国立感染症研究所

logo

健常小児における肺炎球菌保菌とその危険因子
  ~佐渡島出生コホート研究(SADO-study)~

(IASR Vol. 34 p. 57-58: 2013年3月号)

 

はじめに
肺炎球菌の上咽頭定着(保菌)は、侵襲性・非侵襲性にかかわらず感染症発症に不可欠なステップである。しかし、わが国の肺炎球菌調査は患児分離菌を中心に展開されており、健常児間で伝播・定着する過程は不明な点も多い。

対象と方法 
われわれは2008年から佐渡島全島を対象とした出生コホート研究、“Sado Island, Antimicrobials, Day-care attendance, Older siblings (SADO)-study”を開始し継続中である1-3)。SADO-study2008の対象は2008年出生の349名(参加率98.4%)で、(1)肺炎球菌・インフルエンザ菌の上咽頭保菌とその危険因子の解析、(2)両菌の薬剤耐性化の把握を目的とした。乳幼児健診時に各対象者から上咽頭スワブ検体を採取し常在菌を調査した。また、出生歴、育児・家庭環境、受診歴などの情報を収集した。Kaplan-Meier法とlogrank検定でp <0.05を満たした項目について、Cox 比例ハザードモデルによる多変量解析を行い、肺炎球菌保菌(ペニシリン感受性菌+耐性菌)に関する危険因子を解析した。直近3カ月の抗菌薬投与が肺炎球菌保菌およびペニシリン耐性肺炎球菌保菌に及ぼす影響については、カイ二乗検定を用いて解析した。

結 果
SADO-study2008における健常児の肺炎球菌保菌率は、生後4カ月で17.3%、7カ月で27.5%、10カ月で36.2%、1歳6カ月で48.0%、3歳で38.2%だった(2)。一般に肺炎球菌の保菌率は2~3歳にピークを迎えるが、それ以前の乳児期から保菌は始まっていることが分かる。また、累積保菌率でみると、10カ月児の約半数、3歳児の80%近くが少なくとも1度は肺炎球菌を保菌していた。

集団保育の開始時期でみると、“2歳以後で開始”の児と比較して、“1~2歳で開始”(ハザード比 1.5、p<0.01)、“12カ月未満で開始”(ハザード比 2.1、p<0.001)と、集団保育の開始が早いほど、保菌時期が早かった。兄弟の存在も保菌の危険因子とされるが、本研究では「兄弟の集団保育の有無」を加味した解析を行った。“兄弟なし”の児と比較して、“集団保育に参加していない兄弟”を持つ児はハザード比 1.7(p <0.01)、“集団保育に参加している兄弟”を持つ児はハザード比 3.5(p<0.001)とリスクが有意に高まった。一方で、小児にとって“高齢者との同居”はリスクとならないことが示された2)。直近3カ月の抗菌薬投与“なし群”と比較すると、“あり群”の肺炎球菌保菌に関するオッズ比は 2.0(p <0.001)だった。一方、耐性菌保菌に関するオッズ比は 1.2(p=0.396)と有意差を認めなかった2)。これは以前、SADO-studyを元にしたコップモデル4)として説明したので参照されたい。

に肺炎球菌結合型ワクチン(PCV7および13)に含まれる血清型の比率を示した2)。対象者におけるPCV7の接種率は1歳6カ月までは0%、3歳で32.3%だった。PCV7導入後に認めた唯一の変化は、3歳児におけるPCV7血清型比率の減少である。これがワクチンの効果か否か現時点では明言できない。今後、定期接種化によってどのように変化していくか注視する必要がある。侵襲性感染症における比率よりは低いものの(本号の他稿を参照のこと)、保菌株でもPCV7血清型が47.5%、PCV13血清型が60.9%を占めた。特筆すべきは分離比率の高い6B、23F 、19F 、6Aでペニシリン耐性率が高いことである()。逆に言うとワクチンによる保菌コントロールが進めば、ペニシリン耐性株の減少が期待できる。一方で、Serotype replacementによる増加が危惧される6C、15A/B/C、23A などの非PCV7血清型がワクチン導入期でも一定の割合で分離されている。中でも15A と23A はすべてペニシリン耐性株である。

おわりに
 抗菌薬適正使用で肺炎球菌保菌や耐性化を最小限に食い止めつつ、集団保育や兄弟を介した伝播を遮断する対策が求められる。しかし、真の保菌コントロールを達成するためにはPCV7やPCV13の接種、さらには肺炎球菌共通抗原ワクチンの実用化が必須である。

 

参考文献
1) Otsuka T, et al., Pediatr Infect Dis J 28: 128-130, 2009
2) Otsuka T, et al., Pediatr Infect Dis J (in press)
3) Otsuka T, et al., J Infect Chemother 18: 213-218, 2012 
4)大塚岳人, 化学療法の領域 27: 948-956, 2011

 

佐渡総合病院小児科 大塚岳人
(現University at Buffalo, State University of New York)

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version