国立感染症研究所

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ロタウイルスワクチンの導入とその影響の評価

(IASR Vol. 35 p. 73-74: 2014年3月号)

 

二つの弱毒生ロタウイルスワクチン、単価ロタウイルスワクチン(GSK社)と5価ロタウイルスワクチン(MSD社)がそれぞれ2011年11月と2012年7月からわが国でも使用されるようになった。これら二つのワクチンがどちらも接種されるようになった2012年7月~2013年4月までの10カ月間の出荷数は、単価ロタウイルスワクチンが520,946ドース、5価ロタウイルスワクチンが237,034ドースであった。厚生労働省の予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会、ロタウイルスワクチン作業班の中間報告では、ロタウイルスワクチンの接種率は、2012年7月の時点で約35%、2013年4月の時点で45%に達していると推計している。その影響はどのように表れているのだろうか。この目的のために厚生労働科学研究による「網羅的ロタウイルス分子疫学基盤構築とワクチン評価」班(片山班)が結成され、現在集積された情報を解析中である。しかし、残念ながらその成果をここに示すことができない。その理由は、本研究班による調査が、ワクチン接種がほぼ半数に及んだ時点という解析のためにはもっとも好都合な時期を含んでいるが、接種者と未接種者との違いが明確に表れるのは、接種約1年後に来るロタウイルス流行期、つまり、今年(2014年)の1~6月にかけての流行でのデータに依存しなければならないからである。

そこで、速報性のある感染症疫学センターが2014年2月14日現在でまとめた各都道府県市の地方衛生研究所(地衛研)からのロタウイルス検出報告数の推移を見てみよう()。2012~2013年の流行期に比べて2013~2014年の流行期からの検出がまだみられない。例年12月の末から1月に始まるロタウイルス流行の立ち上がりが1月中に起こっていない。米国では2006年からロタウイルスワクチンが定期接種に導入されたが、この1年後の2007~2008年には、検査機関でのロタウイルス検出率の週を追っての推移に、ピークが低くなりかつ遷延するという変化がみられた。に示した地衛研からのロタウイルス検出について、この時点で解釈するのは尚早であるが、仮に米国でみられた変化と同様のものであるとすると、これはワクチンの間接効果(集団免疫)と呼ばれる現象の可能性がある。

間接効果とは、ワクチン未接種の小児あるいは予防接種時に対象年齢外であった小児にもみられる発病予防効果のことである。米国では、ロタウイルスワクチンの導入後2年が経過した2008年に、推定接種率が0歳代で57%、1歳代で17%に達したとき、ロタウイルスによる入院数の減少が、予防接種の直接効果によって説明できる数よりも大きかった。これは環境中に排泄されるウイルス量が減少したこと、あるいは感受性の高い年齢層の小児の減少によりウイルスの伝播が途絶えがちになったことなどによって、未接種児も発病を免れたものと考えられている。

片山班の立ち上げがタイムリーであったのはワクチン接種がほとんどない最後の状況をかろうじてベースライン情報として獲得できたことであろう。まだ、完全な解析は終了していないが、その1例をあげると、5歳未満のロタウイルス胃腸炎による入院率に関することがある。ロタウイルス胃腸炎による入院率とそこから計算される総入院数は、入院を予防することがロタウイルスワクチンの第1の目的であることを考えれば、ワクチンの効果を評価するための基盤的な情報である。しかし、わが国における報告は秋田県、三重県、京都府からのものに限られていた。しかも、秋田県での研究が一様に三重県や京都府の研究から得られた入院率より2~3倍高いことが、全国の総数を算出する上での問題点であった。片山班では、既報で調査が行われた秋田県と京都府の二つの病院で、統一プロトコールにより、5歳未満の小児における急性胃腸炎の全例から臨床検体を採取し、国立感染症研究所で検査するという方法により比較した。この結果、京都府南丹地区の入院率は、3.9人/1,000人/年となり、秋田県由利地区では11.4人/1,000人/年であった。それぞれが過去に発表した調査では、京都では5.1人/1,000人/年、秋田では13.7人/1,000人/年であったので、ほぼ同様の入院率であったといえる。すなわち、京都や三重でのロタウイルス胃腸炎の入院率は、秋田の約3分の1に相当し、明らかな地域差が存在することが示された。今後、接種率の高まりとともにロタウイルス胃腸炎による入院数の減少が期待されるが、地域差の存在は、ワクチンが疾病負担に与えるインパクトを評価する際に考慮する必要がある。

 

長崎大学大学院医歯薬学総合研究科      
    感染免疫学講座 中込とよ子  中込 治

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