樹 増子京子 本谷 匠 土井育子 原  孝 杉山昌秀

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version