国立感染症研究所

logo40

保育園における腸管出血性大腸菌O145の集団感染事例―福岡市

(IASR Vol. 34 p. 135-136: 2013年5月号)

 

2012年9月福岡市内の保育園において腸管出血性大腸菌(EHEC)O145:H−(stx2)による集団感染事例が発生したので概要を報告する。

2012年9月18日に、市内A医療機関より1歳男児の、9月19日に市内B医療機関より1歳女児のEHEC O145感染症発生届が管轄保健所へ提出された。保健所がこれら2名の家族の聞き取り調査および検便を実施したところ、1歳女児の家族3名からEHEC O145が検出された。これら2名の1歳児は、同じ保育園の同じクラスに通園していたため、保健所は、当該保育園の聞き取り調査を行い、園児および職員の検便を実施した。その結果、新たに4名の園児とその家族5名からEHEC O145が検出された。最終的には計200名(延べ 388検体、2回の検便を実施)の検体が当所に搬入され、10月9日に本事例は終息した。

今回の集団感染事例では、園児6名と園児の家族8名の計14名からEHEC O145:H−(stx2)(以下O145)が検出された。本事例で分離されたO145 14株は、いずれも同一の生化学性状を示し、リジン脱炭酸反応は陰性であり、運動性は認められなかった。また、ラクトース、ソルビトール、ラムノースを分解したが、ソルボースについては非分解であったため、セフィキシムおよび亜テルル酸カリウムを添加したソルボースマッコンキー寒天培地で検出した。パルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)においても同一パターン(図1)を示した。したがって、これらの解析結果から、本事例は同一の感染源であることが推察された。

今回の集団感染事例において、O145が検出された園児の共通食は、当該保育園で提供された給食であり、これは全園児が喫食していた。しかし、O145が検出されたのは1歳児クラスに所属する園児らとその姉(5歳児)のみであり、調理担当の職員からもO145は検出されなかった。また、O145が検出された6名の園児についての聞き取り調査の結果、家族は無症状もしくは、園児の発症日以後に発症していることがわかった。したがって、今回の事例は食中毒ではなく、初発園児を含む1歳児クラスを中心とした園児間および家族間での二次感染であるものと考えられた。また、O145が検出された6名の園児については、8月28日、9月3日および7日にそれぞれ1名、8日に2名、10日に1名が発症していたことが判明した。医療機関から届出があった2名の園児の発症日は9月8日および10日であり、8月28日に発症した園児が初発患者と考えられ、この園児が発症後も登園を続けたため、園内における人-人感染が発生したものと考えられた。

このように、EHECは、微量の菌により感染が成立するため、感染が拡大しやすく、特に保育園、幼稚園などの小児関連施設での集団発生が報告されており、これらの事例の中では患者発生に伴う家族内の二次感染も多く発生している。したがって、二次感染のリスクが高い保育園などにおいては、排便後や食事前の手洗い、汚物の適切な処理、園内の定期的な消毒など、二次感染防止対策を厳格に実施することが重要である。

 

福岡市保健環境研究所
麻生嶋七美 本田己喜子 藤丸淑美 尾崎延芳 佐藤正雄

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version