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都内一般病院で経験した急性肝炎症例および市販食品からの多様なHEV RNAの検出

(IASR Vol. 35 p. 8-9: 2014年1月号)

 

はじめに
E型肝炎はE型肝炎ウイルス(HEV)の感染によって生じる急性肝炎であり、多くは自然軽快するが、時に劇症化するため注意を要する。これまでも当院では、散発的に急性E型肝炎症例を経験してきたが、2009年4月からの20カ月には7例を数えた。当院は東京都23区の南部に位置する中規模一般病院であり、同様の発生が他院にも生じていれば、都内発生数として決して無視できぬ数になると考えられ、これら症例の背景などを分析するとともに、一般家庭の食卓に供せられる食品からのHEV感染を想定して、市販のブタレバーおよび大腸におけるHEV RNAの検出を試みた。

急性E型肝炎症例の検討
2009年4月からの20カ月において当院に入院した急性肝障害29例のうち、7例が急性E型肝炎と診断された。診断は、急性期血清からのHEV RNAの検出に基づいた。急性肝障害の原因として、他にA型肝炎ウイルス、B型肝炎ウイルス、EBウイルス、サイトメガロウイルス、アルコール、薬物、原因不明が存在したが、HEVは最も高頻度であった。全例男性、年齢は41~70歳、中央値43歳であった。いずれも近隣に居住ないし勤務している者であり、当院を選択した理由に特定のものはなかった。5例では全身倦怠感、発熱などの症状が受診動機であったが、他の2例は脂質異常症治療薬投与開始後の経過観察および健診での肝障害指摘による受診であった。感染経路を推定可能であった症例は2例で、いずれも発症3週前にイノシシ鍋もしくは動物種不明のレバーを食していた。ALTのピーク値は327~4,501 IU、プロトロンビン活性の最低値は68~110%であり、重症化例は無く、全例自然軽快した。検出されたHEVはすべてgenotype 3であり、系統樹解析の結果、近縁株は存在しなかった。

市販食品での検討
当院の位置する品川区および隣接する港区内のスーパーマーケットおよび精肉店あわせて22店舗から計260個の非加熱国産ブタレバーおよび、22店舗中1店舗のみから53個の非加熱国産ブタ大腸を購入し、HEV RNAの検出を試みた。その結果(表1)、ブタレバー260個のうち7個(2.7%)、ブタ大腸53個のうち1個(1.9%)からHEV RNAが検出された。これら8株のHEV株はすべてgenotype 3であったが、相互ホモロジーは90%程度に留まり、出自は多岐にわたると考えられた。上記、臨床例と合わせた系統樹解析結果を図1に示す。

考 察
東京都内のいわゆる急性期一般病院において、20カ月に7例もの散発性急性E型肝炎症例を経験した。これは入院を要した急性肝障害症例の24%を占め、各種原因中、HEVは最も高頻度であった。これらの背景、居住地等に共通性は認められず、ウイルスの系統樹解析結果も出自多様なウイルスの感染を意味した。また同時に提示した、市販食品からのHEV RNAの検出状況、その検出ウイルスの多様性からも、すでに様々なHEVが都内に流入していることが明らかとなった。当院で経験したE型肝炎症例が、当院を選択した理由に特別なものは無かったことから、都内いずこの病院においても、同様の症例集積は生じうる。身体所見や臨床経過上、急性E型肝炎に特徴的なものは存在せず、唯一E型を示唆する情報である感染源動物肉の喫食歴は、一部の症例にしか明らかでないこと、今回E型と診断された症例には、薬物性肝障害、アルコール性肝障害、伝染性単核球症などと診断しても矛盾は無い症例が含まれることなどを考慮すると、急性肝障害全例を対象として、HEV感染を念頭においた検査実施が必要である。当院では研究部において、急性肝障害全例に保険適用外のHEV RNAの検出を実施しており、これが症例の発掘に益していることは否めないが、現在、IgA-HEV抗体が保険適用となっており、実臨床において測定可能である。本疾患の感染経路の特定、予防法の確立のためにも、症例の蓄積は重要な課題であり、より多くの医療機関において、E型を想定した急性肝障害の原因検索が実施されることが望まれる。

 

東芝病院消化器内科・研究部 新井雅裕    
東芝病院消化器内科 手島一陽  金原 猛    
東芝病院研究部 高橋和明 安倍夏生 三代俊治

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