国立感染症研究所

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重症熱性血小板減少症候群ウイルス:バイオセーフティと家族内感染および院内感染に対する対応

(IASR Vol. 35 p. 37-38: 2014年2月号)

 

1. バイオセーフティ
重症熱性血小板減少症候群ウイルス(severe fever with thrombocytopenia syndrome virus: SFTSV)は、同定されて間もない病原体のため、国際的にもいまだ国際ウイルス分類委員会で分類されておらず、また米国CFR (the Code of Federal Regulations: 連邦規則集)をはじめとする諸外国の公衆衛生対策を目的とした病原体等管理規制においても規制の対象とされていない。

国立感染症研究所(感染研)において、SFTSVと同じく、ブニヤウイルス科に分類されるリフトバレー熱ウイルスや腎症候性出血熱の原因ウイルスであるハンタウイルス、また、マダニが媒介するダニ媒介脳炎ウイルス(フラビウイルス科)、日本紅斑熱リケッチアやロッキー山紅斑熱リケッチア(リケッチア)等がBSL3に分類されている。SFTSは患者の致死率が比較的高く有効な治療薬はないものの、空気感染・飛沫感染の可能性が低いこと、実験室で病原体を取り扱う限りにおいては実験室感染のリスクは低いと考えられることなどから、同じくBSL3に分類されている。また、SFTSVは日本における病原体等管理規制(感染症法)の改正により、2013年3月に三種病原体に指定された。そのため、SFTSVを入手してから7日以内に厚生労働大臣への届出(厚生労働省結核感染症課)や施設外にSFTSVを運搬する場合の公安委員会への事前の届出(感染症法第56条の16)が課されている。加えて、SFTSVを所持・使用する場合は、施設基準、保管、使用、運搬、滅菌等の基準(厚生労働省令)を遵守し、厚生労働大臣等による報告徴収・立入検査を受ける義務がある。SFTSVを所持・使用する場合には上記の規制を踏まえて適正に対応しなければならない。確定診断されるまでのSFTS疑い患者の血液や体液の検体等は、感染性のある臨床検体と同様、SFTSVが含まれていることが確定していないのでBSL2施設での取り扱いも可能である。しかし、その際には飛沫および接触感染予防策を講じて取り扱う必要がある。

また、SFTSは感染症法においては4類感染症として対象疾病に指定された。今後、SFTSの発生・まん延の予防の観点からも医師による最寄りの保健所への迅速な届出(感染症法第12条第1項)、発生状況などの積極的疫学調査の実施、医療機関における標準予防策の周知徹底が必要である。

2. 家族内感染および院内感染
現在まで、SFTSVのヒトへの感染は野外におけるマダニの刺咬によるものが最も多いと考えられているが、ヒト‐ ヒト感染があることも報告されている1-6)。中国における報告では、自宅での感染患者の介護の際に、何らかの形で患者血液や体液に触れて感染するケースが多い1-5)。日本においても、90代と70代の母娘による家族内発症例が報告されているが、介護した娘にもダニ刺咬痕があり、母親の介護の際に感染したのか、同じ地域、場所で別々にSFTSV陽性ダニによる刺咬で感染したのかは定かではない6)。しかし、これらの患者から増幅されたSFTSV遺伝子の塩基配列は一致しており、由来を同じくするSFTSVによる感染であることが明らかにされている。SFTSVのヒト-ヒト感染に関しては、患者の消化管や気道に出血が認められることが多く、体液には血液が混ざっているものとみなす必要がある。ヒトからヒトへの感染経路は接触感染により、飛沫感染や経口感染による感染の可能性は低い。性的接触による感染は今のところ報告はされていないが、体液にはSFTSVが含まれている可能性が高く、感染の危険がある。

日本国内では院内感染の報告事例はないが、医療従事者はSFTS疑い患者や確定患者に接する際は、グローブ、ガウン、マスク、必要な場合にはゴーグル等を装着して、針刺し事故等には十分留意し、診療にあたらなければならない。また、SFTSVは血液のみならず唾液、尿・便等の体液・排泄物からも検出されるため7)、普遍的な対応として標準予防策を適切・確実に実施することが重要である。急性期感染患者血液中のウイルスゲノム量は、重症患者では109コピー/mlにも達することから、患者血液の取り扱いには十分注意しなければならない。山口県の一医療機関において、SFTS患者に接触した医療従事者の血清抗体価測定を含む接触状況調査が実施された。調査対象者が少ないものの、対象者全員がSFTSV抗体陰性であり、適切な対処法で診療、介護を行えば、感染のリスクは極めて低いと考えられる8)。さらに検査室等でSFTS患者(診断前も含む)検体が扱われることを考慮すると、医師や看護師だけでなく、検査担当者においても常日頃からの徹底した標準予防策の励行が重要である。

 

参考文献
1) Bao CJ, et al., Clin Infect Dis 53: 1208-1214, 2011
2) Liu Y, et al., Vector Borne Zoonotic Dis 12: 156- 160, 2012
3) Gai Z, et al., Clin Infect Dis 54: 249-252, 2012
4) Tang X, et al., J Infect Dis 207: 736-739, 2013
5) Chen H, et al., Int J Infect Dis 17: e206-e208, 2013
6) 本間義人,他, IASR 34: 312-313, 2013
7) Zhang YZ, et al., Clin Infect Dis 54: 527-533, 2012
8) 高橋徹,他, IASR 34: 269-270, 2013

 

国立感染症研究所ウイルス第一部 谷 英樹 西條政幸

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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