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宮崎市内保育所での腸管出血性大腸菌 O26 VT1 & O103 VT1混合感染事例

(IASR Vol. 35 p. 126-127: 2014年5月号)

 

2013年8月、宮崎市内の保育所で腸管出血性大腸菌(EHEC)O26:H11(VT1)、O103:H2(VT1)の混合感染と思われる44名の集団感染事例が発生したので、その概要を報告する。

事例の概要
8月21日、医療機関から当保健所にO26(VT1)感染症1名の発生届があった。患者は市内保育所(児童161名利用、職員28名)に通う5歳児で、8月14日から軟便・下痢症状を呈していた。

当所は直ちに患者家族と保育所に対する聞き取り調査を実施し、衛生管理状況、有症者の状況等を確認した。その結果、保育所内で消化器症状を呈する児童の発生動向に変化がなく、調査日における有症者は患者と別クラスの児童1名のみであったため、プールの使用注意、保育所内の衛生管理の徹底、健康調査の実施、有症者への受診勧奨等について助言を行った。

8月27日、別の医療機関からO26(VT1)感染症1名の発生届があり、患者が同じ保育所に通う1歳児と判明したため、8月28日、2回目の保育所調査を実施した。調査の結果、1例目患者と2例目患者の接点が特定できなかったことから、重症化のリスクの高い0・1歳児クラスの児童と職員に対し検便検査を開始した。また、感染源調査のため保育所内のふきとり調査も実施した。

8月30日までに医療機関から新たに児童1名のO26(VT1)感染症発生届があり、当所の検便検査でも7名(児童5名、職2名)のEHEC感染者が判明したことから、既に保育所内で感染がまん延している可能性を考慮し、検便対象を全児童に拡大した。また、VTが検出された9名のうち3名(児童1名、職員2名)の血清型がO103であったことから、保育所内でO26(VT 1)とO103(VT1)が同時にまん延している可能性が示唆された。

その後9月11日までに、保育所の児童と職員、および感染者の家族から44名のEHEC感染者が判明し、うち36名は無症状病原体保有者であった(表)。なお、2名はO26、O103の両方に感染していた。 

保育所内のふきととり調査では菌は確認されず、感染者の最終登園日(9月11日)から2週間以上、新規発生がなかったこと、感染者全員の菌消失を確認したことから、10月4日に本事例が終息したと判断した。

病原体の検査
感染者から分離された44株について、宮崎県衛生環境研究所の協力のもと、H血清型の確認を行い、先に分離された18株については、制限酵素XbaIを用いたパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)によるバンドパターンの比較解析を行った。

その結果、H血清型はO26:H11、O103:H2と確認された。また、PFGEの結果、O26、O103ともそれぞれほぼ同一パターンを示したことから、今回の感染は二つのEHECを原因とする保育所内での集団感染事例であると推測された()。

考 察
本事例では、PFGE解析により二つのEHECによる保育所内での集団感染であることが推測された。感染者の発生状況をみると()、O103(VT1)感染者は3~5歳児クラスが高い陽性率を示しており、同じフロアで生活し、トイレを共有する等の接点があることが感染拡大の一因と考えられた。一方、O26(VT1) 感染者は明確な接点のない1歳児、4歳児クラスが高い陽性率を示しているなど、明らかな感染源の特定は困難であった。

今回判明したEHEC感染者のうちO26(VT1) 感染者の約7割、O103(VT1) 感染者の約9割が無症状病原体保有者であったことから、感染者が軽症あるいは無症状であったことが、感染者発見の遅れと感染拡大の最大の要因となったと推測される。また、保育所内のプールやトイレ、手洗い場を複数のクラスが共有していたこと、日頃の衛生管理に不備な点があったことも、感染拡大を助長させた要因と考えられる。

今回の事例にあたっては、無症状であるにもかかわらず感染が判明し、菌消失までの長期間、登園を控え服薬することに疑問をもつ保護者もあった。保育所内のEHEC集団感染を予防するためには、EHECや日頃の衛生管理に対する知識の普及・啓発を行うとともに、軽度有症者への受診体制についても検討すべき課題と考えられた。

 

宮崎市保健所
 中森 愛 串間美和 川野昭子 河野和也 田村堅太 猪股知沙佳 比恵島寛子 米良博子
 髙橋通郎 田村泰彦 宮永善史 野田重博 小牧 誠 春山 優 竹内彦俊 坂上祐樹
 伊東芳郎
宮崎県衛生環境研究所
 永野喬子 黒木真理子 吉野修司

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