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保育施設における腸管出血性大腸菌O26 集団発生事例―大阪市

(IASR Vol. 34 p. 131-132: 2013年5月号)

 

1.事件の概要
2012(平成24)年5月29日、大阪市淀川区内の医療機関より保育園児2名(3歳、5歳)の腸管出血性大腸菌感染症(EHEC O26 VT1)発生の届出があった。さらに同園には胃腸炎症状の園児が約30名いるとの情報を得て、北部生活衛生監視事務所および淀川区保健福祉センターは、食中毒疑いとしての調査および二次感染予防の防疫措置を講じるため、直ちに家族、保育園から聞き取り調査を行い、園児とその家族、職員を対象に検便を実施した。

当該保育園では園児132名(長期欠席者1名除く)、職員27名が同園で調理された給食を喫食しており、うち園児18名が5月24~27日にかけて下痢、腹痛、発熱等の食中毒様症状を呈していることが確認された。6月1日時点で、発症者18名の共通食は給食以外になく、その発症状況が類似していること、また、発症者らに非食餌性の感染を疑わせる事象がないこと、さらに、発症者11名および調理従事者2名の便からEHEC O26VT1が検出されたことから、同保育園の厨房を原因施設とする食中毒と断定し、同保育園に対し6月1日から2日間の給食業務の停止を命じた。

2.患者発生状況
当該保育園では、壁のないワンフロアでの異年齢保育が行われており、0歳児を除く園児・職員は同一給食を摂取していることから、検便対象者を園全体に拡充し、最終的に園児 132名、職員32名(系列保育園からの応援職員を含む)、感染者の家族 240名の計 404名に対して検便を実施し、菌陽性者は園児75名、職員15名、家族25名、計 115名(有症者68名、無症状病原体保有者47名)となった。検便陽性者の割合をみると3~5歳児クラスが約70~80%と多く、発症者は園児3歳児クラス以下が80%以上と低年齢ほど多かった。

陽性者の陰性確認(治癒)後の再陽性者が6月18日~7月7日にかけて5名(4.3%)あった。再陽性者から分離されたEHEC O26 VT1の薬剤感受性試験を行ったところ、調べた12薬剤(ABPC、CTX 、GM、KM、SM、TC、CPFX、NA、ST、AMPC/CVA、CP、FOM)すべてに感受性であった。また、再陽性者およびその家族より分離された株のパルスフィールド・ゲル電気泳動のパターンは一致した()。陰性確認は7月21日ですべて終了し、最初の発生届出から最終の陰性確認までに53日間を要した。

3.考 察
早期に給食による食中毒と断定し給食業務の停止を命じたこと、その後、給食業務の自粛、陽性者の陰性確認が終了するまでの登園不可、最終の陰性確認までプールの中止、有症状者の早期受診および検便の実施、消毒の徹底等のまん延防止策を講じたことにより、終息することができた。今回のEHEC O26 VT1集団感染に関しては、症状がいずれも軽く未受診者が多かったことが発見の遅れにつながったと考えられる。また、有症の期間に登園していた者が5月25・26日に約30名いたことより、非食餌性の二次感染が拡がったため、保育園での日々の健康観察、「社会福祉施設等における感染症等発生時に係る報告について」(通知)の遵守の重要性を改めて考えさせられた。

二次感染の拡がりの観点でみると、園児と職員の接触者(給食を食べていない群)から25名の陽性者があり、そのうち父母の陽性者数は計13名で約半数を占め、かつ1~3歳児の発症者のいる世帯に限られていた。これはオムツ交換やトイレトレーニング時の排便処理等の感染予防策の不十分さから感染が拡がった可能性が高いと考えられる。飲食物を介した感染以外に、園内および家族内におけるヒトからヒトへの感染が関与しており、平常時を含めた二次感染防止策の徹底・予防の啓発が重要であることを示している。

 

大阪市立環境科学研究所
    小笠原 準 中村寛海 和田崇之 梅田 薫 山本香織 平山照雄 平井有紀 長谷 篤
淀川区保健福祉センター
    武中宏行 石黒正博 松浦和代 今林昭一 宮川淳子 萩野広子 澤田好伴
大阪市保健所感染症対策課
    山崎理紗 森 宏美 藤森良子 澤口智登里 青木直美 亀本昌幸 松本珠実 辻本光広 吉村高尚 吉田英樹
大阪市保健所北部生活衛生監視事務所
    石本啓二 鉾木美晴 森河内 巌 上田誠已
大阪市健康局生活衛生課
    井上靖之 中野有一 西 康之 近藤孝幸 川人 優

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