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2013~2014年の麻しん海外輸入例のまとめ

(IASR Vol. 35 p. 98-100: 2014年4月号)

 

2013年の麻しん届出は、第48週(診断週)から2014年4週にかけて海外感染疑い例が増加し、その後、国内感染例が増加するという特徴がある。そのため、2013年第1週~第47週までと、第48週以降について、感染症発生動向調査(患者発生動向調査および病原微生物検出情報の両方)より得られる情報を元に、海外輸入例の状況について記述することとした。なお、集計は、2014年3月13日時点である。今後、遅れ報告等により数値は若干変動する可能性がある。

2013年第1週~2013年47週(2012年12月31日~2013年11月24日)に診断された麻しんは210例であり、前年同時期の271例の0.75倍であった。男性127例、女性83例であり、平均年齢は27.2歳(中央値29歳、2カ月~77歳)であった。遺伝子型別が判明したものが10例含まれ、B3型7例、D8型4例、D9型3例、H1型1例であった。推定感染地域について15例(7%)で海外渡航歴が記述されており、内訳は中国6例、タイ3例、スリランカ、台湾、ベトナム、インドネシア/フィリピン、タイ/中国各1例、渡航先不明1例であった。

この間の都道府県別の報告数は東京都64例、神奈川県29例、埼玉県27例、愛知県23例、千葉県20例、大阪府15例、静岡県、兵庫県各6例、京都府5例、三重県4例、北海道、栃木県、滋賀県、福岡県各2例、福島県、新潟県、岡山県各1例であった。感染地域は国内193例、国内または国外(台湾)1例、国外15例、国内・国外不明1例であった。

2013年第48週~2014年10週(2013年11月25日~2014年3月10日)に診断された麻しんは183例であり、前年同時期63例の2.9倍であった。男性92例、女性91例であり、平均年齢は16.2歳(中央値12歳、4カ月~52歳)であった。2014年第8週には麻しん脳炎が1例報告された。遺伝子型別が判明したものが105例含まれ、B3型99例、D8型4例、D9型2例であった。

この間の都道府県別の報告数は東京都31例、京都府25例、千葉県21例、神奈川県20例、埼玉県16例、愛知県、大阪府各12例、静岡県10例、広島県9例、兵庫県、岡山県各4例、茨城県、福岡県、宮崎県各3例、群馬県、山口県各2例、新潟県、長野県、岐阜県、三重県、滋賀県、沖縄県各1例であった。感染地域は国内が128例(70%)、国内または国外2例(1%)、国外52例(28%:フィリピン41例、インドネシア、スリランカ各2例、インド、オーストラリア、グアム、米国、ベトナム/マレーシア各1例、不明2例)、国内・国外不明1例(1%)と報告され、フィリピンが最多であった。ワクチン接種歴別報告数では、183例中接種歴のない、または不明の症例が146例(80%)であった。

また、2013年12月~2014年3月(17日現在)の間に、病原微生物検出情報に麻疹ウイルスの検出が報告された135例中、50例に渡航歴が記載されていた。そのうち、41例(B3型39例、D9型1例、型不明1例)がフィリピンへの渡航歴であった。

麻しん報告数は2013年第48週以降増加傾向が続いている()。2014年第4週までは海外からの輸入症例の割合が高かったが、その後は国内感染例の割合が高い。感染地として海外が推定されていた症例の、2013年第1~47発症週での割合は7%(15/204)であったが、2013年第48~2014年第4週では44%(44/100)に増加し、2014年5週~10週は11%(8/73)と低下した(図)。これは、いったん輸入例として入ってきた麻しんウイルスが、地域によっては国内流行しつつあることを示唆しており、憂慮される状況である。また、医療機関内での感染が疑われる症例が、少なくとも22例報告されている。

フィリピンの2013年末から続いている麻疹大流行1-2)により、海外でも輸入例から国内感染といった事例が起きている3-7)。日本と同様、症例者のほとんどは接種歴のない、または不明の症例であり、定期接種の重要性を改めて示している。医療機関における発熱・発疹者に対する聞き取りの工夫として、麻しんが発生している国への渡航歴や麻しん様患者との接触歴、予防接種歴などの確認を慎重に行うことが望まれる8,9)。また、国内で麻しん患者の報告がある地域においては、医療機関内での感染が疑われる症例も少なくなく、医療機関における院内感染対策の徹底が重要である10)。発熱・発疹などの麻しん様患者との接触がある方が、麻しんを疑われる体調不良を自覚した場合には、二次感染防止のため、麻しんの疑いがあることを予め医療機関に電話で伝えた上で受診することが望ましい。空気感染によって伝播し、重症度も高い、しかしワクチンにより予防可能な麻しんが再び国内で流行しつつあることへの厳重な警戒が必要である。

 

参考文献
1) National Epidemiology Center, Public Health Surveillance and Informatics Division, Depart- ment of Health. Republic of the Philippines, Disease Surveillance Report. Measles cases in the Philippines, Morbidity Week 7 February 9?15, 2014 http://nec.doh.gov.ph/images/MEASLES2014/measlesmw7.pdf
2) 厚生労働省検疫所、2014年03月19日更新、東アジアと東南アジアにおける麻しんの流行状況について(更新1) http://www.forth.go.jp/topics/2014/03191525.html 
3) World Health Organization, Western Pacific Region, Expanded programme on immunization, Measles-Rubella Bulletin http://www.wpro.who.int/immunization/documents/measles_rubella_bulletin/en/index.html
4) World Health Organization, Western Pacific Region, Representative Office Philippines, Measles situation in the Philippines-FAQs, January 2014 http://www.wpro.who.int/philippines/mediacentre/features/measles_faq/en/
5) Centers for Disease Control and Prevention, Travelers’ health, Measles in the Philippines, (Updated: March 18, 2014) http://wwwnc.cdc.gov/travel/notices/watch/measles-phillipines
6) S Lanini, et al., Euro Surveill. 2014;19(10):pii= 20735 http://eurosurveillance.org/ViewArticle.aspx?ArticleId=20735
7) Public Health England. Health Protection Report, Measles cases with links to the ongoing outbreak in the Philippines, 14 March 2014, Volume 8, No 10 http://www.hpa.org.uk/hpr/news/default.htm#msls
8) 国立感染症研究所感染症情報センター, 麻しん発生時対応ガイドライン 第一版 http://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/measles/pdf/30130315-04html-pdf/20130315pdf02.pdf
9) 国立感染症研究所感染症情報センター, 医師による麻しん届出ガイドライン 第四版 http://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/measles/pdf/30130315-04html-pdf/20130315pdf03.pdf
10) 国立感染症研究所感染症情報センター. 医療機関での麻疹対応ガイドライン(第四版) http://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/measles/pdf/30130315-04html-pdf/20130315pdf04.pdf

 

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