国立感染症研究所

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腸管出血性大腸菌O157の発生動向の変化
 -2011年以降の生肉・生レバー規制強化の影響について

(IASR Vol. 34 p. 129-130: 2013年5月号)

 

背 景
腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症の発生報告は1999年以降年間約 4,000件前後の報告がある。2011年5月に発生した焼肉チェーン店における広域集団食中毒事件発生後、厚生労働省は2011年10月に生食用食肉の規格基準を改正し、2012年7月に牛生レバー提供の禁止を行った。本報告はこれらの対策の効果を検討した。

方 法
データは2007年第1週~2012年第52週までの感染症発生動向調査(NESID)よりEHEC感染症の届出に登録された情報を用いた。集団発生による偏りを除くため、NESIDで報告数が10件以上のクラスターを形成した集団発生事例は集計対象から除外した。

感染源・感染経路はNESIDの「その他備考」等の自由記載欄に入力されたテキストデータについて形態素解析(MeCab ver.0.994)を行った。届出に記載された名詞(キーワードセット)に基づき、(1)生肉・生レバー喫食の記載あり、(2)焼肉・バーベキュー等(以下焼肉系)の喫食のみ記載あり、(3)その他に分類した。なお、「ユッケは食べていない」等の否定表現を含む記述は各カテゴリーから除外した。(1)および(2)について、EHECの血清群O157の診断週、年齢階級別の集計を行った。

結 果
血清群O157の診断週別の「生肉・生レバーの記載あり」の報告数および「焼肉系のみ記載あり」の報告数を図1に示した。生肉・生レバーの記載がある血清群O157は2007~2010年に年間約 200件の報告があり、2011年に 100件、2012年に55件であった。一方、焼肉系のみ記載のある血清群O157は2007~2012年の報告数は年間 150~ 190件で推移した。

生肉・生レバーの記載がある血清群O157について年齢群別・診断年別の報告数は2007~2010年には5歳以上10歳未満および20歳以上25歳未満に報告数のピークが認められたが、2011年、2012年は20歳以上25歳未満のピークのみであった(図2)。15歳未満の年齢群の報告数は、2007~2010年は75~80件で推移し、2011年は20件、2012年は6件であった。

考 察
厚生労働省が行った対策は、1)生食用食肉を取り扱う施設への緊急監視実施および衛生基準に適合しない場合の生肉取り扱い停止(2011年5月5日付け食安発0505第1号)、および2)生食用牛レバーを提供しないよう指導を徹底する旨の通知(7月6日付け食安発0706第1号)の発出であった。これらにより、飲食店での生肉および生レバーの提供は2011年5月以降大きく制限されたと考えられる。今回の解析でみられた2011年、2012年におけるO157報告数の減少、特に15歳未満の年齢群で減少が顕著であったことは、若年者の年齢群に対して規制の効果が特に大きかったことを示していると考えられた。一方で、2012年7月前半のO157の急激な報告数の増加は、牛生レバー禁止直前の駆け込み需要による増加が原因であった可能性を示唆する。この状況から、一部の消費者における生レバーに対するO157感染リスクの認識が不十分であったことが考えられた。生レバーのO157感染リスクに関する啓発の徹底を継続的に実施していくことが対策として重要である。また、焼肉等を推定感染源とする事例の報告数は減少していないことから、今後、食肉購入後は調理まで低温保存を行うこと、調理時は肉の中心部まで十分に加熱すること、調理時、生肉を扱ったトング、箸などは、焼き上がった肉やサラダなどを食べるときは使わないことなど、既に各関係機関より強調されている注意事項[例:食品安全委員会(http://www.fsc.go.jp/sonota/shokutyudoku/barbecue_chudoku.pdf)]の周知をより徹底することが重要であると考えられた。

本報告で用いた、感染源・感染経路に関するキーワードセット推移のモニタリングは施策の効果を推定したり、流行像の特徴を明らかにしたりする点で有用である。制限としては、自由記載欄へのテキスト情報記入は届出医師の裁量によるため、すべての事例における状況を反映しているとは限らないこと、情報があっても表現は様々であり、分類や解析が困難な場合があったことが含まれる。今後の届出様式・調査手法の改善が必要である。

謝辞:感染症発生動向調査にご協力いただいている地方感染症情報センターならびに保健所、届出医療機関の担当者の皆様に深く感謝いたします。

 

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実地疫学専門家養成コース(FETP) 柳楽真佐実
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