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Hibワクチンによる免疫誘導能の評価とその臨床的意義:Hib vaccine failure 例の解析

(IASR Vol. 34 p. 190-191: 2013年7月号)

 

インフルエンザ菌b型(Haemophilus influenzae type b: Hib)ワクチンが2013年4月より本邦において定期接種化された。本ワクチンにより誘導された莢膜多糖体(ポリリボシルリビトールリン酸:PRP)に対する特異抗体が菌体表層に結合し、これによって補体系の活性化がおこり菌体への膜侵襲複合体(membrane attack complex: MAC)が形成されることでHib を殺菌し、これによって感染防御効果が獲得されると考えられている。このため、Hibワクチンによる免疫誘導能評価は、莢膜多糖体PRPを固相化したELISA 法による特異IgG抗体測定によって行われている。本法はキットとして市販されているが、基本的にはELISA プレートにPRP抗原を固相化したのち、ブロッキング反応、希釈血清の添加、酵素標識された抗ヒト抗体特異二次抗体の添加、発色基質の添加による呈色反応後、その反応液吸光度を測定することにより行う。これまでの研究から、ヒト血清中PRP 特異IgG抗体の最少感染阻止レベルは、0.15μg/mL、長期感染阻止レベルは、1.0 μg/mLとされている1)。一方で、特異抗体価のみならず、ヒト非働化血清とウサギ補体による血清殺菌活性(serum bactericidal activity: SBA)を測定することによりHibワクチンによる免疫原性を評価することが可能である。米国CDCのRomero-Steinerらによって報告された方法では、免疫血清と補体、Hib菌であるGB3291株を混合し、一定時間培養後その残存菌数を寒天培地上で算定する2)。GB3291株の透過型電子顕微鏡所見では、菌体表層の莢膜構造が明瞭に認められる(図1)。具体的には、免疫後血清を56℃にて30分間インキュベートすることで非働化し、これを段階的に希釈する。それぞれの希釈液にHibを添加し、その後、ウサギ補体を添加する。その後37℃で一定時間培養後、反応液を寒天培地上に広げ、一晩培養する。出現したコロニーをカウントし、添加菌数の50%以上を殺菌する血清希釈倍数の逆数をSBA titerとして算出する(図2)。Romero-Steinerらは、同じ論文で、本法によって求められたSBA titerとPRP 特異IgG抗体との間に相関は認められないが、SBAと特異抗体avidity(抗体結合力)との間に有意な相関が認められると報告している2)

我々はHibワクチン3回接種後にHibによる菌血症を発症した12カ月女児のvaccine failure例を経験し、その発症8日後(抗菌薬治療終了後)の血清中抗体測定を実施した。その結果、抗PRP IgG抗体は9.95μg/mLと高値であるのに対して、SBA titerは16と比較的低値であった。この結果はvaccine failureの原因としてSBA活性低下が関与することを示唆している。また、本症例では抗PRP IgGのavidityの低下を確認しており、抗PRP IgGとSBA titerとの乖離はこの抗PRP IgGのavidityの低下に起因すると推察された3)

一方、Hibワクチンの導入に伴い、Hib感染症の減少とともに、非b型H. influenzaeおよび無莢膜型(non-typable H. influenzae: NTHi)による侵襲性感染症の増加が報告されている4)。NTHiが侵襲性感染症を惹起する細菌学的要因として本菌の補体抵抗性に関する研究が進められているが、まだその解明には至っていない5)

以上のように、H. influenzae に対する血清殺菌活性は本菌における主要な感染防御機序と考えられる。本邦におけるHibワクチン定期接種化後の感染防御免疫誘導についてPRP 特異IgG とともにSBA titerを測定することは、Hibワクチンの血清免疫学的効果を明らかにする上で重要と考えられる。

 

参考文献
1) Kayhty H, et al., J Infect Dis 147: 1100, 1983
2) Romero-Steiner S, et al., Clin Diagn Lab Immunol 8: 1115-1119, 2001
3) Lee YC, et al., Clin Infect Dis 46: 186-192, 2008
4) Resman F, et al., Clin Microbiol Infect 17: 1638-1645, 2011
5) Hallstrom T and Riesbeck K, Trends Microbiol 18: 258-265, 2010

 

大阪大学微生物病研究所感染症国際研究センター 古泉ゆか 服部裕美 明田幸宏
矢野クリニック 矢野秀美
千葉大学医学部附属病院感染症管理治療部 石和田稔彦
長崎大学熱帯医学研究所電子顕微鏡室 一ノ瀬昭豊
国立感染症研究所感染症疫学センター 大石和徳

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan