logo40

ベトナム・カンホア省で多発した先天性風疹症候群の臨床疫学的特徴

(IASR Vol. 34 p. 92-93: 2013年4月号)

 

風疹ワクチンの定期接種が施行されていない国では数年ごとに風疹のアウトブレイクがあり、先天性風疹症候群(以下CRS)による被害が生じている。我々は2009年5月~2010年5月にかけてベトナム中部カンホア省で出生コホート研究を行い、アウトブレイクのない期間に、妊婦の30%が風疹に感受性を有することがわかった。その後2011年1~7月にかけ同地域にて大規模な風疹アウトブレイクが発生し、同年10月より同地域の総合病院でCRS 児を認めた(図1)。ここにCRS児とその母親の臨床的、疫学的な特徴を報告する。

2011年10月~2012年9月の1年間にカンホア省の1総合病院で認められた、CDCの基準を用いてCRSを疑わせる症状のある新生児・乳児を対象とした。入院記録と母親への聞き取り調査より児の症状および母親の情報を収集。心臓・頭部超音波検査、自動聴性脳幹反応検査、風疹特異的抗体価測定を施行。3カ月ごとに心臓超音波検査によるフォローアップを行った。

対象児は38人(男18人、女20人)であった。そのうち早産児は12人(31.6%)、低出生体重児は27人(71.1%)であった。臨床症状として心疾患26/36(72.2%)、聴力障害疑い26/28(92.9%)、白内障5/38(13.2%)、紫斑32/38(84.2%)(図2)、肝脾腫26/38(68.4%)等を認めた。心疾患は動脈管開存症(PDA)が24人(92.3%)で最多、そのうち54%(13人)で肺高血圧(PH)を合併していた。2回目の超音波検査が施行できたPDA の10/13人(76.9%)で自然閉鎖がなく、うち8人にPHを認めた。風疹特異的IgM 陽性例は14/35(40.0%)、それらと生後6カ月以降もIgG 陽性が持続する例を合わせた確定診断例は25/38(65.8%)であった。2013年1月までに13人(34.2%)死亡した。また、PHを伴うPDA の存在は統計学的に有意に死亡と関連があった(p<0.001)(表1)。母親への聞き取り調査では31/36(86.1%)が妊娠中に発熱と発疹を経験したと回答した。

我々は人口約 100万人の中部ベトナムの1省において風疹アウトブレイク後の1年間で38例のCRSを経験した。対象児の致死率は高く、心疾患、聴力障害など永続的な障害を多く認めた。聴力障害など乳児期以降に気づかれる症状のみの児はさらに多く存在すると思われる。心疾患ではPHを合併するPDAが特徴的であり、死亡との関連が示唆された。

なお、本研究では風疹ウイルスの遺伝子解析は行わなかったが、2009~2010年にベトナム・ホーチミンで解析された遺伝子型はすべて2Bであった。2011年より日本各地で流行している風疹は主に1E、2Bであり、南~東アジアで流行していた株が日本に伝播し広まったと考えられている。風疹の世界的な流行はわが国においても無関係ではなく、サーベイランスにより国内外の風疹流行およびCRSの発生状況を把握する必要がある。また、妊娠可能年齢の女性に対する予防接種の推奨とともに、風疹の定期接種が施行されていない国々では乳幼児に対する定期接種導入が必要である。なお、ベトナムでは、国際社会(GAVIなど)の支援を得て2013年より14歳以下の小児への風疹含有ワクチン接種キャンペーンが開始される予定であり、さらに2014年以降に風疹含有ワクチンを定期接種化することが検討されている。

 

参考文献
1) Miyakawa M, et al., submitted for publication
2) McLean H, et al., Chapter 15: Congenital Rubella Syndrome, http://www.cdc.gov/vaccines/pubs/surv-manual/chpt15-crs.html
3)森 嘉生, 他, IASR 32: 260-262, 2011
4) Tran DN, et al., J Med Virol 84(4): 705-710, 2012
5) Global Measles and Rubella Management Meeting  
    http://www.measlesrubellainitiative.org/vgn-ext-templating/v/index.jsp/vgnextoid/90bdb27b785a3210VgnVCM10000089f0870aRCRD.html

 

長崎大学熱帯医学研究所小児感染症学分野 樋泉道子 吉田レイミント 橋爪真弘
長崎大学病院小児科 本村秀樹 森内浩幸
長崎大学熱帯医学研究所臨床医学分野 高橋健介 有吉紅也
Khanh Hoa General Hospital Vo Minh Hien Pham Enga
Khanh Hoa Health Service Le Huu Tho
National Institute of Hygiene and Epidemiology in Hanoi Dang Duc Anh

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan