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最近の米国で観察されているMMRワクチン2回接種集団におけるムンプス事例および対策に関する文献レビュー(2013年現在)

(IASR Vol. 34 p. 232: 2013年8月号)

 

本稿では、1967年以降、流行性耳下腺炎(以下、ムンプス)ワクチンの使用が始まり、1977年から幼児の定期接種に組み入れられている米国において、最近話題となっているムンプスの疫学的な特徴と対策について注目し、複数の文献のレビューを行ったものである。

事例1:2010年に米国カリフォルニア州の大学内で発生したムンプスのアウトブレイクについて報告している1)。このアウトブレイクでは、21歳のムンプスワクチン未接種者が発端と考えられ、曝露を受けていたと考えられる期間にムンプスの流行が発生していた西ヨーロッパへの渡航歴があった。しかし、情報は地域保健当局にはもたらされなかった。その後、発端例のルームメイト(21歳)がムンプスに合致する症状を呈したが、この男性は2回のMMR(麻疹・ムンプス・風疹)ワクチンの接種歴があり、血清学的検査では抗ムンプスIgM抗体テストは陰性(IgGは陽性)となったことから地域保健当局には報告されなかった。その後、3例の患者がPCR検査にて陽性となった時点で、調査が開始された。29例が症例定義に合致した。発端例を含む8例がスポーツ行事に参加しており、17例(59%)が集合住宅に居住していた。22例(76%)において2回のMMRワクチン接種歴があった。検出されたムンプスウイルスはすべて遺伝子型Gであり、西ヨーロッパで循環している遺伝子型と同型であった。この事例においては、ムンプスワクチンを2回接種されていても、感染することがあり得るということ、医療従事者に対する注意喚起が必要であり、ムンプスが疑わしい患者を診療した際の公衆衛生当局への迅速な報告が必要とされること、ワクチン歴を有する者においては、PCR検査がより有用であること、が強調された。2回のワクチン歴があっても、ワクチンによって獲得された免疫が減衰する者があり、大学などでのアウトブレイクに結び付く可能性がある。過去の事例から、MMRワクチンを用いたムンプス予防の効果は1回接種では中央値78%(49~91%)、2回接種では88%(66~95%)と推定されており、やはり、入学時の2回のワクチン接種歴の確認が重要であるとした。

事例2:グアムにおけるムンプスの事例では2)、2009~2010年にかけての13カ月間の間に、505例(年齢中央値:12歳)のムンプス症例が報告され、9~14歳の患者のうち96%、5~8歳の90%、15~19歳の88%は2回のワクチン接種歴を有していた。地元住民の濃厚な接触のある大家族という生活形態が感染拡大の要素の一つと考えられた。9~14歳の年代に対して、3回目のMMRワクチンの接種が介入策として実施されたが、流行のピークを過ぎた後であり、全505例のうち186例(37%)は介入後に発生した。流行の影響を除くために、1潜伏期間(=21日)を超えて発症した者を数えると、2回以内のMMRワクチン接種者2,171名中5名が発症したのに対して(発症率2.3/1,000)、3回目のMMRワクチン接種者1,068人中1名(同0.9)の発症に留まったことから、2.6倍の発症率の減少、および相対危険度は0.4(95%信頼区間0.05-3.5)と計算されたが、統計学的には有意ではなかった。この結果のみから、3回目のMMRワクチン接種による介入の有効性は明らかではないものの、ムンプスは放置すると数カ月以上も継続する流行が観察されることから、積極的な介入を検討する意義はある、としている。

他に、米国北東部の集落において2009~2010年にかけて発生した事例の報告においては3)、情報の入手可能な学生のうち96.2%が2回のMMRワクチン接種を受けていたことが分かっていた地域の中で、13カ月間に11~17歳を最多とする計790例のムンプス症例が報告された。この流行に対する介入として、3回目のMMRワクチンが80.6%の学生に接種され、3回目の接種を受けなかった学生においては接種後1日~21日以内(流行の影響を受けていると考えられる時期)の発症率が1.67%から、接種後22日~42日(ワクチンの影響を受けていると考えられる時期)では0.48%(p=0.18)であったのに対して、3回目の接種を受けた学生においては前者1.60%から、後者0.06%へと統計学的に有意に介入の効果を認めた(p<0.01)、としている。よって、3回目のMMRワクチンは、2回の接種を受けた集団において発生したムンプスのコントロールに用いることができる、とした。

以上より、近年、米国においては2回のMMRワクチンを接種された思春期~成人の時期の年代におけるムンプスの集団発生が散見されており、その理由としてはワクチンのみで得られる免疫の減衰や、濃厚な接触による曝露の影響、診断の困難さから生じる対応の遅れなどが考えられた。介入策として、3回目のMMRワクチン接種を用いる試みが行われた事例があるが、その効果についてはさらなる検証が必要である。現時点において、わが国においては、ムンプスワクチンは定期接種化されてはいないが、今後、長期的な視野で、このような現象が発生する可能性を考慮しつつ、海外の情報収集および国内のサーベイランス強化に努めていくべき必要性が考えられた。

 

参考文献
1) Zipprich, et al., Morb Mortal Wkly Rep 61(48): 986-989, 2012
2) Nelson, et al., Pediatr Infect Dis J 32: 374-380, 2013
3) Ogbuanu, et al., Pediatrics 130: e1567, 2012

 

国立感染症研究所感染症疫学センター 砂川富正

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