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風疹ウイルスの遺伝子型別動向と検査診断マニュアル改訂

(IASR Vol. 34 p. 99-100: 2013年4月号)

 

風疹ウイルス遺伝子型別動向
2011年からの風疹報告数の増加に伴い、地方衛生研究所等からの風疹ウイルスの分離・検出報告数も2011年5月以降増加している。2012年に遺伝子型が決定された 150株のうち、遺伝子型2Bが 123件(82%)と最も多く、次いで遺伝子型1Eが26件(17%)となっている。前回の流行が発生した2004年には遺伝子型1jが主要な遺伝子型であったと考えられているが、この遺伝子型ウイルスは2011年に報告されて以降報告されていない1)

DNA データベースに登録されている日本で検出された79株について系統樹解析を行い、どのような遺伝子型が検出されてきたかを経時的に解析した()。1966~1969年には主に遺伝子型1aウイルスが分離されており、これらの株は現在の風疹ワクチン株の元になっている。遺伝子型1aウイルスは同時期にアメリカやヨーロッパ等でも分離されており、世界的な流行株であったことが示唆される。その後、1987~1991年には別の遺伝子型ウイルス(未分類)が、1990~1995年は遺伝子型1Cおよび1Dウイルスが、2001~2004年は遺伝子型1jウイルスが主に検出されてきている。さらに2010~2012年には、遺伝子型1Eおよび2Bウイルスがこれまで流行してきた遺伝子型ウイルスに置き換わって検出されている。遺伝子型1Eおよび2Bウイルスの多くは、それぞれ中国およびベトナムで検出された株と近縁であるが、一部のウイルスは、東南アジア型の遺伝子型1Eウイルスや南アジア型の遺伝子型2Bウイルスと近縁となっており、起源の異なる複数のウイルスの侵入があったことが示唆される。

病原体検出マニュアルの改訂
病原体検出マニュアル<風疹>初版は2002(平成14)年3月に作成されたが、10年以上が経過し、ウイルスゲノム検出法を中心に実態に沿わない点が認められるようになったため、第二版へ改訂を行った。第二版は国立感染症研究所ホームページより閲覧することができる(http://www.niid.go.jp/niid/ja/labo-manual.html)。今回の改訂による主な変更点は、ウイルスゲノム検出法の改良、遺伝子型決定法およびウイルス命名法の記載追加である。

初版ではウイルスゲノム検出法として、プライマーセットA-D あるいはプライマーセットE1P5-E1P8 を用いた2種類のRT-nested PCR法を記載していた。近年流行のみられる遺伝子型2Bウイルスにおいては、プライマーセットA-D のプライマー認識部位に変異が数多く蓄積されており、検出が困難になることがあった。そこで様々な遺伝子型のウイルスを広く検出することを目的に、塩基配列の保存性が高いとされる非構造蛋白質(NS)の一つであるウイルスRNA ポリメラーゼp90コード領域を標的にプライマーセットを設定した。このプライマーセットによるRT-nested PCR法(NS領域増幅RT-nested PCR法)は、現在問題となる遺伝子型である1a、1j、1Eおよび2Bの代表株を検出でき、加えてプライマーセットA-D あるいはプライマーセットE1P5-E1P8 を用いた場合よりも高感度であることが確認できたことから、第二版に掲載した。

また、風疹は麻疹との類症鑑別が求められることがあることに加え、ウイルス遺伝子の検出に適した検体が一部共通することから、検査法の共通化を行っている。今回の改訂では、麻疹診断マニュアル第2版に記載された麻疹ウイルス検出RT-nested PCR法の試薬を使用する方法を掲載した。また、国立感染症研究所ウイルス第三部より配布している〔2013(平成25)年3月1日時点〕麻疹参照RNAおよび風疹参照RNAは、混合してもお互いの検出に影響せず、あらかじめ混合したものを使用することができる。これらを用いた場合、共通のcDNAを用いて麻疹および風疹遺伝子検査を実施することも可能と考えられる。

風疹ウイルスの遺伝子型の決定は、E1蛋白質コード領域に設定されたSequencing window領域(739塩基長)の配列を解析することで行うことが世界的に定められている2)。初版では遺伝子型決定法について示されていなかったことから、第二版ではこれを追加した。解析には比較的長い領域を増幅させる必要があり、ウイルス遺伝子含量が少ない場合には、全長を一度に増幅させることは困難であると考えられた。そこでこの領域を2断片で増幅し、それぞれ決定した遺伝子配列をつなげることで、領域全長の配列決定を行う方法を採用している。この領域を増幅するRT-PCR法は用いる試薬によって感度に大きな影響が出ることに注意が必要である。

世界保健機関を中心にして、麻疹排除に引き続き、風疹および先天性風疹症候群の排除が目標に掲げられた。今後日本においても排除を推し進めていくためには、どのようなウイルス株が常在株であるのか遺伝子解析を行い、データを蓄積していくことが重要となるものと考えられる。

今回解析した塩基配列には、地方衛生研究所の風疹検査で得られたものを含みます。風疹検査を担当されている皆様に感謝いたします。

 

参考文献
1) IASR 32: 170-171, 2011
2) WHO, WER 80: 126-132, 2005
3) IASR 33: 167-168, 2012

 

国立感染症研究所ウイルス第三部
    森 嘉生 大槻紀之 岡本貴世子 坂田真史 駒瀬勝啓 竹田 誠

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