国立感染症研究所

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中国での重症熱性血小板減少症候群の発生状況

(IASR Vol. 35 p. 33-34: 2014年2月号)

 

中国における重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome: SFTS)の発生は2006年秋の安徽省の事例(患者数14名)が最も早いものと考えられる。この事例はヒト顆粒球性アナプラズマ症の症状(発熱、白血球減少、血小板減少等)に類似していたことから、当初同感染症との診断がなされていたが1)、SFTSが新興感染症として認識された後に再調査の結果、SFTSであると明らかになったものである2)

これまで中部を中心とする12省(安徽省、湖北省、河南省、山東省、遼寧省、陝西省、四川省、雲南省、広西省、江西省、浙江省、江蘇省)でSFTSの発生が報告されている(図1)。Dingらの2011~2012年の2年間のまとめの報告によると、患者数は計2,047名(男性955名、女性1,092名)、年齢は1~90歳(中央値は58歳)、死亡は129名(男性71名、女性58名、致死率6.3%)、死亡患者の年齢中央値は64歳で回復者と比べ優位に高い、患者の80%以上が山岳地帯の農業もしくは林業従事者、発生時期は3~11月で5~8月の発生が75%以上を占める、非農業従事者の致死率(10.1%)は農業従事者のそれ(5.8%)より高い、移入者の致死率(11.0%)は地元民のそれ(6.3%)より高い、患者数の多い省は河南省(48%)、湖北省(22%)、山東省(16%)の順である3)。Liuらによる患者年齢の分布を図2に示す4)

潜伏期は6~13日で、発熱・血小板減少・白血球減少・血中肝酵素上昇等は1~7日間程度みられ、血中ウイルス量は105~106 copies/mLに達する5)。SFTS患者に多く認められる症状を表1に示す6,7)。回復者ではこれらの数値は改善し、発症後2週間程度で正常値に戻るが、死亡例では経過中数値は悪化を続け、発症後9日(中央値)で多臓器不全や播種性血管内凝固症候群により死亡する5)。血中ウイルス量・肝酵素値・サイトカイン量(IL-6、IL-10、IFN-γ)・ケモカイン量(IL-8、MCP1、MIP1β)は重篤度と相関する8,9)。ウイルスは咽頭スワブ・尿・便からも検出されるが、これは出血した血液由来のウイルス量を反映したものと考えられる9)。回復者は抗体陽性となり、長期にわたり持続する6)

SFTSの原因ウイルス(SFTSV)の伝播経路のひとつはSFTSV保有マダニの刺咬である。Haemaphysalis longicornis(フタトゲチマダニ)やRhipicephalus microplus(オウシマダニ)からSFTSV遺伝子が検出もしくはSFTSVが分離されている6,7)。血液や気道分泌物を介したヒトからヒトへの感染例も複数報告されている2,10-13)。しかしマダニの刺咬、ヒト-ヒト感染のいずれも確認されない事例もある。

SFTS患者が発生した地域における家畜の抗体保有率は高く、特にヤギやヒツジでは70~95%が抗体陽性である5,14-16)。ウシ(34~61%)やニワトリ(47%)における抗体陽性率も比較的高い5,16)。これらの家畜やイヌ・げっ歯類からSFTSVが分離あるいは遺伝子が検出されるが、症状を示す動物は今のところ知られていない5,17,18)。家畜に刺咬するマダニからSFTSVが検出されており6,19)、これらの動物へのSFTSVの伝播経路もマダニの刺咬であると考えられる。発生地域の健常人でもわずかながら抗体陽性者が認められている(0.8~3.6%)14-16)

 

参考文献
1) Zhang, et al., JAMA 300(19): 2263-2270, 2008
2) Liu, et al., Vector Borne Zoonotic Dis 12 (2): 156-160, 2012
3) Ding, et al., Clin Infect Dis 56(11): 1682-1683, 2013,
4) Liu, et al., Rev Med Virol, 2013 Dec 6, doi: 10. 1002/rmv.1776 [Epub ahead of print]
5) Dexin, Emerg Microbes Infect 2: e1, 2013
6) Yu, et al., N Engl J Med 2011, 364(16): 1523- 1532
7) Xu, et al., PLoS Pathogens, 2011, 7(11): e1002369
8) Zhang, et al., Clin Infect Dis 54(4): 527-533, 2012
9) Sun, et al., J Infect Dis 206(7): 1085-1094, 2012
10) Gai, et al., Clin Infect Dis,54(2): 249-252, 2012
11) Bao, et al., Clin Infect Dis, 53(12): 1208-1214, 2011
12) Chen, et al., Int J Infect Dis, 17(3): e206-e208, 2013
13) Tang, et al., J Infect Dis, 207(5): 736-739, 2013
14) Zhao, et al., Emerg Infect Dis, 18(6):963-965, 2012
15) Cui, et al., Am J Trop Med Hyg, 88(3): 510-512, 2013
16) Jiao, et al., J Clin Microbiol 50(2): 372-377, 2012
17) Bao, et al., N Engl J Med, 365(9): 862-865, 2011
18) Niu, et al., Emerg Infect Dis, 19(5): 756-763, 2013
19) Zhang, et al., J Virol, 2012 86(5): 2864-2868

 

国立感染症研究所ウイルス第一部  下島昌幸 西條政幸

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