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保育園で発生した腸管出血性大腸菌O103とO26の集団感染事例―足立区

(IASR Vol. 35 p. 124-125: 2014年5月号)

 

2013年8月に、東京都足立区内の保育園において腸管出血性大腸菌(EHEC)O103:H2(VT1産生)(以下O103とする)とO26:H-(VT1産生)(以下O26とする)による集団感染事例が発生したので概要を報告する。

2013年8月9日に、区内医療機関から足立保健所にEHEC O103の患者発生届があった。患者は1歳児クラスの2歳男児(以下Aとする)で、7月31日から下痢症状を呈し、8月3日に医療機関を受診、検査の結果O103が検出された。足立保健所は、探知後直ちにAの保護者に対し感染症法に基づく行政対応(家族への健診勧告)や家庭内での二次感染予防について助言するとともに、保育園内での同様の症状者の有無を調査し、13日よりAの家族とAに接触する保育園職員および症状のある園児の検便を実施した。8月15日に下痢・血便を発症していた園児からO103が検出されたため、園内の二次感染が確認できた。また、2歳児クラスに9日から血便の症状を発症、12日から別の医療機関に受診している女児(以下Bとする)がいることがわかった。そのため、15日に保育園に保健所職員が訪問し、職員に対する聞き取り調査、給食室の検査、消毒の指示、園児と職員の健康観察の依頼、また保護者への説明を行った。そして、Aが在籍する1歳児クラスと1歳児と合同保育の機会がある2歳児クラス、そして職員全員に検便検査を実施した。16日に足立区は「腸管出血性大腸菌O103の保育園内感染について」のプレス発表を行った。

17日に医療機関よりBの検便からO26が検出され、足立保健所にEHEC感染症の発生届があった。保健所で行った検便の結果、21日までに、1歳児クラスと2歳児クラスの園児11名と家族2名からEHECが検出され、東京都よりEHEC感染症(O103およびO26)集団感染事例についてプレス発表が行われた。その後さらに1歳児クラスと2歳児クラスの園児から3名、家族から新たに2名からEHECが検出されたが、この2名はともに菌検出園児の兄弟で同保育園の在園児であった。そのため、検便対象を23日に3歳児、27日に5歳児に広げたが、当該児以外は全員陰性であった。9月9日までに、患者と無症状病原体保有者全員の検便陰性を確認し、これをもって終息と判断し、疫学調査を終了した。

本事例の対象園児54名、全職員(調理従事者を含む)39名、保菌児の家族(対象クラスに在籍している園児を除く)57名、計150名の検査の結果、EHECの検出者は園児17名、園児の家族2名、計19名で、血清群はO103が11名、O26が9名から検出された(表1)。(1名からO103とO26が同時に検出されたため重複あり)。内訳は、1歳児クラス12名中7名がO103陽性(4名が患者および有症状者)、2歳児クラス14名中7名がO26 VT1陽性(3名が患者および有症状者)、2名がO103 VT1陽性(1名が有症状者)(*O103 VT1とO26 VT1同時に検出された有症状者1名出たため重複あり)、3歳児クラス14名中1名O103 VT1陽性、5歳児クラス14名中1名O26 VT1陽性、職員は全員陰性、家族はO103陽性1名、O26陽性1名であった(表1)。患者および有症状者の症状は血便4名、下痢6名、腹痛3名、嘔吐2名であった。

糞便検体はクロモアガーSTEC、CT-RMAC、CT-SMACおよびDHLを用い塗抹培養を行った。クロモアガーSTEC、CT-RMACで得られた典型的な単独コロニーの菌液のテンプレート、およびCT-SMAC、DHLのコロニースイープ法により得られた菌液のテンプレートを用いVT毒素遺伝子の有無および毒素型をリアルタイムPCRにより確認した。O血清群の検査は寒天平板で37℃、約6時間培養増殖させた菌苔を用いて行った。今回、コロニースイープ法で陽性となった検体は、すべてクロモアガーSTEC、CT-RMACの直接分離平板から菌を得ることができた。O103、O26の毒素型はともにVT1であった。O103のうち1例はR型菌で血清群が同定できず、当初はOUTとして取り扱ったが、国立感染症研究所(感染研)においてO103 およびO26 の抗原遺伝子を標的にしたPCRによりO103 陽性が確認されたためO103 に修正した。

今回、足立保健所で分離したO103 10株、O26 8株、OUT 1株、計19株について、感染研において制限酵素XbaIを用いたパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)解析が行われた(図1)。O103、OUT株はすべて同一パターンを示し、O26株は7株が同一パターン、1株は1本のバンドの差異であった。2012年以降に他地域から感染研に分離・送付された株のなかにO103株の同一パターン株はなかった。O26株のうち同一パターンを示す7株は、2013年に福島県で分離された散発事例の幼児由来株と同一パターンであった(2014年2月現在)が、関連性については不明である。

今回菌検出者に対しては、ホスホマイシン使用による除菌、未使用による自然除菌の両方法を説明し、保護者に選択していただいた。陰性確認検査を行う中で使用者1名(患者)、未使用者2名(健康保菌者)から再度O26が検出され、うち1名(健康保菌者)は8月20日採取便からの最初の菌検出以降9月5日まで6回検出され、9月6日にやっと陰性確認がされた。

今回の事例では、発症が散発であり、同じ給食を摂取している他のクラスや、第2保育所では発生がなかった。また、8月1~16日に提供された給食の検食65検体から、EHECは検出されず、調理担当職員の検便も全員陰性であった。以上のことから今回の集団発生は給食による食中毒ではなく、人から人への二次感染が原因と考えられた。感染拡大の要因としては、O103、O26の2種類の菌が、それぞれ日常保育の中で感染が広がったと推測される。発症者の発症日はO103が8月1~12日、O26が8月8~15日であった(図2)ことから、園において、はじめにO103が1歳児クラスで感染が広がり、そこから2歳児クラスに感染、O26はO103感染と同時あるいは以降に2歳児クラスで感染が広がったと推定される。感染経路については特定できなかったが、特にオムツ交換時に使用している水栓のハンドルや、プールを通しての感染の危険が高いと思われた。3歳児、5歳児の感染は1歳児、2歳児の兄弟のみであったので、園内での二次感染はなく、家庭内での感染と思われた。家庭内は保育園より濃厚接触であるため感染が成立したものと思われる。乳児クラスで感染者が多く発生した理由は、特に排便が自立せず、手や物をすぐ口に運ぶことが多い低年齢の集団生活においては、感染力の強いEHECが持ち込まれると、容易に二次感染が起こるということを再確認した事例であった。

 

足立区衛生試験所 郡山洋一郎 青木眞里子 中村由美子 大川 元     
足立区足立保健所保健予防課 増田和貴 北川ゆかり
足立保健所中央本町保健総合センター 福田智恵 川村美弥子     
郡山市保健所検査課 橋本正寿     
福島県衛生研究所微生物課 菊地理慧 千葉一樹     
国立感染症研究所 石原朋子 伊豫田 淳

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