logo40

E型肝炎:北海道・札幌地区での観察

(IASR Vol. 35 p. 5-7: 2014年1月号)

 

1.はじめに
E型急性肝炎は、日本国内でウイルス(HEV)に感染し発症する疾患という理解が広く定着している。しかし、2000年頃迄はアジア・アフリカなどの流行国から帰国した者に発症する輸入感染症として捉えられていた。

HEV感染に関する我々の知見の深化には、国立感染症研究所による「感染症発生動向調査」等の編纂と公開に拠るところが少なくない。ここに謝意を記し、北海道で観察するHEV感染の知見について簡単に記すこととしたい。

2.E型肝炎は増えている?
E型肝炎は、日本を含む非流行地域においては、概ね人獣共通感染を背景に発症する孤発性急性肝炎であり、HEV RNAの遺伝子型はG3またはG4型である。感染経路の共通性からA型肝炎ウイルス(HAV)とともに「経口感染する肝炎ウイルス」として扱われる。しかし、HEV感染が日本の日常臨床においてどれほどの意義を持つのかは不明な時期が続いた。

図1に、感染症発生動向調査のデータをもとに、最近10年間のE型肝炎届出数の推移をまとめた。2013年は、12月初旬まで(第48週)の届出症例数の累計によるが、2012年と2013年の両年では、E型の症例数が増加し、A型に匹敵した。

北海道は以前から日本国内においてはHEV感染例の報告が多い地域とされ、「国内最大の高侵淫地域」とみなされている。しかしながら、同じデータから地方別の届出数をまとめてみると興味深い事実が判明する。2012年、2013年では、関東甲信越からそれぞれ36、64例が届けられているが、2012年は北海道の39例にほぼ匹敵し、2013年は症例数が減少した北海道(22例)の3倍近い症例数であった(図2)。関東(1都6県)に限っても2013年第48週時の累計症例数は54例に達した。

これらの集計事実から、最近2年間のE型肝炎症例数増加には、関東甲信越での増加が寄与していると推測される。2012年以降の症例数増加の理由の一つには、2011年末からHEV感染検査が保険収載され、日常臨床でHAV等と同様に検査が可能になった事情が関係すると思われる。

3.札幌圏における小流行
E型肝炎症例数は非流行年のA型肝炎に肩を並べ、関東、北海道で多く発症していることが示されたが、これらはおよそ孤発例である。

しかし、札幌圏では2009年秋および2011~2012年の冬に同時多発的に孤発例が発生した1,2)。これらHEV感染11例の連続的発生は、患者初期血清から分離同定されたHEV RNA genotype 4に属するHEV株に起因することがつき止められた(図3)。2009年秋に発症した11例から分離された11株は、ORF1 326ntに対する遺伝子系統解析により、札幌地区における既報例由来のSapporo strainや北見・網走地区の症例から分離されたKitami/Abashiri strainに比較的近接するも、それらとは区別される単独のcompactなclusterを形成したため、” New Sapporo strain”と命名された。日本を含む非流行国において、HEV感染孤発例が連続発生し、分子疫学的手法により単一HEV株の感染による小流行を呈したことが証明されたのは初めてであった。

2009年秋に続き2011~2012年冬にも同一株の小流行による患者発生が確認された。各症例に共通する感染源は不明であり、感染源の確認とその予防的措置がなされなければ3度目の小流行も不可避と推測される。本事例の解析によって、遺伝子系統解析による疫学的検討の有用性が示されたということができる。

4. 終わりに
北海道におけるHEV感染を全国的な推移との関連で検討し、札幌圏で発生したHEV感染小流行について言及した。今後は全国的範囲においてHEV感染例の集積が行われ、発症メカニズム、重症化因子、重症例に対する至適治療法と感染源に対する検討が進捗することを期待する。

 

参考文献
1) 姜貞憲, 他, 肝臓 51: 51-53, 2010
2) 小関至, 他, 肝臓 53: 78-89, 2012

 

手稲渓仁会病院消化器病センター  姜 貞憲(かん じょんほん)

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan