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肺炎球菌特異抗体測定法とその役割

(IASR Vol. 34 p. 66-67: 2013年3月号)

 

肺炎球菌ワクチンの免疫誘導能(免疫原性)や肺炎球菌感染症に罹患した患者の液性免疫の評価を目的として、ELISA 法による血清型特異IgG 濃度とmultiplex opsonization assay (MOPA)による血清型特異的なオプソニン活性の測定が可能である(図1)。ELISA 法による血清型特異IgG 濃度は、血清中の肺炎球菌の共通抗原[cell wall polysaccharideと22F 莢膜ポリサッカライド(CPS)]に対する抗体を吸収後に、 ELISA プレートに固層化した個々の血清型のCPS 抗原と結合するIgG 抗体を定量的に測定できる1)。現在、小児用7価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV7)の小児の侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)についての集団防御効果の閾値として推定されたものとして、血清型特異的IgG 濃度≧0.20μg/ml(第3世代ELISA)が示されている2)。一方、Burton らは、肺炎球菌ワクチン接種後の血清型特異抗体の機能評価のために、複数の血清型に対するオプソニン活性(opsonization index; OI)の測定を可能にするMOPAを開発した3)。これらのアッセイ法の詳細は以下のアドレスで閲覧できる(http://www.vaccine.uab.edu/)。

我々は、厚生労働科学研究「ワクチンの有用性向上のためのエビデンスおよび方策に関する研究」班(庵原・神谷班)研究において、2009~2011年にかけて、感染血清型の決定できた24症例の小児IPD 患者の急性期における感染血清型に対する血清中血清型特異的IgG 濃度とオプソニン活性を測定した4)。その結果、測定が可能であった17症例中の全例で感染血清型に対する特異IgG濃度は感染防御閾値とされる0.20μg/ml以上であったのに対して、感染血清型に対する血清オプソニン活性は全例で8以下であった(表1)。本研究においてIPD患者の血清中特異IgG濃度が高いにもかかわらず、オプソニン活性を欠く理由として、血清中特異IgG 抗体の低avidityが関与することが示唆された。また、この血清中のオプソニン活性の欠如は小児IPD症例の感染血清型の肺炎球菌に対する易感染性を示唆していると考えられた。

本臨床研究の意義は、PCV7接種前、後に発症した小児IPD症例の血清免疫学的、細菌学的背景を明らかにすることにあり、今後も研究継続が必要である。

 

参考文献
1) Concepcion NF, Frasch CE, Clin Diagn Lab Immunol 8: 266-272, 2001
2) Schuerman L, et al., Clin Vaccine Immunol 18: 2161-2167, 2011
3) Burton RL, Nahm MH, Clin Vaccine Immunol 13: 1004-1009, 2006
4) Oishi T, et al., Vaccine 31: 845-849, 2013

 

大阪大学微生物病研究所感染症国際研究センター 田村和世 早川路代 服部裕美 明田幸宏
国立感染症研究所感染症情報センター 大石和徳

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