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旅館の入浴施設を原因としたレジオネラ症集団発生事例―山形県

(IASR Vol. 34 p. 159-160: 2013年6月号)

 

はじめに
2012(平成24)年11月、山形県内の旅館の入浴施設を感染源とするレジオネラ症集団感染が発生し、その対応の概要をここに報告する。

患者等疫学状況
11月6日に県外医療機関、11月13日および11月15日に本県管内医療機関からレジオネラ患者発生届が提出され、疫学調査の結果、3名は同一旅館の入浴施設を利用していたことが判明した。3名の患者は40~70代男性で、発熱、咳嗽、喀痰、起立困難等の症状により医療機関を受診し、レジオネラ尿中抗原検査陽性でレジオネラ肺炎と診断された。3名とも当該旅館および自宅以外の入浴施設の利用は無く、家族、同行者、勤務先等に発症者はいなかった。ただし、2例目患者同行者の中に3名の発熱、咳嗽等の有症者がいたことから、保健所感染症担当課が医療機関での尿中抗原検査を勧奨し、検査の結果、全員陰性が確認された。

施設疫学調査および衛生指導
11月7日、保健所生活衛生課が旅館立ち入りを実施したところ、使用水は水道で、浴槽は男女内湯各1槽(ジェット使用)、循環ろ過は1系統で、ろ過器は逆洗のできないフィルター交換方式であった。聞き取り調査および立ち入り検査の結果、換水頻度、塩素管理、レジオネラ水質検査、配管洗浄消毒等の衛生管理に関して重大な不備が認められた。直ちに入浴施設の使用自粛を指導し、宿泊者の市内公衆浴場への送迎を検討させ、営業者は自粛を了承した。また、衛生指導は当初指導書、後に改善勧告書により実施した。

積極的疫学調査
2例目(県内1例目)の届出のあった11月13日に、医療機関へレジオネラ肺炎を想定した適切な対応依頼を実施したほか、主な利用者が管内在住者であったことから、11月14日管内医療機関に文書で通知し、積極的に患者掘り起こしを行った。また、保健所生活衛生課と感染症担当課で連携し、旅館利用者の健康被害の有無を利用団体の代表者に照会し、他に患者がいないことを確認した(38団体、延べ460名)。また、管内医療機関は2名の患者喀痰を採取した後、県衛生研究所に菌分離と菌種および血清群の同定を依頼した。

環境由来菌検査結果
旅館浴槽水採取時(11月8日)は遊離残留塩素濃度は0mg/Lであり、11月15日、採取検体すべてからLegionella pneumophilaが検出され、その血清群はSG1、SG6、UTであった(表1)。その他、2例目患者宅浴槽は井戸水を半換水で使用とのことから、その浴槽水、さらに旅館のシャワー水およびシャワーヘッドの菌検査を実施したが、菌は検出されなかった。

原因施設の判断
(1)疫学調査の結果、当該旅館の入浴施設が唯一の共通施設で、他のレジオネラ症の発症要因とされる温水プール・冷却塔・自家製腐葉土等の可能性はすべて否定されたこと、(2)浴槽水からL. pneumophila SG1を含む高濃度の菌が検出されたこと、(3)施設の重大な衛生管理の不備があったこと、(4)使用自粛期間中に一時的に入浴施設を利用させた事実が判明したことから、使用中止を強化する必要が生じたこと、以上の4点から、患者菌分離以前であり、血清群が一致した場合に行うパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)の実施未確定の段階で、11月16日当該旅館を原因施設と判断した。また、自粛期間中の旅館利用者が県内外に広がっており、いまだ潜伏期間の利用者の存在や、診断が遅れ重症化する可能性を考慮し、同日施設名を公表した。

また、県衛生研究所における患者喀痰菌検査で2名ともL. pneumophila SG1のみが検出されたことから、患者分離株と浴槽水分離株(SG1)について、11月22日、PFGE解析を行い泳動パターンがすべて一致した(図1)。このことは、原因施設の判断の的確性を補完している。

保健所生活衛生課の指導で営業者は過酸化水素による生物膜除去を実施した。再開後はジェットの使用を停止し、週1回の完全換水・フィルター交換・高濃度塩素による浴槽循環配管の消毒および記録を行うこととした。また塩素自動注入器を設置し、濃度の頻回な測定と記録を行っている。再検査の結果、レジオネラ属菌不検出であったことから、12月8日改善報告書を受理、自粛を解除した。

まとめ
医療機関との連携のもと、保健所内対策会議(所長、感染症担当課、生活衛生課、検査室)で随時情報共有を行い、積極的疫学調査を実施した。また、早期に原因施設を判断し、感染拡大防止に努めた。

 

山形県置賜保健所
   安部悦子 平山万貴子 小関清晃 大滝俊彦 山田敏弘 石澤智佳 安孫子千佳 山田敬子
山形県衛生研究所 
     瀬戸順次 鈴木 裕

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