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秋田県における莢膜型Haemophilus influenzaeの分離状況

(IASR Vol. 34 p. 192-193: 2013年7月号)

 

Haemophilus influenzaeは莢膜の有無により莢膜型と無莢膜型に分けられ、莢膜型はその抗原性によりa~fの6つの型に分けられる。なかでもb型(Hib)は小児の細菌性髄膜炎等の侵襲性感染症の主要な原因菌として知られており、わが国でも2008年12月からHibワクチンの接種が可能となった。それに伴い、b型以外の菌型による侵襲性感染症の発生動向が注目されている。今回、2008~2012年の5年間に秋田県内の医療機関から当センターに送付されたH. influenzaeの莢膜型を調査したので報告する。

供試菌株は2008年 135株、2009年126株、2010年143株、2011年109株、2012年153株の計666株であり、莢膜型別はPCRにより行った1)。capsular export gene bexA(+)により莢膜型と判定されたのは計43株であり、内訳はb型19株、e型16株、f型7株、型別不能(UT: untypable)1株であった。UTであった1株は、capsular type specific PCR(-)であったが、bexAの相同性解析2)によりb型と考えられた。年別に莢膜型H. influenzae の分離状況をみると、2010年のみb型およびe型の分離数がそれぞれ11株、10株と多かったが、それ以外の年はb型、e型、f型が数株分離されるのみであった(図1)。表1には莢膜型H. influeznae(UT除く)の(a)診療科別、(b)検体の種類別の分離状況を示す。b型は小児科領域からの分離が多く、鼻腔からの分離が目立った。一方、e型は内科領域からの分離が多く、検体種も喀痰から多く分離されていた。f型は、分離数は少ないが小児科および内科領域どちらにおいても分離が確認され、検体種は鼻腔もしくは喀痰であった。また、侵襲性感染症に該当する血液由来の莢膜型H. influenzae は、b型が2009年に10カ月の女児から1株、e型が2012年に78歳男性から1株が確認された3)

次に、PCRによりβ-lactamase(bla)遺伝子ならびにpenicillin binding protein(PBP)をコードする遺伝子(ftsI)の変異を解析し、β-lactamase遺伝子型別(blaTEMblaROB)およびβ-lactamase-non-producing ampicillin-resistance(BLNAR )group I 、II、IIIに対応するftsIの型別を実施した3)表2)。当センターへは薬剤耐性菌を疑う菌株が送付されてくることが多いため、結果は必ずしも莢膜型H. influenzae の耐性化率を示すものではないが、今回確認された多くの莢膜型H. influenzae がBLNARであり、また小児科領域の眼脂由来のb型1株からはblaTEMも検出された。

海外ではHibワクチンの導入後、a型による侵襲性感染症の増加が指摘されているが4)、秋田県において医療機関で分離される莢膜型H. influenzae についてはb型と同様にe型が多い傾向が明らかになった。その多くは、成人・高齢者と考えられるが、小児からの分離もみられ、高齢者の症例ではあったが菌血症を伴う肺炎の事例も確認されている3)。また、BLNAR 等の薬剤耐性H. influenzae による侵襲性感染症の増加が危惧されており5)、今後もb型以外の莢膜型H. influenzae の分離状況および薬剤耐性化の状況について注視していく必要がある。

 

参考文献
1) Falla, et al., J Clin Microbiol 32: 2382-2386, 1994
2) Zhou, et al., J Clin Microbiol 45: 1996-1999, 2007
3)今野ら, IASR 33: 164-165, 2012
4) Bruce, et al., Emerg Infect Dis 14:48-55, 2008
5)生方ら, IASR 31: 98-99, 2010

 

秋田県健康環境センター保健衛生部
    今野貴之 高橋志保 熊谷優子 樫尾拓子 和田恵理子 八柳 潤 齊藤志保子

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