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E型肝炎の慢性化、肝外病変について

(IASR Vol. 35 p. 13-14: 2014年1月号)

 

これまで、E型肝炎ウイルス(HEV)感染による急性肝炎は時に劇症化するが、慢性肝炎は引き起こさないと考えられてきたため、臓器移植の際にHEVについて十分に考慮されることはなかった。ところがフランスのKamarらは、臓器移植を受けた患者217人中14人がHEVに感染し、さらに追跡した結果、そのうち8人で慢性化を認め、免疫不全状態にある患者のHEV感染が慢性肝炎を引き起こす危険性があることを初めて報告した。Legrand-Abravanelらの調査では、臓器移植後HEV感染が確認された38例中22例が慢性化している。オランダのHaagsmaらの調査では、臓器移植患者285人中3人がHEVに感染し、そのうち2名が慢性化、ドイツのPischkeらの調査では臓器移植患者226名中3名がHEVに感染し、2名が慢性化している。以上のような研究結果から、免疫抑制状態にある人がHEVに感染した場合、約6割は慢性化する可能性が指摘された。また、これまでに報告された慢性化したHEVのgenotypeはすべて3型であり、現在までに他のgenotypeによる慢性感染は報告されていないことも興味深い。

臓器移植を受けた患者がHEVに感染した原因は、通常と同様に経口感染によるものが多いと考えられている。臓器移植を受けた患者は野生獣肉や加熱調理が不十分な肉(特に豚肉)や魚介類を摂取することは控えるべきである。一方、移植臓器からのHEV感染については、これまでに移植後にドナーが抗HEV IgG陽性であることが判明した例は複数あるが、移植臓器からの感染が確実に確認された例は現在まで1例のみである。また、移植時の輸血によるHEV感染の可能性もあるが(本号7ページ参照)、臓器移植の場合、現在まで輸血による感染が確認された例はほとんどない。

臓器移植以外の免疫抑制患者では、リツキシマブ投与により免疫療法を受けている非ホジキンリンパ腫患者にHEVが感染した場合、やはり慢性化した例が知られている。造血幹細胞移植を受けた患者ではHEV感染が認められた例は非常に少ない。

HIV感染による免疫不全患者の抗HEV IgG陽性率は、ヨーロッパにおいては北フランスの1.5%からイギリス南西部の9.4%までさまざまであるが、各報告での測定法の違いもあり、単純に比較することはできない。HEVに感染していることを示すHEV RNA陽性率はいずれの調査でも低く、0~1.3%である。PCRでHEV RNAが検出されたHIV感染者は世界でも18例のみであり、そのうち11例は急性で治癒し、4例のみが慢性化している。残り3名の転帰は不明である。

これらの報告は、臓器移植を受けた患者をはじめとする免疫不全の状態にある人がHEVに感染すると慢性化する危険性があることを示しているものである。現在まで治療法としては、リバビリンの投与や、臓器移植患者などの場合は免疫抑制の程度を下げるなどが行われているが、より適した治療法の確立が望まれる。

HEV感染者の一部は肝臓外の症状をおこすことが報告されている。中でも神経症状が多く、イギリスおよびフランスの126人の急性および慢性E型肝炎患者(すべてgenotype 3)での調査では、7例が神経合併症、3例が炎症性多発性神経根傷害、1例がギラン・バレー症候群(GBS)、1例が両側上腕神経炎、1例が脳炎、1例が近位筋障害を発症している。慢性E型肝炎患者4例では、すべての患者の脳脊髄液からHEVが検出されている。なお、これらの神経症状はウイルスが排除されると完全に治癒した。

GBSは末梢神経の急性後天性の自己免疫疾患であり、感染症の後や、稀にワクチン接種後に発症する。症例の約6割は感染してからGBSになり、原因となる感染で最も頻度が高いのはCampylobacter jejuniだが、他の病原体、例えばヘルペスウイルス科(サイトメガロウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、EBウイルス)や、細菌(Haemophilus influenzaeMycoplasma pneumoniae)も原因とされている。近年、HEV感染と関係するGBS症例の報告が多くなってきている。

HEV感染は無症状であることも多く、神経症状が肝炎症状を上回っている場合は肝炎を疑われない。HEVが感染していても、肝機能異常を示す神経系疾患と診断されてしまう可能性もある。このような理由から、HEV感染症と関連した実際のGBS発生率はまだ明らかになっておらず、今後の研究の進展が望まれる。

 

国立感染症研究所ウイルス第二部 石井孝司

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