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海外の麻疹の状況―2013

(IASR Vol. 35 p. 97-98: 2014年4月号)

 

WHO のMeasles surveillance data1) によると、2013年に世界各国から報告された麻疹症例数の合計は170,564人であった(2014年2月10日現在)。この報告数は2012年のおよそ1.4倍であった。麻疹症例数が増加した地域はAFR (アフリカ地域)(23,921例→75,487例)、WPR(西太平洋地域)(10,694例→32844例)、逆に減少した地域はEMR(東地中海地域)(23,304例→16,092例)、SEAR(南東アジア地域)(25,429例→14,751例)であった。EUR(ヨーロッパ地域)(30,829例→30,927例)とすでに麻疹排除を達成しているAMR(アメリカ地域)(153例→463例)は昨年とほぼ同等であった(図1)。なお、サーベイランス体制が発達しておらず、麻疹の報告そのものがない国がインドを含め10カ国以上あること、報告数が実際の症例数よりかなり少ないと推定される国があることを付記しておく。本稿では2013年における主な海外の麻疹の情報を報告する。

WPRの状況と中国における麻疹の増加
WPRの麻疹は2012年と比較しておよそ3倍に増加した。主に中国の増加による。中国では2010年に全国の8カ月~4歳-14歳児(省によって異なる)を対象に補足的ワクチン接種を実施した。使用したワクチンは1億ドーズ以上である。その効果からか2010年には30,000例以上あった麻疹症例数が、2011年9943例、2012年6183例と減少した。しかし2012年の後半から増加が認められ、2013年には26,912例、うち死亡者27名と報告されている。これはWPRの麻疹報告数の87%を占める。患者は生後8カ月未満のワクチン未接種者、および15歳以上の 成人層が約30%ずつを占めた。検出された麻疹ウイルスは、従来の中国流行株である遺伝子型H1株が主であったが(約95%)、遺伝子型B3株、D8株、D9株も検出され、その一部は海外との疫学的リンクが確認されている。 1986 年より中国では麻疹ワクチンの2回接種が導入され(2005年以降8カ月児と18-24カ月児)、2006年以降、90%以上のワクチン接種率を維持しているとしているが、麻疹ワクチン接種が困難な地域も残っている。定期接種率の維持、ハイリスク地域への補足的ワクチン接種、サーベイランス体制の強化等の対策で麻疹の流行の阻止を試みている2,3)。中国と国境を接するラオス、ベトナムの北部でも遺伝子型H1の麻疹の流行があり、中国との関連が考えられている。また10月頃からフィリピンでの症例が増加し2,417例の麻疹が報告された。フィリピンの流行は2014年の日本の輸入麻疹の主たる原因となっている。

ヨーロッパの麻疹の流行
EURでは2011年以降、麻疹の流行が継続している。EURに所属する53カ国の35カ国から麻疹が報告され、2013年には黒海周辺のアゼルバイジャン(855例)、ウクライナ(3,308例)、グルジア (7,997例)、トルコ(7,371例)、ルーマニア(1,074例)などで大きな流行があった。これらの国ではD8 型ウイルスとともに、昨年までの主流だったD4型も検出されている。一方、オランダ(2,499例)、ドイツ(1,773例)、イタリア(2,372例)、英国(1,900例)などで流行が報告されている。特にオランダでは正統派プロテスタントが多い「Bible Belt」と呼ばれる地域で流行した。罹患者の多くは宗教的、あるいは個人的信条からワクチン接種を拒否したワクチン未接種者であった。検出されたウイルスの主流は遺伝子型D8株であった4)

米国における麻疹の状況―宗教コミュニティにおけるアウトブレイク
米国が2000年に麻疹排除を宣言してから2012年までに、毎年37~220人の麻疹例が報告されてきた。2013年は8月までに159例の症例が報告され、157例が輸入関連例(うち42症例は輸入例)であった。18カ国からの輸入が確認され、ヨーロッパからが半数を占めた。麻疹ウイルスは遺伝子型D8、B3、H1、D9が検出されている。患者の約92%がワクチン未接種者か接種歴不明者であった。アメリカ在住者のワクチン未接種者のうち79%が宗教上、あるいは信条による意図的なワクチン拒否者だった。3~6月にニューヨーク市で発生した患者数58名に及んだアウトブレイク、4~5月に発生した23例に及んだノースカロライナのアウトブレイクも宗教的理由によるワクチン未接種者が多いコミュニティへ、海外からの帰国者が麻疹を持ち込んだために発生している5)

2012年、2013年と日本では麻疹症例数が300 を下回り、その多くが輸入例、輸入関連例である。また実質的には麻疹排除状況にあると考えられている。アメリカやオランダにみられるように感受性者が多いコミュニティ、地域が存在すれば、感染力の強い麻疹は容易に大規模なアウトブレイクに至る。高いワクチン接種率の維持、サーベイランス体制の充実、早期に対応できる体制の確保が麻疹排除の達成、維持のために重要である。

 

参考文献
1) WHO, Measles Surveillance Data, http://www.who.int/immunization/monitoring_surveillance/burden/vpd/surveillance_type/active/measles_monthlydata/en/
2) WHO Western Pacific Region, WHO Representative Office China, Measles http://www.wpro.who.int/china/mediacentre/factsheets/measles/en/
3) WHO Western Pacific Region, Measles-Rubella Bulletin, vol 8 (1), January 2014, http://www.wpro.who.int/immunization/documents/MRBulletinVol8Issue01.pdf?ua=1
4) WHO Regional office for Europe, WHO EpiBrief, 2013(2) http://www.euro.who.int/__data/assets/pdf_file/0003/191910/EpiBrief_2_2013_FINAL.pdf
5) CDC, Measles-United State, January 1-August 24, 2013, MMWR 62(36): 741-743, 2013 http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/mm6236a2.htm

 

国立感染症研究所ウイルス第三部 駒瀬勝啓 竹田 誠

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan