印刷
logo40

水痘ワクチン2回接種の必要性

(IASR Vol. 34 p. 296-298: 2013年10月号)

 

はじめに
岡株水痘ワクチンは、高橋らにより開発された国産ワクチンである1)。その有効性は、1996年に定期接種が開始された米国の疫学成績を見ると明らかである2)。しかしながら、開発国であるわが国では任意接種のままでいまだ40%程度の接種率にとどまっている。そのため、毎年水痘は春先になると流行し、それに伴い一部の重症例が相変わらず発生しているのが現状である。このような憂慮すべき状況を打開するために早期の水痘ワクチン定期接種化が期待されているが、その際ワクチン2回接種の重要性がクローズアップされてきている。本稿では、水痘ワクチンの必要性とその効果について、特に2回接種の重要性に焦点を当てて概説する。

水痘ワクチンの必要性
水痘は、既にワクチンが定期接種化されている麻疹に比べると疾患重症度は低い。しかし一部に皮膚の細菌性二次感染症、脳炎/脳症や脳梗塞などの中枢神経合併症といった重篤な合併症があるうえ、昨今増加している免疫不全宿主においては致死的な経過をたどる症例もある3)ことから、ワクチンによる水痘予防の意義は高い。また、最近の報告では小児期の水痘ワクチン接種が後の帯状疱疹発生頻度を低下させるという報告も出てきており4)、高齢者に対する帯状疱疹ワクチンだけでなく、小児期の水痘ワクチン接種が帯状疱疹発生頻度の低下につながる可能性もある。

一般に隔離解除の目安となる皮疹の痂皮化には5~6日間を要し、その間患児看護のために保護者が仕事を休まざるを得ない。最近は共働きの家庭も多く、この場合、看護に伴う保護者の経済的損失も問題となるため、このような観点からも水痘ワクチンの必要性は高いと考えられている。欧米のみならず、わが国でも独自の水痘ワクチンについての費用対効果が算出されており5)、ワクチン2回接種を行ったとしても有益であることが示されている。

米国での定期接種化とその後の2回接種導入の経緯
米国では、1996年から岡株水痘ワクチンを使った定期接種化が進められた。本ワクチンの有効性は、ワクチン定期接種導入前後における米国の疫学的成績が如実に示している。19~35カ月児の接種率が2002年までに81%に向上し、その結果、カリフォルニア、ペンシルバニア、テキサスの3地域において全年齢層での水痘患者数が著明に減少していることが明らかとなった。この3地域で1995年と2000年の水痘患者数を比較すると、2000年には71~84%の水痘患者の減少が認められている2)。また、水痘に伴う劇症型溶連菌感染症は罹患部位の切断を必要とする場合も多く、症例数は多くないものの水痘帯状疱疹ウイルス(VZV)感染に伴うdisease burdenとしては無視できない合併症である。水痘ワクチンの定期接種化は、当然ながら水痘に伴う本合併症の頻度を劇的に減少させ6)、医療経費削減の観点からも極めて大きな効果を挙げている。

しかしながらその後の米国の成績をみると、水痘患者減少に伴いナチュラルブースターの効果が減弱したことによるワクチン接種後罹患(以下ブレークスルー水痘)例が増加してきたことが明らかとなった(7)。ブレークスルー水痘は発疹数も少なく軽症であるが、感染源となりうる点から問題視されている。この成績を基に、現在米国では水痘ワクチンの2回接種が推奨されている。

本邦での水痘ワクチン2回接種スケジュール
米国では1回目と2回目を数年あけるスケジュールになっているが、同じく2回接種法で定期接種化しているドイツでは、1回目を11~14カ月と2回目を15~23カ月と間隔が狭い。この違いは、米国はナチュラルブースター効果の減衰による免疫低下を防止する点に主眼を置き、ドイツでは1回接種では不十分な抗体上昇しか得られない症例が約15%存在するため、その群について低年齢の間に十分に抗体を上昇させるために短期間での追加接種を行っている。

日本では、まずは低年齢層の水痘患者数が減少することが重要である。そのためには、ドイツのように水痘ワクチンの予防効果を確実にするための2 回接種が必要となる。よって、1歳時に1回目のワクチンを接種、その後2回目は3カ月以上あけて2歳未満に接種することが望ましいとされている。我々が水痘ワクチン定期接種化を踏まえた麻疹風疹(MR)ワクチンと水痘ワクチンの同時接種の効果と安全性を評価した研究において、接種後約1年間の経過観察期間中に10%の被接種者が水痘に罹患した。いずれも兄弟あるいは保育施設での感染で、発熱もなく軽症だった。また、少数例ではあるが接種後罹患のなかった被接種者に2回目の水痘ワクチン接種を行った結果、明確なブースター効果が確認された8)。尾崎らも、接種間隔はより長いものの水痘ワクチン2回接種による明確なブースター効果を示している9)。接種後罹患のリスクは被接種者の生活環境にもよるが、同胞がいる、保育園へ通っているといったハイリスク環境下にある場合は、なるべく早期の追加接種が望ましい。

おわりに
水痘ワクチン接種の重要性、特に2回接種の持つ意義とわが国での水痘ワクチン2回接種の考え方について概説した。近い将来のわが国での定期接種化に備え、水痘ワクチンとMRワクチン同時接種の安全性と有効性に加え、適切な2回接種スケジュールの設定が重要課題となる。今後、これらの点について科学的な根拠を準備し、なるべく早期の定期接種化導入を待ちたいと思う。

 

参考文献
1) Takahashi M, et al., Lancet 2: 1288-1290, 1974
2) Seward JF et al., JAMA 287: 606-611, 2002
3) 中井英剛, 他, 小児感染免疫23(1): 29-34, 2011
4) Weinmann S, et al., J Infect Dis, 2013 Aug 6 [Epub ahead of print]
5) 菅原民枝, 他,感染症誌 80: 212-219, 2006
6) Patel RA, et al., J Pediatr 144: 68-74, 2004
7) Chaves SS, et al., N Engl J Med 356: 1121-1129, 2007
8) 大橋正博, 他, 小児科学会雑誌(印刷中)
9) 尾崎隆男, 他, 感染症誌87: 409-414, 2013

 

藤田保健衛生大学医学部小児科 吉川哲史

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan