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保育園における腸管出血性大腸菌O111の集団感染事例―福岡市

(IASR Vol. 35 p. 123-124: 2014年5月号)

 

2013年7月、福岡市内の保育園において腸管出血性大腸菌(EHEC)O111:H-(stx1&2)による集団感染事例が発生したので概要を報告する。

2013年7月22日に、市内医療機関より5歳女児のEHEC O111感染症発生届が管轄保健所へ提出され、保健所は家族および5歳女児の通園する保育園の聞き取り調査を実施した。保育園での聞き取り調査において、当該保育園の1歳児、2歳児および3歳児クラスの園児79名中15名が、7月11~17日にかけて下痢・腹痛症状を呈していたことが判明した。そこで、発生届が提出された5歳女児の家族の便3検体に加え、当該保育園すべての園児および職員の便168検体と給食の保存食(7/9~7/23)250検体および調理室のふきとり17検体について検査を実施した。検査の結果、5歳女児の2歳の妹(患者と同じ保育園の1歳児クラスに通園)と母親、園児48名および職員1名の便からEHEC O111が検出された。感染拡大を防ぐために、EHEC O111が検出された園児および職員の家族の検便、1回目の検便でEHEC O111が検出されなかった園児および職員について陰性確認の検便を2回実施したところ、園児の家族17名、園児10名および職員1名からEHEC O111 が検出された。最終的には計333名(延べ671検体)の検体が当所に搬入され、8月30日に全感染者のEHEC O111陰性が確認され、本事例は終息した。

今回の集団感染事例では、園児60名(初発の女児とその妹を含む)と職員2名、園児の家族18名の計80名からEHEC O111:H-(stx1&2)(以下O111)が検出された。分離には、ソルボースマッコンキー寒天培地、亜テルル酸カリウム添加(2.5 mg/L)ソルボースマッコンキー寒天培地およびクロモアガーSTEC寒天培地を使用した。本事例で分離された80株は、いずれも同一の生化学性状を示し、リジン脱炭酸反応は陰性で、運動性は認められなかった。また、代表株25株についてパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)を実施したところ、2株が1~2バンド異なっていたが、それ以外は同一パターン(図1)を示した。したがってこれらの解析結果から、本事例は同一の感染源であることが推察された。

今回の集団感染事例においてO111が検出された園児の共通食は、当該保育園で提供された給食であり、全園児と職員が喫食していた。そのため、7/9~7/23までの給食の保存食、調理室のふきとりおよび調理従事者の便について検査を実施したが、O111は検出されなかった。また、O111が検出された園児の発症日も、6月29日~7月30日まで様々で、偏りもみられなかったことから、給食による食中毒ではなく、園児間および家族間での二次感染による集団感染事例であると考えられた。実際に、集団検便で陰性確認を実施している期間中にも園児10名および職員1名から新たにO111が検出された。陰性確認は、1回目の集団検便でO111陰性であった園児と職員について1週間後に2回目の集団検便、1および2回目の集団検便でO111陰性の園児および職員についてはさらに1週間後に3回目集団検便を実施して、O111陰性であることを確認した。この陰性確認の結果、2回目の検便で園児8名と職員1名から、3回目の検便で園児2名から新たにO111が検出された。このように、今回の事例は,陰性確認を実施している期間中にも二次感染により新たな患者が発生しており、事例探知から終息まで40日と長い期間を要した。また、感染拡大は、無症者や軽症例が多く、早期発見が容易ではなかったためにO111陽性者の登園が続けられ、起こったものと考えられた。無症の園児数は、O111が検出された園児60名のうちの 17名(28.3%)で、有症者の入院事例はなく、軽症例が多かった。さらに、当該保育園における手洗い指導の不足や、おむつや排泄後の清拭に使用した布(以下、清拭布)の処理および保管方法、持ち帰りなどの衛生管理もその感染拡大に影響した可能性があると思われた。そのため、保健所は、排泄時は保育士が園児の手洗いを確認すること、清拭布は廃止してウエットティッシュを使用し、紙おむつも一緒に保育園で廃棄するよう指導を実施した。

EHEC は、微量の菌により感染が成立するため、感染が拡大しやすく、特に保育園・幼稚園などの小児関連施設での集団発生が報告されており、これらの事例の中では患者発生に伴う家族内の二次感染も多く発生している。したがって、二次感染のリスクが高い保育園などにおいては、排便後や食事前の手洗い、汚物の適切な処理、園内の定期的な消毒など、二次感染防止対策を厳格に実施することが重要である。

 

福岡市城南区保健福祉センター 
  酒井由美子 中村 均 石橋 忠 永野美紀    
福岡市保健環境研究所 
  麻生嶋七美 本田己喜子 藤丸淑美 尾崎延芳 徳島智子 
  松田正法 重村久美子 吉田英弘 佐藤正雄

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