国立感染症研究所

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横浜市で同定されたムンプスウイルスの分子疫学的解析

(IASR Vol. 34 p. 226-227: 2013年8月号)

 

横浜市衛生研究所では、所轄管内におけるムンプスウイルス(MuV)流行の実態を把握することを目的にして、感染症発生動向調査のために医療機関より病因ウイルスの探索を依頼された臨床材料についてMuV の同定を試みた。その結果、1999~2012年までの14年間に流行性耳下腺炎や無菌性髄膜炎などと診断された患者の検体から、18例のMuV を同定した(表1)。18例の内訳は、耳下腺炎などの患者14例(検体:咽頭ぬぐい液)と無菌性髄膜炎患者4例(検体:髄液)である。このうち14例(咽頭ぬぐい液13例、髄液1例)はVero細胞でウイルスが分離され、かつ抗血清で同定された。しかし、残り4例(咽頭ぬぐい液1例、髄液3例)は、ウイルス分離できなかったため、直接検体よりMuV のsmall hydrophobic (SH)遺伝子領域をPCR で増幅し同定した。なお2010年までの17例についての詳細はすでに報告した1)

MuV の遺伝子型は、2012年にWHO により提唱された新基準2)により、SH遺伝子の塩基配列によりA~N(ただしEとMを除く)の遺伝子型に分類されている。そこで18例のSH領域 316bpの遺伝子を調べ、WHO の標準株に従って系統樹を作成し分類した。その結果、検出された遺伝子型はB型(3例)、G型(13例)、L型(2例)の3種類であった(表1)。遺伝子型Bの横浜株3例は、2000年株が標準株MuVi/Himeji.JPN/24.00と8塩基違いの相同性を示し、2004年株と2007年株は、それぞれワクチン株の星野株と鳥居株に一致した。遺伝子型Gの横浜株13例と標準株MuVi/Gloucester.GBR/32.96を比較したところ、さらに2つの遺伝子型(2000-06 年型と2010-12 年型)に細分類された(表2)。2000-06 年型は 5-6塩基置換であるのに対して、2010-12 年型は9-10塩基が変異していた。横浜2000-06年型は、GenBank に登録されている2000年以降日本国内で流行した多くのG型に一致、または高い相同性を示したのに対し、2010-12 年型は2010年のハワイ・グアム株に近似しており、2塩基が異なるのみであった。遺伝子型Lの横浜株2例は、1999年株は標準株MuVi/Tokyo.JPN/6.01と1塩基違い、2000年株はこの標準株と完全に一致した。

Vero細胞で分離された14例(B型1例:2000年株、G型11例:2000-06 年型7例、2010-12 年型4例、L型2例)については、hemagglutinin-neuraminidase (HN)領域1,749bpの塩基配列を調べ、より詳細な解析を行った。HNは、ウイルス感染に重要な役割を担うウイルスの主要表面蛋白質である。14例の横浜株のHN領域の遺伝子配列から標準株をもとに系統樹を作成したところ、いずれもSH領域で分類した系統樹と同じ結果になった1)。B型の1例は標準株と比較して35塩基置換、L型の2例は3-4 塩基置換がみられた。2つの亜型に細分類されたG型の11例は、標準株MuVi/Gloucester.GBR/32.96と比較して2000-06 年型は10-18 塩基置換(予測アミノ酸変異2-5)であるのに対して、2010-12年型は20-22 塩基置換(予測アミノ酸変異5-7)であった(表2)。標準株と比較して、B型(2000年株)と13例すべてのG型の横浜株にSHおよびHN領域で予測アミノ酸変異がみられた。SH領域のアミノ酸変異は、この領域の機能が解明されてないためその意義は不明であるが、HN領域に存在する糖鎖付加部位や中和領域にアミノ酸変異が散見された1)

今回の調査により、陽性検体は18例のみであったが、横浜では2000年以後に遺伝子型Gが流行し、それが2012年現在まで継続していること、その配列から2000-06年型と2010-12年型に細分類されることが確認された。また、4例の無菌性髄膜炎患者のうち2例からワクチン株が同定されたことは、遺伝子検査の重要性を意味している。この2例のワクチン接種歴は不明であったためワクチンによるものと結論づけることは難しいが、その可能性を懸念するものである。横浜市内で流行しているMuVの実態をより詳細に把握するために、継続的に検査を実施しウイルスの動向やMuV の遺伝子型を理解することが公衆衛生上意味のあることと考える。

 

参考文献
1) Momoki TS, Jpn J Infect Dis 66: 226-231, 2013
2) WHO, WER 87: 217-224, 2012

 

横浜市衛生研究所   
     百木智子 七種美和子 川上千春 宇宿秀三 森田昌弘 水野哲宏

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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