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重症熱性血小板減少症候群:新しい感染症としての行政対応

(IASR Vol. 35 p. 34-35: 2014年2月号)

 

はじめに
厚生労働省(厚労省)は、日本国内で重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome: SFTS)に感染し死亡した症例が確認されたことを踏まえ、その旨を2013(平成25)年1月30日に公表し、国民に感染防止対策を呼びかけるとともに、疑い患者の情報提供について全国の医療機関に要請した。SFTSは2011(平成23)年に中国で確認され、報告された新興感染症であり、当初は一部の研究者にしか知られておらず、その実態についても未解明なことが多かった。そのため、対策を進めるに際しては、まずはこの病気についてわかりやすく周知し、一般の方、自治体担当者、医療従事者に理解を求めることが必要と考えられた。その上で、本病の流行状況を把握するために、患者発生のサーベイランス体制を確立するとともに、マダニや野生動物等の調査を行ってSFTSウイルス(SFTSV)の国内分布状況を解明する等の調査研究体制の整備が必要と考えられた。そして、得られた情報を適時に広く周知することで、一層の感染予防等に役立てることが必要と考えられた。

本稿では、以上の必要性に則して、厚労省が行った対策について紹介する。

1.国内初発例への対応
後にSFTSの国内感染初発例となる疑い患者に関する情報が、国立感染症研究所(感染研)より厚労省結核感染症課に一報されて以降、結核感染症課は感染研の関係部と検討会議を重ね、必要な事実確認(疑い患者の臨床・疫学情報、実施された検査の結果等)を行うとともに、SFTSの国内感染例と確定し公表するに足るエビデンスが揃っているかを検証した。この協議には、疑い患者が発生した当該自治体からも担当者を招聘し、関係者間で最新情報を共有するとともに、確定患者となった場合の対応についての準備を同時に進めた。

こうして、専門家による確認作業の結果、SFTS患者であることが最終的に確認されたことをもって、2013(平成25)年1月30日、全国の自治体に対して、通知[「SFTSの国内発生について」(平成25年1月30日健感発0130号第1号厚労省健康局結核感染症課長通知)]により、事例に関する情報提供を行うとともに、医療機関に対しては、通知に示した要件(http://www.niid.go.jp/niid/images/iasr/rapid/graph/pt39811.gif、ただし、他の感染症によることまたは他の病因が明らかな場合は除く)に該当する患者を診断した場合は情報提供するよう、協力を呼びかけた。この結果、2012(平成24)年以前にSFTSに罹患していた患者の情報が10件以上報告されたが、このうち最も古い症例は2005(平成17)年のものであった。このことからもSFTSはかなり以前から国内で発生していたことが改めて確認された。

自治体への通知と同時に、新しく確認された感染症について広く国民に周知し、マダニの活動が活発になる春に向けて注意喚起を行うため、プレスリリースも行った。公表にあたっては、本件が一般の方にはなじみのない、マダニによる新しい感染症であることから、平易な表現のQ&Aを準備し、同時に公開するなど、無用な混乱を引き起こすことのないよう十分な情報の提供に努めた。また、患者の情報の公表については、居住県、成人であることおよび性別までにとどめるなど、情報公開の必要性とプライバシー保護のバランスに配慮した。

2. 感染症法への位置づけ
SFTSに国内で罹患した者が初めて確認されたことを踏まえ、厚労省は同年2月13日に厚生科学審議会感染症分科会感染症部会(以下、「部会」と標記)を開催し、感染症法におけるSFTSの疾病分類を四類感染症、ならびにSFTSVの病原体分類を三種病原体とすることが適当である旨、部会より提言を得た。

SFTSの疾病分類については、SFTSのこれまでの発生経緯、疾病の特徴および発生した患者の状況等、判明している科学的事実を踏まえた上で、感染症法の対象疾病に加える必要性や、対策に必要な措置内容を勘案し、決定された。病原体分類についても同様に、感染症法に基づく病原体等管理規制上の病原体分類に則し、SFTSVの病原体分類と所持等に関して必要な規制が決定された。

以上の審議結果を受けて、厚労省では感染症法施行令の改正に必要な手続きを行い、同年3月4日付けでSFTSを四類感染症、SFTSVを三種病原体とする政令を施行した。この改正に伴い、感染症発生動向調査事業実施要領を改正し施行するとともに、感染症法に基づく医師の届出基準を改正し、新たにSFTSの届出基準を示した。以上の対応により、1月末より通知に基づき実施された、SFTSの疑い患者に関する情報提供の依頼は、法律に基づく届出に移行した。

3. SFTSの調査研究体制の整備
日本国内でのSFTSの発生状況を正確に把握するためには、まず診断検査体制を整備することが不可欠であったが、中国においてSFTSが流行している状況を受けて、将来的にわが国においてSFTSが発生しても対応できるよう、中国CDCからSFTSV株の分与を受けるなどして、診断検査法の開発が感染研において進められていた。国内でのSFTS発生を受けて、この検査法を国内ウイルス株に合うよう改良し、全国の地方衛生研究所にPCRのプライマー等を配布し、3月末までにSFTSの診断検査体制を整備した。

また、SFTSについては、詳細な感染機構や病態、治療法・予防法、自然界におけるSFTSVの感染環など、多くの科学的知見が不足しており、これらの問題に早急かつ包括的に対応するため、厚労省は、特別研究班を5月に設置した。このうち、媒介マダニに関する研究については、日本紅斑熱やライム病などSFTS以外のマダニ媒介性感染症に関する研究班・専門家とも連携して、調査が進められている。ただし、マダニの採取や種の同定などに当たれる専門家の数は多くはないため、この分野の専門家の育成も喫緊の課題である。また、研究班のリソースには限りがあり、SFTSVの全国における分布状況を明らかにするためには、自治体の協力が必要不可欠であることから、厚労省は、四国、九州、中国、東北と各地域ブロックごとに自治体の担当者と意見交換会を実施して研究調査への参加を呼びかけた。協力が得られた自治体に対しては、将来的には各自治体が独自に調査を実施できるよう、研究班からの技術移転も行われている。その他、SFTSVとマダニ-野生動物間の生活環を解明するため、動物の血中抗体価の測定なども行われているが、そのサンプルについては、大日本猟友会の協力を得て入手するなど、まさに分野横断的な取り組みが行われている。

結 語
国内初発例の公表によって、SFTSは日本の野山にいるマダニが媒介し重症化する新しい感染症として広く注目を集めることとなった。また、公表後の短期間に過去の症例の中からSFTSが疑われるものについて医療機関より報告いただけたことは、関係の臨床医の方々の日々の努力の賜であり、高く評価されるべきものと考える。

SFTSについては、臨床医、ウイルス学、病理学、疫学、昆虫学等々の研究者、行政担当者、その他の野生動物に関係する者等々が連携・協力して、必要な対策を進めている。

今後も発生するであろう新しい感染症への対応には、このような多方面の専門家の連携による対策が不可欠と考える。そのためには、平時から幅広い各方面との情報交換を絶やさないことも、我々行政担当者として重要なことと考える。

 

厚生労働省健康局結核感染症課
  福島和子 齋藤智也 梅木和宣 中嶋建介

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